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第14話 襲撃・下






≪ディープ・フレイム≫


 美咲の球体に囲まれたローガンはそう呟き、両腕から深い赤色の炎を出現させた。

 それを一振りするだけで、美咲が作り出した魔力の球体は半数以上が消失する。

 残りがローガンへと向かうが、ローガンは炎に包まれた両腕でそれらを払い落とした。


「腕に魔法を纏わせるなんて……発想が常軌を逸していますわ!」

「ああ、本当にモノにするのには苦労した。けれど、このスタイルで俺はA級魔法師に上り詰めた。効果は折り紙つきだ!」


 ローガンはレオナに向かって走り出した。

 そんなローガンを迎え撃つように、レオナは剣を構える。


 ローガンが右腕を振り上げ、レオナはそれを真正面から受け止めようとした。

 けれど、レオナは咄嗟に受け止めることを止めて、後ろへと下がった。

 しかし、避けきれずに服にローガンの腕が掠った。


 戦闘のために作られたレオナの服は、銃弾や威力の低い魔力弾程度では傷1つつかない。

 とくに胸部の防御は、下手な防壁などより硬い。


 だが、その胸部の服が、一部とはいえ燃えてしまっていた。

 異常な熱量から、嫌な予感がして下がっていなければ、愛剣ごと溶かされていたかもしれない。

 服の胸部に焦げた穴が開く形になったが、気にしてはいられない。


「なんてデタラメな……!」

「遠くに放つ必要も、コントロールする必要もない。ただ威力を上げ続けた俺の魔法は……誰にだって防げはしない!」

「それなら当たらない間合いから撃つだけです」


 美咲はそういって、右手をローガンへと向けた。

 使う魔術は先ほどと同じもの。

 だが。


≪ホーミング・バレット≫


 数が違った。


 出現した球体の数は36個。

 流石にその量を見て、ローガンは下がることを選択した。


 未だに腕には炎を纏っていたが、それを使っても全方位から来られては防ぎようがない。

 ゆえにローガンは囲まれないように動いていた。


 そんなローガンを包囲しようと、球体は移動を続けた。


≪フォース・スティンガー≫


 ローガンの足元目掛けて、高速の魔力槍が走った。

 小さくステップしてそれを避け、それを発射された方向を見る。


 そこには、レオナが剣先をローガンに向けて立っていた。

 突きと同時に魔術を発動させたのだ。


 元々、レオナの魔術は近・中距離に対応している。

 護に対して行なったような戦い方は特殊で、フォース・スティンガーも剣先から放つことで、相手を倒す接近戦の魔術なのだ。


 レオナは次々と突きをローガンの向けて放つ。

 流石に距離があるため、剣先は届かないが、そこから発射される槍が正確にローガンの足を狙う。


 厄介な、と思いながら、ローガンは仕方なく、ある魔法の術式を構成し始めた。

 基本的には、術式の構成はすぐに終わる。

 しかし、その術式はすぐには出来上がらなかった。


 遅さに苛立ちながら、術式が完成するまでは細かいステップで攻撃を避け、包囲されるのを避け続ける。


 どうにか術式が完成したと同時に、ローガンは足を止めた。

 足を止めたローガンを美咲の魔力球が取り囲み、レオナもローガンに油断なく剣を向けた。



 合図はなかった。

 しかし、ほぼ同時に美咲とレオナは一斉攻撃をし掛けた。


 美咲は36個の球体を全方位から突撃させ、レオナは連続の突きを放った。


 2人の攻撃により、土煙が舞い上がり、大きな爆音が響いた。


「……これで終わってくれると嬉しいのですけど」

「相手はA級魔法師。そんなに簡単にやられてくれないと思うわ」


 ダメージを期待しつつも、倒したとは思えない。

 2人の攻撃後の感想はほぼ一緒だった。


 しかし、土煙が晴れたあとに姿を見せたローガンには、傷1つなかった。


「そんな!?」

「ありえませんわ!?」

「たいした攻撃だ。アストリアの貴族と十三名家筆頭の娘なだけある」


 ローガンの周りには黒い防壁が張られていた。

 それが攻撃を防いだのだと理解した美咲は、その正体にも察しがついた。


「魔力障壁……」

「ご名答。こういう戦闘スタイルのせいで、遠距離から攻撃されることは多いんだ。魔力は食うし、碌に動けない上に発動までに時間がかかるが、防御力だけは最高だからな」


 一応、使えるようにはしてるんだよ、とローガンはニヤリと笑った。


