きっとこれが、運命の……恋!? ―何度だって君を捜し、出会い、そしてきっと恋をするー 【2】
わけもわからないまま、冷たい川に浮いていたオレは、ピンクのドレスの女の子とともに岸へと引き上げられた。
幸い、オレにも女の子にもケガはなかった。
互いに、ずぶ濡れだったけど。
「早まってはいけませんっ!!」
近所の人が貸してくれた毛布にくるまった女の子が、開口一番にそう叫んだ。
「生きていれば、きっといいこともあります」
オレの眼を見て、必死に訴えてくる。
……って、オイ。
「オレ、死ぬなんてこれっぽっちも思ってなかったんだけど」
川を眺めていただけだ。
「あら。そうだったんですの!?」
ケロリと女の子が言った。
「てっきり暗い顔して川をのぞいていらっしゃったから、そうなのかと」
どうしましょうとばかりに、頬に手を当てている。
……コイツ。
オレが自殺すると勝手に思いこんで、突進してオレを川に突き落としたわけか。そして、自分も落っこちたと。
いい迷惑だ。
毛布にくるまってもまだ寒い。軽く身震いが身体を襲う。
う~。こんなガキンチョのせいで、このクソ寒い時期に水泳をさせられたのか、オレは。
恨めしく思いながら、彼女を見る。
オレよりかなり年下のガキンチョ。
濡れて顔や身体に貼りついた髪は、栗色。雫の滴るドレスからわかる身体は、まだまだ成長の余地があるといえば聞こえはいいが、ようはペッタンコの痩せぎす体型のチビ。
どう見ても年下。
「本当、私の勘違いだったのですね」
オロオロと泣きそうな顔を作られる。
「えっ、やあ、あの……………」
そういう顔をされると、こっちはどうしたらいいんだ!?
戸惑い、濡れた頭を掻くしかなかった。
「お嬢さまっ!!」
取り囲む群衆をかきわけ、初老の紳士が顔を出した。川に落ちたオレたちよりも蒼白な紳士の顔。
「ああ、ハンス。いいところに来たわ」
ガキンチョがスックと立ち上がる。
「この方を屋敷で介抱したいと思うの。馬車を用意してちょうだい」
……お嬢さま!? 屋敷!? 介抱!? 馬車!?
その耳慣れない言葉の連続に、オレは何度もまばたきをくり返した。
よく見れば、ガキンチョのドレスも高そうな仕立てだ。
「せめてものお詫びに、ぜひ家で休んでいってくださいな」
ガキンチョが、オレの冷えた手を取った。
その仕草は優雅で、お嬢さまっぽくはあったのだけど。
……ずぶ濡れのままで言われてもなあ。
上品もへったくれもない。
オレが馬車で運ばれたのは、オレが暮らす場所とはぜんぜん違う、屋敷がポツンポツンと並ぶ、街の郊外、高級住宅地だった。
お隣さんは、はるか遠く、おかみさんの怒鳴り声はしない。するのは、ヒバリの鳴き声と、庭の木のざわめき。
そして。
オレと、特にこのガキンチョお嬢の姿に驚くメイドたちの叫び声。
「お嬢さま――――っ!!」
そう叫んだのは、ひときわ恰幅のいいメイドのおばさん。
「ただいま、アンナ」
ガキンチョはケロリとしているが、アンナと呼ばれたおばさんは、顔が真っ青だ。
「うっかり川に落ちちゃった」
うっかり!? あれが!?
テヘッと笑うガキンチョに、じっとりした視線を送っとく。
「この方にも迷惑をかけてしまったから、お願い。彼にもお風呂を用意して差し上げて」
「まあ……」
オレがお風呂の後に用意されいていた服で、案内された部屋におもむくと、そこには同じように真新しいドレスに身を包んだガキンチョが立っていた。
「お似合いですわ」
……そうだろうか。
新しく、それでいて着慣れない豪奢な服に包まれたオレを見下ろす。
こんな服、街で見かけることはあるけれど、自分が着るのは初めてだ。村の祭りでだって、こんないい服は着たことない。
「差し上げます。川に突き落としてしまったお詫びに」
「えっ!?」
思わず声が裏返った。
「そして、よろしければ、こちらにお泊まりくださいな」
「え、いや、だって…」
さすがに、そこまでは…。
「今から帰っても、街につく頃には日が暮れてしまいますわ」
言われて、窓の外の景色を見る。まだ、空に青さは残っているものの、少し赤みが差し始めている。たしかに、これなら家にたどり着く頃には、とっぷり日が暮れてしまっているだろう。
「せめてもの、お詫びです。泊まっていってくださいな」
懇願するような眼でこちらを見られると…。
「……わかりました。では、今日だけ、お言葉に甘えて」
遠慮し続けるのも気が引けてしまう。
「ありがとうございます、えっと…」
礼を言おうとして、言葉に詰まる。
「ああ。申し遅れましたわ。私、アレクシア・フローラ・ハーグリーヴスと申します」
「ハーグリーヴスッ!?」
って、あのハーグリーヴスか!?
……メチャメチャお嬢じゃん。
街で知らない者はいない、大富豪。貴族ではないが、財力だけなら貴族など相手にならないほどの金持ち。ハーグリーヴスの当主の一声で、あの街の経済は左右されてしまうほど。市長も誰もハーグリーヴス氏には逆らえない。そんな相手の、……娘!?
どうりで、オレが通された風呂が異様に立派だったわけだ。
オレが寝そべるように浸かってもまだまだ余裕のある湯船。清潔で温かい、オレのために用意されたタップリのお湯。風呂の窓は、どこまでも続く広大な庭を景色の一部として切り取っていた。
あんな風呂、そんじょそこらの金持ちじゃあ用意できないだろうとは思っていたけれど。
まさか、あのハーグリーヴスのお屋敷だったとは。
「どうかされましたか!?」
キョトンとしたように、その大物の娘が首をかしげた。
その仕草は、ガキ臭い…、ああいや、愛らしい。
「いえ、なんでもありません」
令嬢には逆らうまい。
「オレは、リオン。リオン・グリーンバリー…です」
「リオンッ!?」
アレクシア嬢が、素っ頓狂な声を上げた。
「あの、フランツ工房のっ!? グリーンバリー!?」
「えっ!? …………ええ、まあ、そう…、ですが」
なんだ、なんだ。この反応は。
眼をキラキラさせて、こっちを見てくる。
「私っ、アナタの絵の大ファンですのっ!!」
………………へっ!?




