表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

その10 さよならは言わない

 さっきまで。

 つい、さっきまでは。

 普通に寮の裏手の、裏山・・・みたいなところにいたんだけれど。いや、今も、いるんだけれど。

 なんでだろう。

 なんか、別の場所に来てしまったみたいな、そんな感じがするのは。

 今、この世界に存在しているのは、私たちだけ、みたいな。

 そんな感じがする。

 私たち・・・。

 私と、ペンギンの着ぐるみと、魔法少女のシュガーピンクさんと、黒くて得体のしれない生き物。

 ペンギンと魔法少女は得体の知しれない生き物と対峙していて、ただの観客である私はペンギンたちの背後、少し離れたところにいた。

 うん。アレは、ほんとに近づきたくない。

 黒いマッサージボールに、ウニョウニョ動く細長い手がいっぱい生えているのだ。ほんとに、いっぱい。何十本とかいうレベルで。

「何、アレ?」

 いつもの害虫とは、何か違う気がして、思わず呟いたら、ペンギンがもの凄い速さで振り向いた。ペンギンというか、ペンギンの着ぐるみを着た、ミント・ハリケーンが。

「のりこ!? なんで、いるの!?」

「え? いや、なんでって。君に連れてこられたんだけど」

「そうなんだけど、そうじゃなくてー! 危険だから、一般人を巻き込まないように、ぼうくうごうを張ったのに。の、のりこを巻き込んでしまった・・・」

 取り乱すペンギン。

「・・・防空壕?」

「結界よ。悪いモノが、外に出ないように閉じ込めたの。同時に、外からも邪魔が入らないようにしているのよ」

「ひゃあ!」

 背後から、突然声をかけられて、思わず変な声で叫んでしまった。

 この人は、確か。ミントと仲がいいような、そうでもないような感じの、バニラ・ブルーさん。一体、いつの間に現れたの?

 てゆーか、外から入れないんじゃないの?

「私は一般人じゃないし。まあ、魔女としての格の違いというものね」

 まだ、何も言ってませんけど!? こ、心を読まれた!?

「それはともかく。どうして、そんな恰好をしているのかしら?」

 余裕の笑みを浮かべていたバニラ・ブルーは、ミントを見て、少し口元を引きつらせる。そして、問いただす。

 まあ、そうだよね。



 いろんな意味で、どうして、こんなことになったのかと言えば。

 話は、昨日の夕方まで遡る。



「マスコットキャラ!」

 放課後。どこか、ほっつき歩いてたらしいミントが、帰ってくるなり叫んだ。

 ただいまもなしだった。

「のりこ! 魔法少女には、マスコットキャラが付きものだって、聞いたんだけど!」

 そうだっけ? そう言われると、そんなような気もするけど。てゆーか、どこで聞いてきた。

「どうして、教えてくれなかったの!?」

 私の両肩を掴んで、ゆさゆさと揺さぶってくる。

 いや、どうしてって言われても。

「とにかく! 私はマスコットキャラとして、ペンギンの魅力を啓蒙していこうと思う!」

 力強い、一方的な宣言とともに、魔法少女活動の再開が決定された。

 そして、次の日の放課後。てゆーか、今。・・・てゆーか、さっき?

 私とピンクは、寮の裏手の、裏山みたいなところに連れ出された。

 ここ、日当たり悪いし、草むらから蛇が出てきたりするから、生徒はあんまり近寄らないんだよね。ピンクの魔法少女活動には、一抹の不安が伴うので、まあ、調度いい場所かな。

 二人は草むらの中に入っていったけど、私は蛇が怖いので、後ろで見ていることにする。

 木立の合間を縫って、いつものごとく空中に黒い穴が開いて、何か黒い物体が落ちてくる。バレーボール大の、黒い、・・・・・黒いボールだ。

 目も手も足もない。ほんとに、ただのボールだ。

 敵役としては、あんまりパッとしない感じだけど、まあ、どうでもいいか。

 あれが、ピンクの精一杯なんだろう。

 そして、また。いつものごとく、閃光が走り、魔法少女・・・・とペンギンの着ぐるみが現れた。

「よし。行け、ピンク!」

 ビシッと、手というか羽? を黒いボールに突き付け、ペンギンが命じる。

 ・・・・・・マスコットキャラって、こういうんだっけ?

「分かってるわよ。命令しないで」

 言い返しつつも、ピンクが杖を構えたその時。

 オ、オオオオォ・・・

 穴、の中から、声・・・みたいなのが聞こえてきた。ひび割れたような、しゃがれたような、背筋がゾワッとする、嫌な感じの・・・。

 少し、視線を上げる。

 穴から、細長い手みたいなのが、ヒュンヒュンと何本も飛び出てきて、それから、何かがベチャリと落ちてきた。

 ちょうど、バレーボールの上に。

 結界、とやらが張られたのは、たぶん、この時なんだと思う。

 別世界に来たような違和感を感じたのは、この後すぐだったから。




 クワ・・・セ・・・ロ・・・・

 ひぃっ!? しゃ、しゃべった・・・・?