 魔力障壁というのは、魔力防壁の最上位の魔法であり、魔術師が未だに再現できない魔法の1つであった。


 その防御力は核を受け止め、近代兵器を無力化するほどであり、有効な攻撃手段は、大規模な魔力攻撃のみ


 美咲もレオナも当然、知っていた。

 しかし、まさか複雑で熟練の魔法師でも習得には時間がかかるといわれる魔力障壁を、ローガンが習得しているとは思わなかったのだ。


 油断。

 その言葉に2人は微かに焦った。

 少しもダメージを与えられなかったのは、誤算だったのだ。


 魔力障壁は高い防御力と引き換えに、高速での移動は不可能である。同時に、魔力障壁の中にいる人間も直接攻撃は不可能になる。

 美咲のように、魔力弾を自分から離れた位置に生成することができれば、攻撃も可能ではあるが、ローガンにはそのスキルはなかった。

 それでも歩くことくらいはできる。


 このまま学園に突入されたら、どれほどの生徒が犠牲になるか。


 レオナと美咲はアイコンタクトで、次の行動を決めた。


 MADが使えない以上、学園全体に危機を伝えるのも難しい。

 かといって、A級魔法師に対して、魔力切れを狙うのもばかげていた。


 状況を打破するには魔力障壁を突破する必要がある。


 レオナはローガンに向かって突進して、ティルフィングで突く。

 しかし、それはローガンの周りにある魔力障壁に阻まれる。


 わかっていた。

 近・中距離での戦闘を主眼に置いたレオナには、魔力障壁を破る手段はない。

 高速で魔法や魔術を使うことは得意であっても、一撃で相手を沈めるような大規模攻撃は苦手なのだ。


 だからこそ、レオナは足止めに徹した。

 ローガンが魔力障壁を解けないほどの攻撃を浴びせ続けた。


 鬼気迫る表情で攻撃を続けるレオナを見て、ローガンは美咲に視線を移した。


 美咲は右手を高く上げて、目を瞑っていた。

 完全に無防備な体勢。

 しかし、その体から溢れる魔力は尋常な量ではなかった。


 十三名家の筆頭とされる九条。

 なぜ筆頭という地位にあるのか。


 それは簡単である。

 現当主である九条正仁(くじょうまさひと)が誰よりも戦功をあげたからである。


 20数年前。

 朝鮮半島で日本・アストリア連合とレムリアは激突した。


 当時、レムリアは日本のホールを力づくで手に入れるため、他の戦線からも魔法師を回して、日本を攻めた。

 その戦闘の際に、最も戦果をあげたのはアストリアの騎士たちではなかった。


 最も戦果をあげたのは5人の魔術師たちからなる特殊部隊。

 その特殊部隊は十三名家の1つ、烏丸の次期頭首が隊長を務めることから“レイヴンズ”と呼ばれ、レムリア軍を恐怖のどん底に落とした。


 レイヴンズには4人の十三名家の若者と、1人の魔術師傭兵から成り立っており、その任務は有力な魔法師の抹殺。


 戦線に送り込まれるA級魔法師たちは次々とレイヴンズに殺され、レムリア軍は停戦を余儀なくされた。


 そのレイヴンズで攻撃の主力を務めたのが九条正仁だった。

 彼の攻撃は単純明快。

 高威力な魔力攻撃。

 レイヴンズの基本戦術は、九条正仁が攻撃の準備を整えるまで時間を稼ぎ、九条正仁が決めるというものだった。


 レムリアは以後、国力の回復に努めることになり、日本への力攻めも断念した。


 そこまでレムリアを恐れさせた九条正仁の得意魔術。


 その名は“グランシャリオ”。

 7つの高威力直射魔術を、同時に叩き込むそれは、魔力障壁すら容易く打ち破る最高クラスの攻撃魔術。


 それの予備動作は右腕を高く上げること。


 ローガンは魔力障壁を解き、回避を選択しようとした。

 グランシャリオは高威力であり、しかも射程も長いが、その分、直線上にしか放てない。


 魔力障壁を張っていなければ、避けることができるはず。


 しかし、それをレオナが許さなかった。


「はっ!」


 気合と共に突き出される高速の剣先からは、スティンガーが飛び出しており、魔力障壁を解除した瞬間に無数のスティンガーの餌食になることは目に見えていた。


 死ぬことはないが、しかし、移動する足を奪われれば、グランシャリオを食らってしまう。


 全てを防ぎきる自信は、流石のローガンにもなかった。


 慣れない魔力障壁を使用したのが、運の尽きか、とローガンは“諦めた”。

 1人で勝つことを。


「少佐。手を貸してほしい」

『そういうだろうと思ってましたよ』


