↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/24

第15話 護の動き





 彩雲学園裏門。

 午後4時34分。






 護はローガンの懐に一瞬で入ると、ローガンの顎を蹴り上げた。


 咄嗟にローガンは上体を逸らすことでその攻撃をかわす。


 速く、鋭い蹴りに驚きつつ、ローガンは護から距離を取った。

 スピードでは明らかに護のほうが上だったからだ。


 少なくとも、体勢を立て直さなければやられる。

 その確信があった。


 しかし、上体を逸らした状態から無理やり下がったため、ローガンは護から一瞬だけ視線を外してしまっていた。

 その隙に護は瞬時に地面を蹴った。


 どうにか体勢を立て直したローガンが顔をあげたときには護の姿は、先ほどまでの場所になく、ローガンは勘だけで左手を顔の場所まで跳ね上げた。


 一瞬の後に、左腕に衝撃が走った。

 そのまま後ろを確認すると、ローガンの後ろに護がいた。


 速いのではない。速すぎるのだ。


 理解不能な護の動きに、ローガンは魔術による加速をまず疑った。

 しかし、加速にしては動きが滑らかだった。

 それと、加速術式のあとに見られる減速は見られなかった。


 加速した動きのままに対象を蹴れば、間違いなく足が折れる。

 けれど、護の足は折れた様子もない。

 なにより、ローガンが受けた感触が軽すぎた。


 まさか、身体能力だけであの動きを?


