15 魔王城の書庫
浮遊感が終わると、そこは広大な空間だった。
向こう側が見えないほどではないが、それでもこんなに広い場所が魔王城内に存在しているのか、疑問に思うほどだ。
壁は全て本棚。
それが、はるか上の方まで伸びていて、天井は見えない。
いやいや、さすがに広過ぎやしないか?
私がその空間に圧倒されていると、ひとりの女性が私の方へ近付いてきた。
「あんたが魔王? ロロから連絡は受けてるよ」
わお、いきなりタメ口?
なかなか無礼じゃないか気に入った。
コルタさんもこんな感じだったし、やっぱりみんなフランクに接しても良いと思うの。
でも、アナスタシアが居たら絶対に怒られてるよ?
「私はレレ。図書館の司書をしている。妹のロロが世話になってるみたいだね」
ロロちゃんのお姉さんだったか。
そう言えば、無礼なお姉さんがいるって言ってたね。
で、名前がレレって……まさかそんな安直な名前なのか?
もしかして、五人姉妹だったりする?
「さて、わざわざ書庫に来るなんて、どんな用件なのかな?」
書庫も魔法禁止かな?
だったら伝えられないけど。
「……ああ、なるほどね。ちょっと待ってて」
うん? 察してくれた?
《ほら、これなら話せるだろ?》
念話が使えるのか、それは助かる。
《で、用件は?》
お、おう。
あんたは妹と比べて愛想がないね。
もっと笑顔を作った方が良いと思うよ?
《大きなお世話だよ》
さてさて、用件だったね。
実は、初代の魔王について書かれてる書物を探してる。
図書館にはなかったから、書庫ならあるだろうと思うんだけど。
《ああ、あるよ。ちょっと待ってな》
そう言うと、レレの体はフワフワと浮かび上がった。
え? ちょっと待って、なに普通に飛んでんのよ?
《ここの魔素は上向きに流れてる。簡単に言えば、魔素の上昇気流だね。これに乗ると浮かぶ事が出来るんだ》
なるほど。
降りる時はどうするの?
《そこは気合い》
ええ!?
《冗談だよ、なかなか面白い反応をしてくれるね。降りる時は魔力操作のスキルを使えば降りられるよ》
へえ、便利なものだね。
そうこう話していると、レレは大量の本を持って降りてきた。
《これが、初代魔王の記録だ。椅子やテーブルは無いから、どこか適当に座って読んでくれ》
速読術のスキルがあるから問題はないけど、さすがに多いね。
これだけあっても小一時間ってところかな?
《何かあったら、このベルを鳴らしてくれ。すぐに行くから》
銀色の小さなベルを手渡された。
天使のはねが描かれていて、なかなか可愛らしい。
鳴らすって言っても明らかに音が小さそうだし、遠くにいたら聞こえないんじゃないかな?
《それなら心配ない。そのベルは私が持っているものと連動するから、どこで鳴らしても分かるって仕組みさ》
へえ、便利なものもあるもんだ。
分かった、用ができたら鳴らすよ。
《ああ。それじゃあ私は仕事があるから、もう念話を切るぞ》
ありがとう、助かったよ。
私は書庫の隅に本を持って行き、そこで読むことにした。
レレは軽々と持ってたけど、何気に重いよこれ。
レレと私は同じくらいの体格なのに、私は数回に分けないと運べなかった。
仕事柄、重労働に慣れているからなのかな?
さて、私は床に座って、本のタイトルの確認をしている。
その中にひとつだけ、タイトルの無い本が存在した。
明らかに怪しいね。
読んでくれと言わんばかりの存在感だ。
とりあえず開いてみよう。
開いて早々、困ったことが起こった。
私はこの本を読むことができない。
だって、見たこともない文字で書かれているんだもん。
困った、これは困ったぞ。
レレを呼ぼうかな?
〔権限LV3の閲覧物に翻訳を使用可能です。翻訳しますか?〕
ホワイ?
ちょっと待てよ?
いつぞやは“システム”とやらを調べようとして権限LVが足りないって言われたんだよね。
試しにシステムについて、もう一度調べてみよう。
〔権限LVが不足しています。魔王:サキの問いには答えられません〕
駄目か。
いや、今はいい。
まずはこの本の翻訳をしよう。
〔承認しました。権限LV3の閲覧物を翻訳します〕
そこまでして隠すってことは、もしかしたら、とんでもないことが書かれてるのではなかろうか?
好奇以上に不安の方が強くなってきたけど、翻訳しちゃったし読むしかないよね。
私は名無しの本のページを開いた。