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ギアフォートレス  作者: 佐乃上ヒュウガ
少年と少女
65/75

外伝4 弾幕の魔女と漆黒の盾

五年前の話になります。

掘り下げたいキャラクターが多くて困ります。


 シャーリーが初めて同じ第四世代ギアと交戦したのは、彼女が第四世代ギア、ウィズダムの正式パイロットになってから凡そ半年後。

 経済連盟の一国、北ダグラッド政府から受けた依頼でのことだった。

 北と南で内戦状態にあったダグラッドは一週間後に講和条約が結ばれる予定であり、それまでにガラムドの鉱山を占領出来れば交渉を有利に進めることが出来るのだとか。


 ガラムドの街の鉱山は国内最大で、大規模な攻撃を行わず手に入れたい。

 単体で高い戦闘力を有する第四世代ギアはその目的に合致しているといえた。


 現在鉱山を支配しているのは南ダグラッドの鉱山夫達で、主戦力は作業用の第一世代や第二世代ギア。そんな武装ゲリラ同然の連中を相手にシャーリーが雇われることになったのには理由があった。

 南ダグラッド政府もまた、北ダグラッド政府と同じ判断でローレスの傭兵を雇ったらしい。


「相手は第四世代……ははぁ、こりゃオリジナルだね」


 フォートレス、エアー2の中で、シャーリーの養母であるクラベルは苦笑する。

 クラベルはウィズダムの元パイロットで、シャーリーは彼女から機体を受け継いだ。


「相手は私と同じ二代目です。問題ありません」


 『大丈夫なのか』という、クラベルの言葉に滲む意図を察しながらもシャーリーはそれを否定する。

 クラベルに話を通す前に、シャーリーなりに相手のことは調査した。その上で、勝算のある勝負だと判断し依頼を受けることに決めた。


 第四世代ギア、シュヴァルツシルト。

 パイロットのクルトはシャーリーと同じく先代からオリジナルを引き継いだ二代目で、引き継いで早々にフォートレスを失っている。

 それほど珍しい話ではない。最近引き継ぎが行われたスカイブルーのパイロットも、傭兵としてまともな活動が出来ていないのだとか。


 ギアパイロット達は、概ね40を超える頃には現役を引退する。

 ギアによる戦闘が高速化の一途を辿る中、年齢による能力の衰えは致命的な隙となりかねない為だ。


 特に初期の第四世代ギア、オリジナルのパイロット達は五感や反射神経を強化する為の措置が施されている。

 当然何のリスクもなくそのような真似が出来る筈はなく、その身体には負荷がかかっている。

 通常のギアパイロット以上に、現役でいられる期間は短い。


 オリジナルのパイロット達が所有する機体、並びにフォートレスは個人の所有物として認められている。

 引退後に機体を誰に託すかの選択権はパイロットにある、ということだ。

 そうしてオリジナルのパイロット達―――初代から第四世代ギアを引き継いだ者達は二代目と呼ばれている。


 現状、二代目のギアパイロット達の評判はあまり宜しくない。

 パイロットとしての能力や戦闘経験が不足している為か、初代を超えるような成果を出している者は今のところ現れていない。

 そんな状況にシャーリーは憤りを感じていた。


「私は貴方の後継者として相応しい戦いをします。どうか見届けてください」

「相変わらずお堅いねぇ……。ま、好きにしてみると良いさ」

「ありがとうございます」


 ギアパイロットを引退してからはエアー2の艦長になったクラベルだが、部隊としての行動方針は現パイロットのシャーリーが決定している。彼女が口を出すことは殆どない。

 それだけクラベルに信頼されているのだ、と気楽に捉えることはシャーリーには出来なかった。


 機体を引き継いでからこれまで、勝手が分からずに躓くことが多く、失敗や損失を出すことも少なくなかった。

 けれど成功しても失敗しても、クラベルはいつだって楽しげだった。


 苦境に陥っても豪快に笑い、状況を楽しみ、そして最後には勝利を収める。

 何者をも寄せ付けず、その攻撃を逃れられる者は居ない。―――弾幕の魔女クラベル。


 そんな彼女にシャーリーはいつだって憧れていた。

 彼女の後継者として相応しい存在になるのだと努力を続けてきた。

 今までも、そしてこれからも。


「人も物も好きに使いな。レガッツ達にはアタシから話を通しとくよ」

「はい」


 力を示し、クラベルの見立てが正しかったことを証明する。その為にこんなところで躓いているわけにはいかない。

 落ち目の二代目が操る第四世代程度、物の数ではない。そう考えていた。

 その判断が誤りであったことを、シャーリーはすぐに思い知ることになった。







「(やはり、硬い……っ)」


 青と白を基調としたカラーリングが施された第四世代ギア、ウィズダムを操りつつシャーリーは歯噛みする。

 相性が悪い。ウィズダムが得意とする戦術はガトリングガンやアサルトライフルによる面攻撃だが、シュヴァルツシルトの持つ巨大な盾に弾かれダメージを与えられているように見えない。


