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 璋子としては、協力を拒まれる可能性も視野に入れていた。そうしたらもう潔く諦めるしかないだろうと思っていたのだが、返ってきたのは首肯であった。

「ちょうど僕も周世家へ挨拶に行く用がありましたし。けれど、本当に大丈夫ですか? 女性がするにはあまりにも」

「無謀とおっしゃりたいのですか」

「塀を乗り越えたり木をよじ登ったりするのがそうでないとは、僕には言い切れないのですが……」

 和泉は計画が浅いとは言わなかった。代わりに苦笑を浮かべてそれを実行しようとしている小柄な璋子を見下ろした。非番だと聞いていたが現れた彼は軍服姿だった。対する璋子は、学校に行くでもないのに袴にブーツスタイルである。動きやすさを追求するなら本当は和泉のような洋装をするのがいいのだろうが、生憎波照間家には彼女のサイズに合う物がない。

 単純な計画だ。まず和泉に周世家を訪れてもらい家人の気を引いているうちに、璋子が屋敷に忍び込む。さらにはアリスに部屋の窓を開けてもらったら、部屋のすぐ傍にある桜をよじ登ってアリスと会う。少し話したいだけなので、部屋の中まで入る必要はないだろう。

「走ったりする運動は確かに苦手ですけど、こう見えてよじ登るのは得意ですから」

「へえ。見てみたいですね」

「疑ってらっしゃいますわね」

「いえ、そうではなく。加担する者として見られないのが残念というだけです」

 恥を忍んで計画を明かしているのに追い打ちをかけるようなことを言う和泉を睨んだ璋子だったが、優しい目に見下ろされていると涙が溢れてきそうになったため急いでそっぽを向いた。積極的に嫌われようとなどしていないのだから腕白な面など見せたいはずもないのに、意地悪な人だ。とはいえ彼が彼女の気持ちなど知っているわけもないので、責められてもお門違いというものだろう。結果璋子は、涙をこらえるため頬を膨らませて黙り込むのだった。

「いや、僕はただあなたが怪我をしたりしないかが心配で」

「怪我なんかしません。得意と言ったでしょう」

「ああ、そんな顔しないでください。大丈夫、絶対に成功させますから」

 璋子が泣きそうになっていることに気づいたのだろう、軍人らしくもなくおろおろと狼狽える和泉の様子がおかしくて思わず彼女は噴き出した。泣かずに笑ったことで和泉はほっとしたようだ。和やかで温かい空気に浸っていたくなり、慌てて璋子は気を引き締める。目的はアリスだ。

「まるで囚われの姫を救出する勇敢な騎士のようですね」

 午後とはいえまだ日のある時間帯なので、約束はしないで行った方がいいだろうという和泉の提案でそのまま周世家に向かった二人は、これから璋子がよじ登ろうとしている塀を見上げていた。おあつらえ向きに、周世家を取り囲む塀の傍にはいくつか電柱が立っているのでそれから飛び移ろうという算段だった。もしかしたら同じことを考える泥棒がいるんじゃないだろうか、だとしたら塀の向こうに何かしら対策がしてあるのではと考えていた璋子は、和泉の何気ない呟きを聞き咎めて顔を顰める。

「救い出すなんて、そんな大層なことをするつもりはありません。ただ、このままアリスさんの意思を確認できずにあなたの元へ嫁いでしまうと……。もしかしたら和泉様ならアリスさんを閉じ込めておいたりせず会わせてくださるかもしれませんけど」

 アリスにとっても、茜に告白するということがこういう結果に陥るかもしれないことを予測できていないはずがなかっただろう。それでもなお実行せずにはいられなかった真意というものを、聞いてみたかったのだ。それはアリスが和泉家に嫁いでからでは遅いのだ。恋心を秘めたままそれを殺してまでも、彼女と会うことができるとは到底思えない。