 耳につけたレムリア軍専用の通信機から、リッツの声がすぐに返って来た。


 状況を見守っていたリッツが、不利な状況を見逃すはずがない。

 おそらく近くに来ているだろうと、ローガンは考えており、それは正しかった。


 美咲が魔力をギアに注ぎ終わり、あとはコマンドトリガーを呟くだけというところまで言ったとき。


 美咲の体は何かに引っ張られるようにして宙に浮いた。


 状況が理解できず、美咲は目を見開き、しかし、次の瞬間には苦痛で顔を歪ませた。

 勢いよく近くの壁に叩きつけられたのだ。


「かっはっ……!」

「美咲さん!?」


 レオナが攻撃の手を緩め、美咲のほうへ視線を向けた。

 向けてしまった。


 その一瞬の隙をローガンは見逃さなかった。


 魔力障壁を解除して、右腕に深い赤の炎を纏わせる。


≪ディープ・フレイム≫


 ローガンは右腕を勢いよく横から振り回すようにして放った。

 咄嗟にレオナは自分の愛剣でその一撃を受け止める。


 炎によってティルフィングは半ば溶解してしまうが、それでも受け止めることには成功した。


 だが、次に飛んできた右足を受け止めることはできなかった。


 炎こそ纏ってはいなかったが、十分強力な蹴りを腹部に受けたレオナは、美咲と同じ方向に吹き飛ばされ、同じように壁に叩きつけられた。


「ぐっ……!」


 美咲とレオナは地面に倒れこんだ状態から起き上がれなかった。

 意識こそあれど、体が言うことを聞かないのだ。


「まったく、だからやめましょうと言ったんです。貴族や十三名家の跡取りは、子供でも下手な軍人より強いですからね」

「だが、その分、魔力の量も多い。特に九条の娘のほうは普通の魔法師と比べても倍以上は持っている」

「それはそうですけどね。もうそろそろ15分が経ちますし、A級魔法師を投入して2人だけというのは……あー、ミルフォードのお嬢さん。大人しくして貰えますか? 衣服も乱れてますし、ジッとしておいたほうがいいですよ」


 レオナの戦闘用の服はボロボロだった。

 特に胸部に空いた穴は広がり、レオナの肌は露になっていたが、レオナは隠す素振りも見せなかった。


「お断り……しますわ……」

「強情ですね。腕の1本でも折れば、女性らしく悲鳴をあげてくれますか?」


 立ち上がろうとするレオナに近づき、リッツが腕を掴んだ。

 それに抵抗する力はレオナにはなかった。


「やめ……なさい……!」

「九条のお嬢さんもまだ意識があるんですか? 意思が強いというのは残酷ですね」

「少佐。使い物にならなくなると困るのでは?」

「平気ですよ。腕の1本くらいなら。2人とも折ってしまいましょう。大人しくしていてもらうのには、それくらいしたほうがいいんですよ」


 サディスティックな笑みを浮かべて、リッツはレオナの腕を間接の稼動範囲ギリギリまで動かした。


「くっ……!」

「泣き叫んでもいいんですよ?」

「お生憎……ですけれど……私は敵を喜ばす趣味はありませんの……」

「そうですか。可愛げのないお嬢さんだ。さて、どんな悲鳴を聞かせてくれますかね?」


 リッツが空いている腕を振り上げた。

 レオナの腕を折る気なのだ。


 レオナは目を瞑り、来るはずの痛みに耐えようとした。

 絶対に悲鳴などあげないと決意して。


 けれど、いつまで経っても痛みも衝撃も来なかった。

 その代わり、聞こえてきたのは男の悲鳴と最近、よく聞くようになった少年の声だった。


「うわぁぁぁぁぁ!!!!」

「汚い悲鳴だな……寝てろ」


 リッツが振り上げた腕をへし折ると、護はリッツを裏門の方向へ蹴り飛ばした。


「……結城君……」

「……結城護」

「悪いな。少し遅れた」


 そういって護はレオナにブレザーを掛け、地面に倒れている美咲を壁によりかかせるように起こした。


「すぐに保健室に連れて行ってやるから我慢しろ」

「流石は魔術師の学園。面白い生徒がいるものだ」


 リッツが蹴り飛ばされたにも関わらず、ローガンは笑っていた。

 そんなローガンの方に振り返り、護は怒気に満ちた声で告げた。


「その学園はお前なんかお呼びじゃないんだ。大人しくレムリアに帰れ」

「できん相談だな」

「なら、強制的に帰してやる!!」


 そういって護はサーキュレーションで強化した身体能力で、ローガンの懐に一瞬で入り込んだ。


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