 ウィズダムよりも一回り大きいシュヴァルツシルトは一キロ程離れた位置、鉱山の入り口手前を陣取っている。

 厚い装甲に覆われ、巨大な盾を構えた漆黒の大型機。頭部の一本角と相まって巨大な兜虫、或いは鎧武者を彷彿とさせられる。

 大艦巨砲主義という前時代的な設計思想で作られた機体だ。速度で翻弄すれば容易に決着を付けられると当初は考えていた。


 しかし今はその考えを改めている。相手のパイロットは決して三流ではない。

 シャーリーは左右に機体を振り、盾を抜いて本体にダメージを与えようと試みるのだが、シュヴァルツシルトはウィズダムの動きに合わせて位置を調整し直撃を避けている。

 何発かは当たっているのだろうが、散発的な攻撃ではエネルギーシールドを突破出来ない。


『ははっ、良い腕だねぇ。さぁ、どうすんだいシャーリー。予備はもうないよ!』


 思わぬ苦戦に顔をしかめるシャーリーとは対照的に、通信機越しのクラベルの声は楽しげだ。

 エアー2の対地兵器では鉱山そのものに被害を与えてしまう為、火砲支援は期待できない。

 その為シュヴァルツシルトはウィズダム一機で相手をする必要がある。


「分かっています」


 攻撃を続けつつ距離を詰める。

 有効打が与えられない場合に取る定石だが、迂闊には近づかない。二日前、接近しすぎたウィズダムはシュヴァルツシルトからの反撃を受け中破、フレームを換装している。

 右手に構えたライフルは大した脅威ではないが、大盾に隠されたシュヴァルツシルトの左手にはレールガンが装備されている。前回はアレにやられた。


「(同じ手は食わない。常に動き続ければそうそう当たるようなものではない。それに……)」


 蛇行しながら接近しつつ、肩に装備したグレネードランチャーからスモークグレネードを発射。

 同時に機体を切り返して加速。一気に距離を詰め、再び蛇行へと移行しガトリングガンによる制圧射撃を行う。

 敵の主武装は左手のレールガン。大盾でそれを隠すのは奇を衒う意味では有効だろうが、大盾を構えている間は使用できないなど欠陥もいいところ。


「っ!」


 そう思った矢先、件の兵器が向けられていることに気付き跳躍。次の瞬間発電に伴う雷光が生じ、レールガンが放たれている。

 何時の間にか、レールガンは右手に持ち替えられている。

 大盾によって視界が制限されているせいで見逃したのか。


「(小手先の技にばかり頼って……!)」


 苛立ちを覚えつつも、平静を保てと自分に言い聞かす。冷静さを失えば勝機を失う。

 今考えるべきは、ここで飛び込むか否か。

 レールガンはチャージに時間がかかる。今もうちに一気に距離を詰め、接近戦に持ち込むか。


「(……いや、何をされるか分からない。迂闊に飛び込むのは危険だ)」


 それ以前に、ここでそんなことを考えている時点で機を逸している。

 飛び込むのなら攻撃を回避した瞬間に決断を下すべきだった。


「(焦るな、落ち着けっ!)」


 戦術が上手く噛み合わない。これまでに相手にしてきた者達とは全く別種の相手だ。

 これまでシャーリーは、機銃による斉射で相手の行動を制限しつつ、その機動性で相手を翻弄するという戦闘スタイルで勝利を掴んできた。


 しかしシュヴァルツシルトにはそれが通用しない。

 弾幕を意に介すことなく、こちらの動きに翻弄されることもない。


 耐えることを知っている。負けない為の戦いをしてくる。

 シュヴァルツシルトは攻め気に欠け、殆どその場から動かない癖に決定打となるような攻撃は防いでくる。

 そうして後手に回り、一瞬の隙を突いて致命的な一撃を見舞ってくるのだ。

 ……知らなかった。後の先というものが、これ程厄介なものだったとは。


「(そんなことは、前回の戦いで分かっていたでしょう!)」


 そういう相手なのだということは前回の戦いで理解していた。そして対策も用意してきた。

 一度距離を取り、装備した機銃を一斉射。雨のように弾丸を浴びせ、仕上げにグレネードを発射。


 厚い装甲に装甲に頼り、機銃による攻撃の効果が薄いというのならより高威力の武装を用意するまで。

 足を止められた状況でこの攻撃を凌ぐ方法は……。