 信じられないモノを見る目で、ローガンは護を見つめた。

 しかし、すぐに気を取り直す。


 護は確かに速かったが、今の一撃でローガンとの距離はしっかりと開いていた。


 どれだけ速かろうと、始動の瞬間くらいは捉えられるはず。

 そう考え、ローガンは護から視線を外さなかった。


 そんなローガンの目の前で、護は右足を軽く引き、左手と左足を前に出した構えを取った。


 前後に強く、左右にも対応可能な武術の構え。

 何かの武術を会得していると、その構えの隙の無さにローガンは気を引き締めた。


 しかし、そんなローガンをあざ笑うように護は、ゆっくりとローガンの左側に移動し始めた。

 それはとてもゆっくりで自然な動作だった。

 だからローガンはその動きを目で追ってしまった。


 遅い動き、自然な足運び。

 気付けば護はローガンの視界ギリギリに迫っており、ローガンは護の動きに“合わせて”護を追った。

 しかし、次の瞬間には護はそこにはいなかった。


 緩急。

 その緩を利用した護の動きにローガンはまったく反応できず、後方から聞こえてきた地面を蹴る音に反応して、先ほどと同じように勘で防御を取るしかなかった。


 護の後ろ回し蹴りを、ローガンは不十分な体勢で受け止めることになった。

 炎を纏った腕で。


 そこでローガンは気付いた。

 なぜ、触れただけで全てを焼く炎を纏った腕を蹴れたのか。


 術式を改良し、自分の腕を焼かないようにしているとはいえ、魔力強化をしていなければ使用することもできない炎の魔法。

 それを蹴ってただで済むわけがない。


 吹き飛ばされながら、ローガンは護の足を確認した。

 その足には薄く小さな防壁が展開されていた。


「打撃の瞬間にプロテクションを!?」

「流石は軍人だな。正解だ」


 護はサーキュレーションで爆発的に強化された身体能力を生かして、吹き飛ばされるローガンを先回りした。


 背後から聞こえてきた声に、咄嗟にローガンはディープ・フレイムを解除して、魔力の配分も均一に戻した。


 魔力を一点集中していたときよりも防御力は上がる。

 プロテクションを纏った打撃とはいえ、一撃でやられるはずはない。

 そう願いつつ、ローガンは自由になる視線で護の動きを見た。


 回転。

 まるで独楽のように護はその場で回転し、その勢いを利用して蹴りを放った。


 その小柄な体からは想像できない威力で、背中を蹴られたローガンは空中で反り返り、地面にたたきつけられながら吹き飛ばされた。


 しかし、接近戦を得意レンジとしているローガンも普段から体を鍛えている。

 その蹴りにもローガンは耐え、すぐに立ち上がった。


 痛みに顔をしかめつつ、ローガンは護の動きを分析した。

 驚異的な身体能力。そして死角から死角へと移動する足運び。そして変幻自在な技。


 先ほどまで戦っていたレオナと美咲とは、根本的なところから違うとローガンは理解していた。

 護と比べれば、レオナと美咲は魔術や魔法の運用に優れているだけ。

 強いのは断然、護のほうだった。


 しかし、ローガンはこの短時間で護の弱点も見抜いていた。

 体全体を使うような攻撃を仕掛けるのは、軽い攻撃に威力を乗せるため。

 それは確かに脅威ではあったが、一撃でやられるような攻撃ではないのも事実だった。


 耐えていれば、いずれチャンスは来る。

 そう考えたローガンは両足に力を入れ、護に真っ直ぐ向かっていった。


 そんなローガンを護は迎え撃った。

 横からの攻撃で。


 正面からいきなり横に移動した護に対して、ローガンは苦し紛れの裏拳を出すが、それを護は横に倒れこむようにして避けた。

 地面すれすれまで上体を下げた護を追撃しようとしたローガンの横顔に蹴りがしっかりと入った。


 死角からの蹴りに、ローガンは歯を食いしばった。

 倒れこむと同時に蹴りを放ったのだと、そのときになってようやく理解する。


 それでもローガンは護への追撃を止めなかった。

 倒れた勢いを利用しようと、どこからか攻撃が来るとわかれば耐えられたのだ。


 上から振り下ろすようにして、ローガンは下にいる護に拳を振り下ろした。

 しかし、護の背中に向けて放たれた突きは、地面を叩くことになった。


 護が体を捻ったからだ。

 それと同時にローガンは自分の横腹に護の右踵が食い込んでいることに気付いた。


 腕を振り下ろしたときにできた死角を利用されたのだ。

 体を捻る動きと同時に蹴りを放った護は、そこで止まらなかった。


「ぐっ……!!」


 腹部への一撃に呻くローガンの隙を突き、両腕で体を起こし、ローガンの横腹に深く食い込んでいる右足を軸足にして、飛んだのだ。


 空中で再度横回転した護は、ローガンの顎に向かって右の後ろ回し蹴りを見舞う。


 3連撃。

 その最後に攻撃によって、ローガンは思いっきり吹き飛ばされた。


 それでも意識だけは保ち、なんとかヨロヨロと立ち上がる。


 回転しようと、跳躍しようと、元の攻撃の質が軽いため、どうにか耐えられるのだ。


「その……身体能力があればこその……技だな……。だが……軽い!」

「そうか、じゃあデカイのをお見舞いしてやるよ!」


 護が直線的な動きで突っ込んできたのを見て、ローガンはニヤリと笑みを浮かべた。

 最も威力を出すには、直線的な動きで加速をつけるに限る。

 しかし、それは同時に見切りやすくもなるということだ。


≪ディープ・フレイム≫


 この機を待っていた。