 すると隣の和泉が表情を曇らせた。その顔のまま悲しげに、彼は彼女を見た。物言いたげではあるがここで聞いてはいけない気がして、璋子は無理やりに和泉から視線を引きはがす。

「では和泉様、お願いしますね」

 周囲に人がいないことだけを確認し、和泉が動き出すのを待たずに電柱にするすると上り始めた璋子に「分かりました」とだけ告げて彼は背を向けた。協力を請うている相手に対する態度としてふさわしくないことは分かっていたが、親友の婚約者となるべき者への対応としては間違っていないはずだ。言い聞かせて璋子は塀に飛び移り、雑草が生い茂る中へと飛び降りる。正面の門から和泉が訪問したらしき声と邸内で人が慌てて走る音が微かに聞こえてきた。まずまずの成功である。

 周世邸は南向きの庭は赴きある風情に整備されているが、裏はこの通りに放置気味だ。防犯は大丈夫なのかと再び他人事ながら不安を覚えつつ璋子は、そっと音を立てないように立ち上がる。アリスの部屋は屋敷の南西だ。小柄な背丈が幸いしたのか、身を低くして移動する璋子に気づく存在はいなかった。

 だが目的の桜の木を登ろうとして、一瞬体が硬直する。幹など這い回っても食べるものなどないだろうに、うぞうぞと動き回る毛虫を見つけてしまったからだ。しかも一匹や二匹ではない。悲鳴を上げるほど大の苦手というわけでもないが、さりとて得意というほどでもない。それが複数で蠢いているものだから、苦手意識がなくとも背筋が寒くなる。そうして彼女が固まっている頭上で、窓が開く音がした。アリスと和泉の会話が二三聞こえたきり、そこからは一切の音が消える。

 そこでアリスが待っているのだ。そう思うと璋子の心に勇気が宿る。意を決して、幹に手をかけた。なるべく毛虫のいそうにない部分を選びながらよじ登る。

「……ッ!」

 手に触れずともブーツの底が毛虫を踏み潰し、ずるりと滑ったことで悲鳴を上げそうになったがぐっとこらえる。この木はいったいどれほどの毛虫にまとわりつかれているのだろう。またぞろ背筋が凍りそうになったので代わりに、妄想に手を出すことで気をそらす。複数のならずものに蹂躙されてもなお堂々たる凛々しさを失わない桜、やがて「俺はこいつにはかなわない」と膝を折る毛虫を、そっと温かく抱きしめる桜―――。

「璋子さん!」

 妄想を育てすぎるあまり、璋子はうっかりアリスの部屋を素通りしてしまうところだった。上りかけた足を戻して、枝の先で目を丸くしているアリスと対面する。それ以上先に行くにはいかな小柄な璋子でも無理があった。

「まさかと思ったけど、本当に来るなんて……」

「どうしても会いたかったの。元気そうでよかったわ」

 璋子はそう言ったものの、確かに健康面では問題なさそうではあったが精神までもがそうかというと、とてもそうは見えなかった。それも当然だろう。翼をもがれ手足を繋がれて、どうして溌剌としていられようか。それでも璋子に暗い顔は見せまいと、アリスは無理やりな笑みを浮かべて見せる。

「あの方、おかしなことおっしゃるのよ。もうすぐ勇敢な騎士が姫を救いに来るから、なんて」

「……ごめんなさい」

「分かっていますわ。璋子さんに救っていただくためにこうして私、待っているわけでないもの。私、大正の女でしてよ。明治生まれですけど」

 古い体制になどとらわれないと、その目が語っていた。この様子ならそのうち、自力で脱出してしまいそうだった。本当に璋子など必要ともせず。だからこそ茜に告白したのだろう。なんだか自分が道化以下に思えてきて、自然と肩が落ちていく。