「……そんな」


 思わず声を上げる。本命の攻撃であるグレネード、その全てがシュヴァルツシルトの手前……爆発するより前に停止し、効果を発揮することなく地面へと転がり落ちた。

 まるで見えない壁にでも阻まれたように。


「(エネルギーシールド……)」


 シールドと銘打たれてはいるが、そのメカニズムはジュノーが持つ運動エネルギーを吸収する働きの応用だ。

 エネルギーシールドはジュノーに対し一定の出力の電流―――負荷をかけることで発生し、自身へと向けられた攻撃が持つ運動エネルギーを吸収し、無効化する。


 通常ジュノーには常に負荷がかけられ、エネルギーシールドは常時起動した状態となっている。これにより第四世代ギアへの攻撃は自動的に無効化されることになる。

 ジュノーが吸収しきれないだけの運動エネルギーを向けられ、オーバーヒートしない限りは。


 先程シャーリーが行った機銃の一斉射は足止めと同時に、グレネードの発射前にエネルギーシールドのオーバーヒートを狙ったものだった。

 しかし結果としてオーバーヒートは発生せず、グレネードは無力化された。


 あの巨体で機銃による攻撃を回避したとは思えない。

 ならば相手は何をしたのか。


『エネルギーシールドのマニュアル操作とは、やってくれるね』


 唸るようなクラベルの言葉に、シャーリーはようやく思い至る。

 ジュノーに常時負荷をかけるのではなく、必要な場合にのみ負荷をかけることで、エネルギーシールドのON/OFFを手動で切り替えている。

 戦闘中に、そこまで精密な制御を行っているのか。


「(っ、これだけ、戦える癖に)」


 シュヴァルツシルトの力量を見せつけられる度に苛立ちが強まる。

 当初その感情は、子供じみた八つ当たりのようなものだとシャーリーは思っていた。

 しかし、どうやら違ったらしい。


「(これだけのことが出来るのに、何故貴方はフォートレスを失って、今のような立場に落ちたのですか)」


 機体を壊すことが多い、機体の性能に頼った戦い方をする三流のパイロットという噂だった。

 しかし実際に戦ってみれば、それが全く的外れな評価であることはすぐに分かった。

 何故その実力を周囲に示さないのか。不当な評価を覆そうとしないのか。


 シャーリーには理解出来なかった。そして理解出来なくても構わないと思った。

 理解できないのなら、相手に直接聞けば良いのだから。


 クラベルの後継者に相応しいパイロットになる。そのように振舞い、戦い、戦果を挙げる。

 シャーリーはこれまで、それだけの為に戦ってきた。

 しかしこの瞬間、シャーリーの中で一つの明確な目的が生まれた。


「(勝つ。勝って、話を聞かせて貰うっ!)」


 その目的を果たすために、手段を選ぶつもりはなかった。


「艦長、グレネードの起爆を時限式から遠隔起動式に。合図はこちらでします」

『あいよ了解。ダニエルっ』

『暫しお待ちを』

「弾薬を」

『ポイントB36に投下しな』

『投下準備良し。三……二……一……投下!』

『起爆の設定、変更完了しました』


 相手の様子を伺いつつ、敵の死角となる場所に投下されたコンテナへと向かい弾倉を装填。

 大きく息を吸い込んで、戦術を組み立てる。


 離れた距離での撃ち合いは不利だ。機体の耐久性の差が出る。

 二流三流が相手ならば一切被弾せずに削り切ることも可能だろうが、この相手にそれは無謀。

 ならば狙うのは被弾覚悟の短期決戦。距離を詰めての撃ち合いに持ち込む。


「艦長。全弾、撃ち尽くしてきます」

『ふっ、ははははっ!』


 これまで聞いたこともなかったその宣言に、クラベルは酷く楽しげに笑い。


『行ってきな、シャーリーっ!』


 そうして、これまで通り景気よく己が娘を送り出す。


「はいっ」


 ウィズダムが死角から飛び出し、行動を開始。

 まずはこれまで通り、左右に大きく機体を振りながら徐々に距離を詰めてゆく。

 シュヴァルツシルトは右手のライフルによる牽制を行ってくるが、大盾に隠された左手がどういう状態になっているのかは伺えない。