 ローガンは魔法を唱え、炎を纏わせた腕で護の腹部に真っ直ぐの突きを放った。

 完全なカウンター。

 真っ直ぐ突っ込んできている以上、威力は通常よりも大きい。


 このタイミングでは先ほどのようには動けない。

 そう判断しての一撃だった。

 しかし、ローガンは目を疑う。


 護が飛んで、回ったからだ

 縦に。


 護はローガンの突きを避けるようにして、くの字になり、そのまま飛び跳ねた。

 そのまま右足を思いっきりローガンの顔面へと振り下ろす。


 どうにか体をずらして顔面を避けたローガンだったが、左の鎖骨に直撃を受けた。


「ぐぉぉぉぉ!!」


 鎖骨が砕ける感触にローガンは耐えた。

 大技を放った護も体勢を崩していたからだ。


 無事な右腕を左足で着地した護に突き出す。


 流石に避けられないと判断した護は魔術を使用した。


≪プロテクション≫


 護の顔を狙ったローガンの一撃は、護が作り出したプロテクションに阻まれる。

 しかし、プロテクションにもヒビが入っており、長くは持ちそうにはなかった。


 けれど、それで十分だった。

 護には。


 右足をローガンの肩から引き戻し、そのままローガンの懐に飛び込んだ護は、右手の手の平でローガンの腹部に触れた。


 その打撃ともいえない動きに、ローガンはこれまで感じたことのない恐怖を感じて、咄嗟に体を後ろに引かせた。


≪激浪≫


 護のギアにセットされているラピスの3つ目。

 激浪は護が使う魔力を流し込む技を強化するものだった。


 ラピスを一度通った魔力は、振動しながら相手の体内に流れ込む。

 直撃を食らえば、確実に内臓が破壊される。


 しかし、体を引いたローガンはかろうじて内臓を破壊されることは回避していた。


 しぶとい。

 そう感じた護は、ここでローガンを始末するために再度踏み込むが、それは裏門から勢いよく入ってきた車に阻止された。


 その車から出てきたレムリア兵は、まだ満足に動けないレオナと美咲に向かっていた。


 攫われる。

 そう判断したときには、護は走っていた。


 中途半端なダメージのローガンは、車へと走る。


 レオナと美咲がなんとか抵抗するが、ダメージの受けた体では満足に抵抗もできない。


 車には先ほど吹き飛ばしたリッツが乗っていた。

 それを見て、止めをささなかったことを護は後悔した。


 すでに美咲は抱えられている。

 距離を考えると、2人は助けられない。


 したくはない判断をして、護はレオナを担ごうとする男に向かう。

 その間に、美咲が車に乗せられる。


 護が迫ってきたことにレオナを攫おうとした男は、情けない悲鳴をあげた。


「ひぃぃぃ!!」


 護の拳がその男の顔を捉えたと同時に、車は急発進した。

 仲間の男を置き去りにして。


 人の骨を砕く嫌な感触に顔を顰め、護は逃げる車を確認する。

 ドアが開け放たれたままの車の中にいる美咲と眼が合った。


 微かに微笑み、美咲が首を振った。

 それを見て、護は追撃を諦めた。

 間に合わないことを、一番わかっていたのは護だったからだ。


「美咲さんが……!」

「追っても間に合わない……」

「間に合わないからといって……追わないわけにいきませんわ……!」


 壁を支えにして、レオナが無理をして立ち上がろうとする。

 しかし、途中で手から力が抜け、壁に激突しそうになる。

 それを護が咄嗟に支えた。


「無茶するな……」

「今……無茶しなくていつしますの……!? 友人が攫われたんですのよ……!?」

「その体で何ができる? あの車がどこに行ったのかわかるのか?」

「っ!! ……どうして私を助けましたの!? レムリアは九条を恨んでいますのよ……!? なにをされるか……!」


 レオナの目に浮かぶ涙を見て、護は小さく目を伏せた。

 魔力の供給源として使う気ならば、下手なことはしないだろうと、護は予想していた。

 だが、先ほど腕を折ろうとしたところを見れば、それくらいはするかもしれない。


 ひとまず、命の危険はないだけで、確かに何をされるかわからない。


 それを思い、護は頭を振った。

 それはレオナが攫われたところで一緒なのだ。


 長年、争ってきたアストリアの貴族への恨みのほうが、長い分重いかもしれない。


「安心しろ。すぐに助けにいく。あいつらを逃しはしない……!」


 明確な殺意を一瞬だけ発した護は、フラフラとして立つこともできないレオナの肩を強く掴んだ。


「……約束……ですわよ……?」

「ああ、必ずつれて帰ってきてやるよ」


 そういって、護はレオナを担ぎ上げた。

 すでにレオナに意識はない。


 腹部が痛むのか、呼吸は荒く、汗も浮かんでいた。


 おそらく骨が折れてるな、と護は推察しつつ、あまり揺らさないように、しかし速く走り始めた。


 すぐにでも追跡したい気持ちがあったが、レオナをこのままにしておくわけにもいかなかったからだ。


 荒い呼吸を吐くレオナを見て、もう一度、護は微かに殺気を発し、それを押し込めた。


 怒りに飲まれれば、冷静さを失う。

 冷静さを失えば、助けられる者たちも助けられなくなる。


 一体、どれほどの生徒が攫われたのか。

 それ次第では手に負えない可能性も出てくる。


 とにかく急いでイージスを運んできたであろう“部下”たちと合流しなければ。

 そう思い、護はレオナに配慮しつつ、足を速めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。