「私は、アリスさんのようにはなれないわ。弱くて……騎士の資格なんてないの」

「馬鹿おっしゃらないで。どうして私が告白なんて大それたことできたと思いますの?」

 いびられて追い出され、無価値として無視されるだけの自分が情けなくて思わず俯きかけた璋子を、アリスの声が掬い上げる。

「あなたが『明日をも知れない身』なんておっしゃるから、私、心を決めたんですわ。誰にだって、明日が必ず来るなんて限りませんもの。だから思いを告げてしまおうと思ったのですわ」

 窓枠を掴むアリスの指先が、力を籠めすぎて白くなっていた。璋子は呆然と、そんな彼女を見つめることしかできない。あまりにさりげない、そして気すら入り込んでいなかった言葉がアリスの背を押していたのだ。全ての責任を感じて瞠目する璋子に、アリスは首を横に振る。

「璋子さんは、強くはないかもしれませんわ。でも誰かのために何かをする力は持っていますのよ。それは騎士の力と言えるのではなくて?」

「アリスさん……」

「ありがとう。あなたのおかげで、悔いなくお嫁に行けそうですわ。夢の方は諦めるつもりは毛頭ありませんけど」

 アリスは笑顔を見せたが、それが心からの喜びを表しているものでないことは明白だった。それでも茜へ思いを打ち明けたことで、踏ん切りのようなものが付いたのは確かだろう。触発された璋子の内側で、告げなければならないという思いが込みあがってくる。

「アリスさん、私……」

「いけない、誰か来るわ。璋子さん、また女学校で会いましょう」

 廊下からの音を聞きつけて、アリスは慌てて窓を閉めカーテンを引いた。ノックがされ、間一髪璋子の姿は見られずに済んだ。だが身を伏せただけで、すぐには動くことができそうになかった。肝心なことをアリスに伝えることができなかったせいだ。

(やはり私に、騎士の資格などない……友達にすらそれを言えないのだから)

 果たしてこれが成果のあったことなのかと、璋子は木の上でぼんやりと考えた。和泉に助力を請い忍び込んだ先で、けれど閉じ込められているアリスは本当に折れているわけでもなくて、おそらくこのまま何も変わらず明日は来るだろう。そしてどこにも何の影響力も残すことなく朽ちていくのだ。

(私は、何のために……)

 その時、庭の方から声が聞こえた。和泉と捺希だ。はっと木陰に身を隠すが、ここまで来られたらその程度で逃れられるはずもない。息を詰めていると、どうやら和泉が単独でここへ来ようとしているらしかった。

「アリスさんの部屋から立派な桜が見えたものだから、最後にと思ってね」

「いいけど、とうに葉桜だぞ。今年は毛虫も多いし」

「構わないよ。見たら帰るから、見送りは要らない。君も忙しいだろう」

「ああ、そうしてくれると助かる。じゃあ、元気でな」

 周世氏よりは捺希の方が友人ということもあって和泉を信頼しているのだろう。二人は別方向に分かれ、そして和泉だけが桜の下にやってきた。

「首尾よく済みましたか、璋子さん」

「ええ。おかげさまで」

「気を付けて」

 言われなくてもヘマはしない。いちいち優しく気遣う様がなぜか腹立たしく思えてきて、涙がこみ上げそうになる。だがそれに気を取られたせいか、ブーツの底が再び滑った。毛虫を踏み潰したせいだった。

「あ……」

 璋子の体があまりにも簡単に、宙に浮いた。視界の中で遠くなっていく桜と、彼女の背中からそちらへと流れていく風が、妙に心地よかった。明日は来ずにここで終わるのだという思いが、璋子の心を落ち着かせていた。たとえこの後に、例えようもない苦痛が待っていようとも。

「危ない……!」

 だが諦めて目を閉じた璋子は、和泉に抱きとめられて地面に激突することはなかった。横抱きにされていることに気づき、和泉の顔が思った以上に近くにあることに狼狽え真っ赤になって暴れようとする。