 彼我の距離は六百メートル。出来ればレールガンによる攻撃を回避した上で一気に距離を詰めたかったが、使ってこない以上はやむを得ない。

 こちらから仕掛ける。


 トリガー。右手のガトリングガンと左手のアサルトライフルを同時に発射。

 カウンターを避けるために機体を左右に振りながら、都度照準を調整。

 しかしこれはあくまで牽制。


「一番、起爆用意。起爆後、対象のシールドの状況を報告して。それから、起爆を時限式に変更準備。でもまだ変えないで」

『了解っ』


 矢継ぎ早にエアー2のクルーに合図を送りながらグレネードを発射。

 カウントを開始。

 同じ二代目が相手な以上、自分一人の力で戦わなければならないと考えていた。今思えば、何てつまらない意地だったのだろう。


「三、二、一。起爆っ!」


 シュヴァルツシルトへと向かって放たれたグレネードが、シュヴァルツシルトに命中するよりも早く起爆。爆炎が広がる。


『効果認められず。シールドの展開を確認』


 爆発はエネルギーシールドで防がれたが、想定の通り。

 信管の起爆そのものをエネルギーシールドで抑えられてしまうと大したエネルギーにならないが、爆発したならエネルギーシールドをオーバーヒートさせるのに十分足りる。


「起爆を時限式に変更」

『変更完了!』

「良しっ!」


 エネルギーシールドさえなくなれば、グレネードの起爆は対象との距離を元にFCSによって設定される起爆時間で問題ない。

 レールガンによる反撃を警戒して左に大きく機体を跳躍させながら、更にグレネードを二発発射。

 再び爆発が生じる。


 ウィズダムは弾切れとなったグレネードランチャーをパージしながらさらに左に旋回。

 シュヴァルツシルトの側面を捉えられる位置取り。ここからの一斉射で仕留められる。


「ちっ!」


 その筈だったが、目の前に眼前には大盾が広がっている。

 こちらの動きに対応して防いできた。いやそれどころか、向こうから近づいてきている。


「くぅぅっ!」


 猛烈にイヤな予感を覚えつつ、強引に機体の軌道を変更。急激に増加したGに脳が揺れる。

 直後、鈍い衝撃音と共に振動が伝わってくる。


 シュヴァルツシルトがブースターで機体を加速させ体当たりを仕掛けてきたが、シャーリーはこれを察知して寸前で致命傷を避けることに成功。

 ぶつかった衝撃でウィズダムは大きくバランスを崩すが、オートバランサ―のお陰でどうにか持ち直す。


「(反撃を……っ、まだ来るっ)」


 シュヴァルツシルトが機体を切り返し、再びブースターで加速して動きを止めたウィズダム目掛けて突っ込んでくる。

 その右手に握られているのは、エネルギーアックス。


「(蛮族じゃあるまいにっ!)」


 大盾に手斧とは、一体いつの時代の戦闘スタイルか。

 シャーリーは両手の機銃による引き撃ちでこれに対応するが、バックブースターの加速では逃げ切れない。


 右にフェイントを入れて左に回避。

 幸いシュヴァルツシルトはフェイントに釣られたのか、右にアックスを空振り。

 そのまま左に旋回したウィズダムは、シュヴァルツシルトの無防備な背中に銃弾を浴びせてゆく。


 しかしそれも長くは続かない。

 シュヴァルツシルトはサイドブースターを用いて機体を独楽のように回転。再び盾がウィズダムへと向けられる。


「しつこい、いい加減に墜ちろっ!」


 我を忘れて毒づき、突っ込んでくるシュヴァルツシルトに対処する。

 盾による突進は回避できたが、エネルギーアックスは避けられなかった。左手一本で済んだのは幸いだと割り切って考える。

 右手のガトリングガンの方が火力は高い。


 気分はまるでマタドールだった。突っ込んでくるシュヴァルツシルトを躱し、機体に銃弾を叩き込んでゆく。

 とにかく体当たりだけは絶対に避ける。転倒して足が止まればウィズダムに勝ち目はない。

 エネルギーアックスによる攻撃も出来るだけ回避を試みるのだが、無傷とはいかず損傷が増えてゆく。

 しかしこちらもガトリングガンでダメージを与えている筈だ。


「はぁ……、はぁ……」


 荒い息を吐く。パイロットスーツの中は汗でグショグショだった。

