17 鑑定してみよう
小さなベルの小さな音色は、かろうじて私の耳に届くほど小さなものだった。
しかし、私の持つベルがレレの持つベルと、ちゃんと連動したらしく、ほどなくしてレレが降りてきた。
《何か用かい?》
やっぱり無愛想だね。
ほらほら、もっとスマイルスマイル。
《そんな事で呼んだのなら、そのベル没収するよ?》
冗談だって、ちゃんと用件があるから安心して。
実は、この本を貸し出してほしいんだよね。
私が名無しの本を見せると、レレは首を傾げた。
《そんな本、持ってきた覚えはないよ?》
んん?
いや、そんなはずはない。
だって私は、レレから渡された本の中から見つけたんだから、間違えるはずがない。
《そうは言ってもな。ちょっと、その本を貸してくれないか?》
私は名無しの本を手渡した。
本を調べたレレは、難しい顔をして本を返した。
《こんな本、見たこともない。そもそも、魔王はこれを読めるの?》
一応ね。
《こんな本を借りるような奴も居ないだろうし、返却期限は設けないよ。汚さなければね》
助かるよ。
それで、ここから出るにはどうすればいい?
見たところ扉はなさそうだし、転送装置も見当たらないけど。
《魔王がここに来る時に、一緒に持ってきた紙があるだろ? そこに魔法陣が描かれてる筈だから、それに触れれば戻れるよ》
紙って、許可証のことか。
そう言えば、この許可証に魔素印とやらを押した時に、許可証に魔法陣が描かれていた。
この紙が転送装置になってるってことかな?
《そう言う事だ。許可証さえあれば、いつでも書庫に来る事が出来る。魔王ならいつだって歓迎するよ》
そんな台詞を言うのなら、せめて笑顔を作りましょう
終始無愛想だったレレに別れを告げた私は、名無しの本を小脇に抱えて許可証の魔法陣に触れた。
ああ、この浮遊感さえなければ、転送はとても便利なのに。
書庫から戻った私は、一度寝室へ向かった。
調べものの基本は鑑定だ。
最近は使う機会がなくてすっかり忘れてたけど、この本や内容を鑑定すれば、色々と分かるかもしれない。
著者は書かれてなかったけど、それも本を鑑定すれば分かるかもしれないからね。
寝室に戻った私は、テーブルに本を置いて鑑定を行った。
〔鑑定結果:ノーネーム。予言者エレヌスによって書かれた書物。既に失われた古代文字で書かれているため、常人による解読は不可能〕
おお、著者が判明したね。
予言者エレヌスか。
そう言えば、カグラは予言の巫女だったし、何か知ってるかもしれないね。
それからもうひとつ、鑑定をしなければならない。
それは私自身。
最近、身に覚えのないスキルを獲得していたりするし、この名無しの本を読んでから、どうにも気になっていることもあるからね。
と言うわけで、自分に鑑定。
〔LV:20〕
〔名前:サキ〕
〔種族:魔王〕
〔装備:魔王の装束、魔王のマント、魔王のブーツ、青い加護の指輪、凶牙の耳飾り〕
〔HP:4000〕
〔MP:3800〕
〔SP:3800〕
〔攻撃力:3140〕
〔守備力:2760〕
〔魔力:3330〕
〔魔法耐性:3045〕
〔素早さ:2950〕
〔魔王〕〔翻訳〕〔通訳〕〔同時通訳〕〔暗視〕〔鑑定〕〔魔法衣〕〔読書家〕〔速読術〕〔魔力操作〕〔魔素探知〕〔魔力精密操作〕〔トラップサーチ〕〔クリティカルヒット1〕〔クリティカルガード1〕〔属性耐性〕〔状態異常耐性〕〔ヒキニート〕〔オタクゲーマー〕〔中二病〕〔コミュ障〕〔権限LV3〕〔風音魔法5〕〔炎熱魔法1〕〔氷塊魔法1〕〔水冷魔法1〕〔緑風魔法1〕〔迅雷魔法1〕〔獄炎魔法10〕〔暗黒魔法10〕
やっぱり、身に覚えのないスキルがある。
まず、魔力精密操作。
カグラから魔法を教わった時に、魔素探知と魔力操作は獲得した。
でも、魔力精密操作は取った覚えがないと言うか、その時は条件を満たしてなかったから諦めてたんだよね。
〔魔力精密操作:魔力操作の上位スキル。高度な魔法の発動を容易にする〕
予想通りかな。
あれば便利だけど、いつの間にか獲得してるとか、正直気味が悪い。
次に権限。
これも獲得した覚えがない。
いつの間にか、スキルランクも3になってるし。
〔権限:システムにアクセスする為の権限。権限LV上昇毎にアクセス制限が解除される〕
権限だけはスキルランクじゃなくてレベルなんだよね。
多分だけど、この権限というものは他のスキルから独立してるから、ランクじゃなくてレベルなんだろうね。
結局分からないことだらけだから意味が分からないけど。
風音魔法はよく使ってるから、スキルランクも5になった。
炎熱魔法や氷塊魔法は、カグラから教わった初級魔法だ。
使う機会がないからスキルランクは1のまま。
問題は獄炎魔法と暗黒魔法。
これは完全に身に覚えがない。
そもそも、このふたつは最上級魔法だから、今の私には使えないはずだ。
それなのに、スキルランクが10になっている。
……嫌な予感がする。
〔獄炎魔法:炎熱系最上級魔法。地獄の業火を呼び出し、全てを焼き尽くす魔法〕
〔暗黒魔法:暗闇系最上級魔法。光をも喰らう闇を呼び出し、全てを飲み込む魔法〕
なんて恐ろしい魔法だ。
どうせこのふたつは、あなたの得意魔法だったんでしょ?
あなたが私に介入したから、私がこの魔法を覚えたんでしょ?
あなたは私に、何をさせたいの?
魔王セラメリア。
嫌な予感。
それは初代魔王が、私を操ろうとしているのではないかと言うこと。
あるいは、私の体を乗っ取るつもりか。
どちらにせよ、初代魔王は行動を起こそうとしている。
いや、既に行動を起こしているのか。
これは早急に手を打たないと、第二次人魔大戦が勃発しかねない。
考え出したら胃が痛くなってきた。
とりあえず、予言者について調べてもらおう。
どうするかは、その後考えよう。