「静かに。人が来ますよ」

「お……下ろしてください」

 うっかり大声を出してしまわないように両手で口を押さえる璋子だったが、和泉は懇願したにも関わらず彼女を下ろそうとはしなかった。見下ろしてくる彼の顔が近いことにばかり気にとられていた璋子だったが、痛みに耐えるような表情にはっと胸を突かれる。

「このまま、連れ去ってしまえたらいいのに」

 耳に届いたのが奇跡のような小さすぎる独白をこぼしたのちに、ようやく和泉は彼女を地面に下ろした。だがその呟きは、璋子の心を浮き上がらせはしなかった。むしろ逆に沈んでしまって、これ以上和泉といることに耐えがたくなるほどだ。

「行きましょう。私はもう、用は済みました」

「ええ、僕も」

 頷くが和泉の足は、根が生えたように動かない。一人だと怪しまれるからという璋子の説得でようやく二人は、周世家の広い敷地から外に出る。次に一歩踏み出せば、もう二度と会うことはなくなるだろうと思うと、日が傾き長くなった自らの影の中に足を踏み入れることに躊躇してしまう。同じことを和泉も思っているわけではないだろうが、彼もまたそこから動き出そうとしなかった。

「さっきのようなことは、あまりおっしゃらない方がよろしいですよ」

 俯いていた和泉が顔を上げた気配がしたが、璋子はそちらを見ていなかった。ただ固く握りしめた己の拳ばかりを見ていた。

「和泉様、私にしてくだすったように誰にでも優しくなさる癖がおありでしょう。そういうのはおやめになった方がいいかと。するなら一人に……私の大事な親友にしてくださいませ」

 璋子は和泉の顔は見ないままに、彼に向かって頭を下げた。だがその頭上に降ってきたのは、意外な言葉だった。

「アリスさんとの縁談は、破談になりました」

「え?」

「実は今週、辞令が交付されましてね。明日から上海に異動です」

 思わず顔を上げる璋子に、半分泣いているような笑顔が向けられていた。いつ帰国が叶うか分からぬ身ともなれば、アリスを待たせるわけにもいかぬと自ら断りに訪れたのだと言う。ただ驚きに目を見張って声も出せぬだけだと思っていた璋子はけれど、気づくと胸元からあの手製のお守り袋を取り出していた。

 決して、出来がいいとは言い難い。だがもう、これで本当に会えなくなってしまう。お礼を言う時はもはや、今この瞬間しかないのだ。明日は、ない。意を決した璋子は、それを彼に差し出した。

「いろいろ、ありがとうございました。こんなものではお礼として釣り合わないことは分かっているのですが、どうか……ご無事で」

 まさか無事を祈ることになるとは思っていなかったため、璋子は自分の声が震えるのを隠し通すことができなかった。そうかといってすぐ死ぬような軟な男だと軽んじているわけではないと弁明するため、彼女は早口でまくしたてる。

「中身は、空です。でも開けないでください。中には……私の心が、入っていますから。あ、いらないなら開けてくだすって結構ですけど、できたら私のいないところで」

 お守り袋を持つ手が、彼女のそれより大きな掌で包まれた。驚き身をすくませた璋子だったが、その温かな手が微かに震えていることを目ざとく見つける。

「あなたの心を、いただいてしまってもいいんですか?」

「い、いらないなら別に無理をなさらずとも」

「嫌です」

 ぎゅ、と力を込めて手を握られる。子供のような物言いをする和泉の顔は、少年のような必死さで頬のみならず耳まで赤くなっていた。つられるまでもなく、璋子は既に真っ赤になっていた。

「一度くださると言ったんだから、これはもう、僕のものです」

 お守り袋が、璋子から離れて和泉の手に納まった。彼はそれを大切そうに胸元に抱きしめている。そうして、長話しすぎたことに気づいたようにはっとする。

「そろそろ戻らないと」

「はい。お元気で。さようなら」

 急速に失われていくぬくもりが惜しくて手を握り合わせていた璋子は、これ以上彼を視界に入れていると涙が零れそうになってしまうと思い、早々に背を向けた。それでも胸には、和泉がお守り袋を受け取ってくれたという温かみが残っている。その微かな熱が悲しみに変わってしまいそうに思えて、益々泣きそうになる。

