16 魔王セラメリア
どうしよう、これは知ってはいけないことだった。
これを知った私に、いったいどうしろと言うんだ?
この本には、確かに初代魔王のことが記されていた。
その内容がとんでもないものだった。
まずは初代魔王自身。
セラメリア・ネレ・アルシウス。
初代魔王の名前だ。
彼女がそもそもぶっ飛んでいた。
彼女は、自身に流れる膨大な魔力を用いて、凶暴なモンスターを創り出していた。
魔素を練り固めて生命を吹き込んだ、邪悪な存在。
通常、モンスターと言うものは、魔素濃度の高い場所に生息していた動植物が、魔素の影響により凶暴化したものだ。
しかし彼女は、そのモンスターを人為的に創り出していたのだ。
彼女の創り出したモンスターはクロスブラッドと呼ばれ、それを手駒に、彼女は人魔大戦の戦局を動かしていた。
戦力として投入されたクロスブラッドは、人族を蹂躙していった。
その圧倒的な強さに、人族は為す術もない。
大戦は終結する。 人族も魔族も、それを疑っていなかった。
しかし、ここまで従順に働いていたクロスブラッドが、突如として魔族に牙を剥いたのだ。
これにより、戦局は大きく乱れることとなる。
魔族は撤退を余儀なくされ、人族は好機とばかりに立て直しを図った。
そして、人族は勇者を選出するのだが、これらは全て、彼女の思惑通りだったのだ。
彼女は、クロスブラッドを意のままに操ることができた。
つまり、クロスブラッドが魔族を襲ったのも、彼女の指示だったのだ。
その目的は分からないが、今まで信用してきた魔王に不信感を募らせた魔族は、魔王を討つべく人族と結託。
長い戦いの末、ついに魔王セラメリアは封印された。
これは、語られることのない歴史の汚点だ。
だからこそ、ここまで入念に隠されていたのだろう。
さて、厄介なのはここからだ。
人族と魔族の結託。
そのことを読んでいた彼女は、封印されることも分かっていたのだろう。
だから彼女は、自身の魂を別の肉体へ転移させる魔法を編み出した。
しかし、その魔法は不完全だったようで、自身の力と記憶の一部しか転移させることができなかった。
それでも、彼女から見れば十分だった。
彼女は、自身の力を持つ者を、次代の魔王を操ることができたのだから。
こうして、人魔大戦は終局することなく、数千年にまで及んだのだ。
そして今から五百年前、彼女はある失敗をしてしまう。
彼女の力と記憶の一部は、魂の繋がりのある者へと受け継がれていた。
つまり、彼女の肉親だ。
魂の繋がりがあるからこそ、彼女は受け継いだ者を操ることができていた。
それが何の手違いか、彼女の力は魂の繋がりのない者へ受け継がれてしまったのだ。
歴代の魔王の記憶を垣間見た五百年前の魔王は、その過ちを正すべく、その身に流れる全魔力を用いて、魔王の力をスキルと言う枠組みの中へ封印した。
それが、魔王のスキル化の真相だ。
こうして、彼女の思惑に翻弄され続けた大戦が、ようやく終結したのだった。
さて、彼女が創り出したクロスブラッドはどうなったのか。
実はクロスブラッドの大半は、人族と魔族によって討伐されている。
しかし、それでもしぶとく生き残った個体は、人里離れたところで独自の生態系を作り出しているらしい。
クロスブラッドには、彼女のものである証として、そして通常のモンスターであるピュアブラッドと区別するために、その額に宝石が埋め込まれているらしい。
そう、私がサクラノ王国から帰る途中で出会した、あの狼のリーダーだ。
人里離れたところに生息しているはずのクロスブラッドが、あんな人の往来が激しい街道に現れた。
何故、あの狼はあんなところに現れたのか、それは分からない。
でも、何だか嫌な予感がする。
この本には、こんなことも書かれていた。
魔王の封印は弱まりつつある。
初代魔王の復活も近い。
さて、どうしたものか。
いま、彼女に復活されたら、平和ボケした今の人魔では太刀打ちできない。
だからと言って戦力の強化をしようものなら、他国から非難の嵐を受けるだろう。
初代魔王が復活すると言っても、隠された歴史を誰が信じる?
もしかして賊は、このことを知っていたのでは?
だからこそ、行動を起こしたのではないか?
これは困ったことになったぞ。
何と言うか、八方塞がりの手詰まり状態だ。
ここまで見事に手詰まりだと、逆に笑えてくるね。
でも、いつ復活するのか明記されてないし、なんとかなるでしょ。
なんとかするために、この本の著者を調べてもらおう。
で、何か対策ができれば良し。
できなければ、その時はその時さ。
何だか、惰眠を貪ってる場合じゃなくなってきたけど、安眠確保のためには仕方がないことだよね。
とりあえずレレを呼んで、この本の貸し出し許可を貰わなきゃ。
私は、レレから渡されていた小さなベルを鳴らした。