 ミントがペンギンの格好をしている、しょうもない理由を説明する前に、黒い生き物がなんかしゃべった。に、日本語で・・・。

「どこかで食事をしてきたみたいね」

 そう言いながら、バニラ・ブルーは私を庇うように前に出た。

「日本語・・・・。日本人を・・・・。まさか、この学校の生徒を・・・?」

 ガクガクと足を震わせながら、ピンクが呆然と呟く。

「んー、食事したのは、穴の向こうだと思う。だったら、ここの生徒とは限らないよ」

 真面目な声で話しているけど、ペンギンの格好なので、いまいち締まらない。

 締まらないけど、なんか今、怖いこと話てる。しょ、食事って、もしかして、日本人料理をお召し上がりになったのですか!?

 そういえば、この間。穴の向こうに紛れ込んで、運が良くて魔女の国にたどり着ければ、魔女になるって言ってた、けど。運が悪い子っていうのは、つまり・・・?

「深く考えないほうがいいわよ」

 ゆっくりと言い聞かせるように、バニラさんは私に背を向けたままそう言った。

 う・・・。はい。今は、そうします。

 そうこうしている内に、黒い生き物は、いよいよ食欲が抑えきれなくなったらしく、ぶるぶると体を震わせ・・・。

 クワセロ!

 雄叫んだかと思うと、ミントとピンク目指して、一斉に手を伸ばす。

 顔の前で手をクロスさせ、思わず目を閉じてしまった。

 ピンクの悲鳴と、空を裂くような音が聞こえる。

 恐る恐る、目を開けた。

 尻餅をついているピンクと、その前に仁王立ちするペンギン。先が切り落とされた手を蠢かせる黒い生き物。そして、黒い靄が霧散していくのが見える。

「ピンク、邪魔だから下がってて」

「・・・・・・・っ」

 頷いたピンクは、立ち上がれないのか、それとも黒いのに背を向けるのが怖いのか、へたり込んで後ろに手をついた姿勢のまま、ゆっくりと下がってくる。

「!」

「来るわよ」

 ピンクが十分に下がりきらないうちに、黒い生き物の手が復活した。切り落とされた先が、手のひらの形に再生されていく。てゆーか、よく見ると、指の本数がまちまちなんですけど。

 再び、手がミントに襲い掛かる。

 風の刃が黒い手を次々と切り落としていき、ピンクが猛スピードで後ずさってくる。なんか虫みたいで、むしろピンクが怖い。

「あ、また・・・」

 つい、ピンクの動きに注目してしまっていたけど、ピンクの怯えた声で、また、ミントのほうへ視線を戻す。

 え? もう?

 霧とされた手が、再生していた。さっきより早い。すかさずミントに襲い掛かり、また切り落とされていく。

 ちょっと、これ、限がないんじゃ・・・。このまま、再生するスピードが上がっていったら、切り落とすのが間に合わなくなるんじゃないの?

 段々ペースが上がっていく再生と切断を、ハラハラしながら見ていると、ついにその時が来てしまった。

 切断の直後に、いや、もしかしたら、直前だったのかも。黒い生き物から、新しい手がもの凄い勢いで生えてきて、ミントに襲い掛かる。

「ミント!」

 ペンギンの体に、次々と黒い手が巻き付いていく。

「ああ! ペンギンが!・・・よくも!!」

 てゆーか、こんな時までペンギンの心配かい!?

 心配が怒りに変わりかけたとき、見慣れた閃光が走り、反射的に閉じた目を開いたら、黒い手に巻きつかれたペンギンの抜け殻の後方に、魔法少女クール・ミントが立っていた。

「魔法少女クール・ミント、登☆場☆ お前の攻撃は、すべて見切った!」

 あ。なんか、今。ヒーローにピンチを助けてもらった人たちの気持ちが分かったかも。なんていうか、まさしく救世主? クール・ミントにこんなにも希望を託す日が来るとは・・・。

 切り口上が微妙なのとかは、もう、どうでもいい。この状況をどうにかしてくれさえすれば。もう、それだけがすべてだよ。

「さあ、反撃、いっくよー。いでよ、魔法の包丁!」

 え? それ、呪文なの?・・・・いや、結果がすべてだよね。うん。

 空中に現れた3本の巨大包丁が、黒い生き物へと振り下ろされ、手が根元から切り落とされていった。黒い生き物も再生を試みているけれど、再生しきる前に、包丁に切り落とされる。

「魔法のサランラップー」

 再生と切断が繰り返される、その頭上に、巨大サランラップが現れた。箱の中から、勝手にラップが引き出されていき、ある程度の長さまで来ると、箱がくるっと回転し、小気味よい音を立てて、ラップが切り離される。

 それを待っていたかのように、切断の速度が上がり、手が1本もない状態になったところで、包丁がその場を離れる。代わって、空中でふよふよしていたラップが、ものすごい速さで黒い生き物を包み込んだ。

 謎の生き物のラップ包みが出来上がったんですけど。どうするの、あれ?