 目が乾いて仕方がないが、瞬きをしている暇もない。


 これほどの恐怖を、緊張を、そして、生きているという実感を味わったのは、生まれて初めてだ。

 自分が笑みを浮かべていることを自覚しないまま、シャーリーは綱渡りを続けてゆくのだった……。







 依頼の期限である一週間が過ぎて、南北の政府間で講和条約が結ばれた。

 民達は手にした銃を地面に叩き付け、武器よさらばと声高に叫ぶ。

 長い内戦に疲れ切っていた国民は、ようやく国が一つに戻ったことを喜び、これを歓迎した。


 とりわけガラムドの街は大いに湧いていた。

 軍人や富裕層の多かった北側に対し、南側は搾取される立場にある労働者が多かった。

 劣勢であった南ダグラッド政府だが、ガラムドの鉱山の権利を有していた為に、不利な条件を飲まずに済んだのだとか。


 講和条約が結ばれて二日が過ぎたが、ガラムドの街は未だ終戦の喜びから冷めやらず、酒場は今日も大いに賑わっている。

 人が入りきらず、周囲の民家まで人で溢れてしまっていた。


 そしてその誰しもが南ダグラッドの英雄、クルトの雄姿を湛えていた。

 劣勢の南側に加勢し、ガラムドの街の占拠に多大な貢献をし、そして講和条約が結ばれるその瞬間まで鉱山を守り通したのだから。


「あーっ、くそ頭いてぇ。つえぇんだよここの酒はぁ……」


 一躍時の人となった英雄は、しかし青い顔でテーブルに突っ伏していた。

 勧められる酒を断りきれなかった代償は大きく、今まさにそのツケを支払っている最中だった。

 昨日その前とクルトを囲み、酒や料理を勧め武勇伝を聞きたがった住民達も流石に今のクルトの様子を見て遠慮しているのか、今日はそっとしておいてくれている。


 ウェイターの娘さんが気を利かせて用意してくれたピッチャーから注いだ水を一口飲んで、また突っ伏す。

 今日一日碌に動けそうになかった。


「(しかし、ギリギリだったなぁ……)」


 思い返すと今回の戦い、特に最後の一戦は紙一重だった。

 まさか北側まで第四世代のパイロットを雇ってくるとは思わなかったし、そのパイロットがあれ程の腕利きだとは思わなかった。

 あと、鉱山付近だというのにグレネードをばら撒いて機銃の一斉掃射をしてきたのにも肝を冷やした。


 挙句最後は至近距離での削り合いチキンレース。

 幸いなことにギリギリのところで相手の弾薬が切れたようで撤退していったが、シュヴァルツシルトはほぼ大破。今回の依頼料が丸ごと吹き飛んで足が出てしまった。


「(あー、考えたくねぇ。酒飲んで忘れるか)」


 頑張れ明日の俺、などと無責任に現実逃避を計ろうとしたところで、不意に声を掛けられる。


「酷い姿ですね。正直幻滅しました」

「……あん?」


 のろのろと顔を上げる。いつの間にやら、一人の少女が同じテーブルに着いていた。

 ダグラッド人ではない。美しい金髪をショートカットにした、色白で小柄な少女だ。

 人形を思わせるような整った顔立ちで、フードから覗く手足もほっそりとしている。


 自分より一回り、いや下手をしたら二回り若いかもしれない。

 三十路ももう半ばを過ぎちまったなぁと哀愁を感じながら、気落ちしてまた突っ伏す。


「……あの、こちらの話を聞いていますか?」

「あー、聞いてるよ。何の用だいお嬢ちゃん」


 気分を害してしまったようなので、頑張ってまた顔を上げる。

 少女は『何でこんな人に……』などとブツブツ言っているが、よく聞き取れない。


「要件の前に先ずはご挨拶を。私はシャーリー。こうして顔を合わせるのは初めてですね」

「あー、はい。こいつはご丁寧にどうも。俺はクルト」

「存じております。フォートレスを失った第四世代ギア、シュヴァルツシルトのパイロット」

「……嬢ちゃん、何者だ?」

「同業者です。ところで不躾な提案になるのですが」


 右手を差し出し、シャーリーは告げる。


「私達と組むつもりはありませんか?」


 それが二代目弾幕の魔女と、二代目漆黒の盾の出会いだった。

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