「璋子さん」

 そんな彼女に、和泉が呼びかけた。璋子は歩みは止めたままだが振り向かない。振り向けない。先刻見た少年らしさは幻だったのかと思うようないつもの平静さで、彼は言う。

「毛虫が付いていますよ」

「ひっ」

 ぎしり、と璋子の体が硬直した。これまで苦手ではなかったものなのに、明らかに苦手意識が生まれている。靴裏に、まだ滑った感触が生々しく残っているためだ。

「と、取ってください……どこです? 頭ですか背中ですか」

 見える範囲にはいないがどこかであれがうぞうぞしているかと思うと、体が震えそうになる。そうして固まっている璋子に近づいた和泉は、彼女を後ろから抱きしめた。小柄な璋子は長身の彼の腕の中にすっぽりと納まってしまい、今度は別の意味で硬直することになる。

「毛虫は嘘です」

「な……嘘って……。こんな時にいじわるを」

「聞こえますか? 僕の、心」

 恥ずかしさのあまり早鐘を奏でる璋子の心臓と、同じくらいの速さの鼓動が伝わってきた。腕の中で和泉の顔を仰ぎ見ようとした彼女の視界が、彼の手に覆われる。だがちらりと、蕩けそうな笑顔を浮かべて頬を染める顔が見えた。なんでそんなけしからん表情をしているのかと腰が砕けそうになっている璋子に、和泉が囁いた。

「僕が優しくするのもいじわるするのも、あなただけです。誤解してもらっては困ります。……それでは、いずれまた」

 それだけ言って、彼の手は彼女を離れた。今度こそ本当に腰が砕けてしまい璋子はそのまま地べたに尻を落とした。去っていく軍靴の音が聞こえなくなっても、通行人が怪訝そうに見ていても、彼女はそこを動くことができないでいた。

「璋子さん! どうなさったの?」

 夕闇が辺りを包みだしたころ、門を開いてアリスが飛び出してきた。どうやら本当に自力で脱出してきたようだ。後ろから女中が戻ってくれと懇願しているが、追い返して璋子の傍に屈みこむ。

「大丈夫? 何かありましたの?」

「アリスさん……。あの、あのね、こうやって後ろから抱きしめて」

 まだ動揺が去っていない璋子は唐突に目の前に現れた親友に、今しがたされたことを簡易に演じて見せた。ばっと素早く口を手で覆ったアリスは全身を震わせる。

「こういうのって、どうかしら」

「璋子さん……! それって素敵だわ、素敵すぎる……。でもそれって、誰と誰かしら。捺希と……和泉少尉?」

 アリスの中では当然のように男同士に変換されていた。璋子としては固有名詞だけ伏せて事実を語っていたつもりだったので、拍子抜けしつつも確かにおいしい場面であることは否めないと次第に冷静さを取り戻していく。

「私、あの方を題材にするのは無理だわ」

「まあ、そうすると相手に困りますわねえ……でも、ドキドキしますわ。こうなったら茜さんに戻っていただくしかないようね」

 自分を振った相手を堂々と持ち出すアリスを、璋子は尊敬のまなざしで見つめた。恋しい相手を妄想の題材とすることを困難とする璋子とは大違いだ。そういえばアリスはもうずっと前の思いを秘めている時から関係なく題材としていたのだ。やはり彼女はすごい人だと改めて思う。

 真っ赤な夕日が二人の少女を照らす。片方は妄想に興奮して、もう片方は先刻の出来事が尾を引いて双方同じように赤面しているが、道行く人には同じようにしか見えないだろう。夕日のせいなのか、自らの熱に焼かれているのか、見分けもつかないという意味では。ただ微笑み合っているので、不幸せでないことは明らかだった。


end

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