「うーん・・・」

 ミントは、腰に手を当てて、何やら考え込んでいる。もしかして、ノープラン!?

「うん」

 どうやら、考えがまとまったらしい。

「魔法のめんぼー」

 魔法ってつければ、いいってもんじゃ・・・。

 現れためん棒は、ラップ包みをのしていき、何かぺらんとした黒いものが出来上がった。

 ラップが破れたりしないか心配したけど、魔法のサランラップというだけあって、丈夫にできているらしい。

 鼻歌を歌いながら、ミントは謎の生物のなれの果てに近づいていき、すっかり薄っぺらくなったそれを、くるくると巻いていく。巻き終わると、どこからか取り出したリボンを巻き付け、リボン結びで封をして、ぽいっと穴の中に放り込んだ。

 穴に蓋をして、完全にふさぐと、ミントは得意げな顔で振り返る。

「女子力の勝利!」

 いや、それ、女子力違う。

「ペンギンが命がけで助けてくれたおかげで、私たちは、見事、悪を打ち滅ぼすことができた」

 なんか、急に真面目な顔で語りだしたよ。ていうか、そのペンギンはおまえだろ。

 付き合ってられないとばかりにため息をついて、バニラさんがピンクを回収して、どこぞへと消えていった。

 え? 私、置いてけぼり?

 私一人で、アレの面倒見るの?

 恐る恐るミントの様子を窺うと、ミントは私を見つめながら、まっすぐにこっちに向かって歩いてくる。

「でも、そのせいで」

 小芝居、続いてるよ。

「のりこに、私が魔法少女だとばれてしまった」

 いや、最初からばらしてただろ。

「だから、私は、魔法の国へ帰らなければならない」

 ミントが私の正面に立つ。

「魔法少女活動は、もうおしまい」

 ミントが、私の手を取って、優しく握りしめる。

「のりこ。今まで、ありがとう」

 その言葉を最後に、ミントの姿が掻き消えた。

 え?

 あれ?

 何?

 これで、さよならなの?

 こんな、あっさり?




 ふと気が付くと、そこは、寮の裏手の裏山みたいなところで。私のほかには、誰もいなくて。でも、世界から切り離されたような、あの変な感覚は消えていて。

 どうやら、急展開についていけなくて、呆然と立ち尽くしていたらしい。

 いつの間にか、すっかり暗くなっていた。

 体も冷えてしまっている。

 早く帰って、ご飯と、お風呂・・・。

 とぼとぼと、足取りも重く、寮の自室へ向かう。

 すべてが、夢だったんじゃないかという気がしてくるよ・・・。

 その反面、部屋に帰ったら、いつも通りにミントがいるんじゃ? ていう、期待も、ちょっとある。

 なんか、ぐるぐるしながら、部屋のドアを開けた。

「ただいま」

 誰もいないはずなのに、つい言ってしまうのは、いつもの癖だ。

「おかえりー。遅かったね。何してたの?」

 はい?

 ふ、普通に出迎えられた。

「な、なんでいるの? てゆーか、さっきのアレはなんだったの?」

 ドアを閉めるのも忘れて、のほほんとした顔で、せんべいとか食ってるミントに問いただす。

「ん? ああ。あんな危険なのが出てきたら、さすがに魔法少女ごっこしてるわけにはいかないからさー。ちょっと、最終回っぽくしてみた。あ、もしかして、本当にいなくなったかと思っちゃった? やだなー。本当に帰るなら、もっとちゃんとお別れするよー」

 がくりと膝から崩れ落ちる。

 な、なんて、人騒がせな。

「えーと、ごめん。でも、大丈夫。しばらくは、ここにいるから! 一応、この辺の穴とか危険な場所は、全部きれいにしてきたんだけど、一応、念のため、しばらく様子見のために残ることになったんだー。後、将来、政府の魔法少女対策室・・・じゃない、害虫対策室に入ってくれそうな子を勧誘中って言ったら、何とかものにして来いと新たなミッションが発動されたんだよ。私も、もう少し学生生活楽しみたいしー。返事は来年でいいから!」

 くっ。いい笑顔で・・・。

 てゆーか、害虫対策室もなんか違うだろ。てゆーか、何してくれてんだよ。てゆーか、てゆーか。


 うっかり、口の端が笑っちゃってるけど、でも!

 嬉しくなんてない。

 嬉しくなんてないんだからね!コノヤロー。




≪完≫

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