第61話 読めない真意
フォートレス ランスロットの専属メカニックを務めるガーランドは、ゼクトとセレニアのことが正直苦手だった。
厳つい見た目ではあるもののガーランドは妻帯者で、クラナダには愛する妻と二人の子供が待っている。
子供の年齢は十四と十六。丁度彼らと同じくらいの年頃だった。
ガーランドは彼らが戦いに出ることを歓迎していない。
上官であるヒルダに命令されて渋々ながら機体の整備を引き受けているが、あのような子供を戦場に出すなど、正直どうかしていると思う。
そのような感覚を持ってしまうのは、自分が技術者だからだろうという自覚はあった。
戦場に出れば年齢など関係ない。強いか弱いか、生きるか死ぬかという結果があるだけだ。
二人はそれぞれに強さを持っている。そして、その強さをヒルダは必要としている。
しかし、そうはいっても割り切って考えられないのがガーランドという人間だった。
「で、坊主。お前のこの機体、いい加減限界だが。どうすんだ、バラするか?」
「えっと、バラして修理ってことですか?」
「アホか。ギアをバラすってのは廃棄ってことだ」
「あの、それはちょっと困るんですが」
出会い頭のガーランドの第一声に困惑気味のゼクトだったが、ガーランドの方は半ば以上本気だった。
帝国製のファランクスは確かに頑強な機体だが、ゼクトが体験した二度の戦いはどちらもが激戦だった。
戦闘のダメージと無茶な挙動の連発、おまけに大型ブースターによる強引な加速で特に足回りが限界に達している。
そういう細かい説明をしてやろうかと思ったが、どうせ聞いても理解しないだろうということは分かっていたからあえて省いた。
以前に話をした時に気付いたのだが、ゼクトは自分が操っているギアに関する知識を殆ど持っていない。
そんな状態でどうやってギアを操縦出来ているのかと問うたが、サイコメトリーだの思念がどうのと要領の得ない回答をするばかりでガーランドには全く理解できなかった。
ただ、ゼクトはギアの操縦訓練を受けておらず、直感だけで機体を操縦しているということだけは分かった。
お前はどこのフィクション作品から飛び出してきた主人公かと、ガーランドは危うく声を上げる所だった。
「第四世代を墜としたんだろ? 十分な貢献だ。ヒルダの嬢ちゃんにはこっちから説明しとく」
第四世代ギアが撃墜されること自体珍しいことだが、第三世代ギア単機でそれを成し遂げたとなると殆ど奇跡的な快挙だ。ゼクトとセレニアの取った戦法が教本に追加されても不思議ではない。
その戦力は有用で希少。それはガーランドも認めている。
しかし同時に酷く不安定だ。彼らの戦い方を映像で見たが、まるで素人のサーカスでも見ているかのような不安を覚えさせられた。
動きが不自然でぎこちなく、落下一歩手前の綱渡りを見せられている気分だった。
だから、良い機会だとガーランドは思った。最前線から離れるまたとない口実だ。
機体がないのでは戦いようがない。本人がどれほど望もうが、どれほど望まれようが。
「えぇと、何か、他の機体とか」
「ナイトG3のシミュレータ、スコアは?」
「あー、D-」
「新兵以下。お前さんお得意の勘とやらで動かせるのは帝国系のギアだけってことだ」
以上で話は終わりとばかりに作業に戻ろうとしたガーランドを引き留めたのは、セレニアだった。
「損傷したパーツの代用は出来ませんか」
「……ナイト系のパーツなら幾らでもあるが、帝国の機体となるとな」
「鹵獲したトルーパーのものを流用すれば良いのでは」
迷いのない言葉。鹵獲したトルーパーが手元にあること、技術的にそれが可能であることを確信しているかのような提案。
心を読まれたと確信する。ヒルダから話は聞いていたが、実際に体験してみると確かにこれは恐ろしい体験だ。
しかし心が読まれるということ以上に、ガーランドはセレニアという少女の精神性が信じられなかった。
何故彼女は正気でいられるのだろうか。
考えが全て読めるというのなら、今ガーランドが考えていることもセレニアには筒抜けということになるのではないか。
そんな状態で、何故セレニアは正気を保っていられるのだろう。
「嬢ちゃん」
目の前の少女に恐怖を覚えながらも、それでもガーランドは言葉を発した。
ここで黙って彼女の指示に従うような賢しさを、ガーランドは持ち合わせていなかった。
「そんなに坊主を戦場に出したいのか」
「戦場には私も出ます」
「死ぬ時は一緒とでも言いてぇのか、ふざけんな!」
女性相手でなければ掴み掛かっていたかもしれない。
初めに会った時もそうだった。表情一つ変えることなく、セレニアは自身とゼクトを戦場に向かわせようとするのだ。
彼がどれだけセレニアを大切に思っているか、傍で見ているだけでも十二分に感じ取れる。
セレニアが他人の心を読めるというのなら、何故ここまで向けられる好意に対して無神経でいられるのか。
そんな彼女を庇うように、ゼクトが立ちふさがる。
「待ってくれよガーランドさん。その、今セレニアが言ったやり方でどうにかなるんですか?」
「……技術的には不可能じゃない。トルーパーの部品で代用は効く」
大きく溜息を吐いて、どうにか怒りを沈めてガーランドは答える。
ファランクスはトルーパーの上位互換だ。
基本設計を変えることなく機体の耐久性を向上させて、量産化に伴うコスト削減の為にオミットされた機能を搭載したのがファランクスになる。パーツの代用は可能だ。
「だがファランクスほどの無茶は利かなくなる。特に大型ブースター。ありゃ駄目だ。トルーパーじゃ足がもたん」
「そっか」
ガーランドの言葉に、ゼクトは暫し考え込んだ。
目を閉じ、集中している様子だ。
「ま、これまでみてぇな無茶な接近戦を避けて、中長距離主体の装備ならそこそこ」
彼らを戦場に出したくないというのがガーランドの本音だったが、技術者として、どうしても戦場に出るのだと言われた時の回答は準備していた。
しかしそんなガーランドの言葉を遮るように、ゼクトは小さく呟いた。
「連続使用は、10秒ってところか」
「……坊主よぉ」
どういう勘をしていやがるのか。
基本セレニアに振り回されているゼクトもゼクトで、得体が知れないところがある。
まるで以前に同じ状況に遭遇したことがあるようではないか。
どうあれ理解する。
結局二人は、ガーランドが何を言ってもこの戦いを降りるつもりはないのだ。
やむを得ないと、ガーランドは気持ちを切り替える。
如何にして二人を諦めさせるかではなく、如何に二人を生存させるか。その為の方法を考える。
冷めた珈琲を胃に流し込み、ガーランドは椅子代わりのコンテナを三つ引っ張り出す。
次の作戦まで時間がない。早々に話をまとめ、作業に取り掛からなければ間に合わない。
この異色の機体を仕上げるにはパイロットである二人の意見が必要不可欠だ。
これまでガーランドの心には、二人を戦争に巻き込んでしまったという罪悪感があった。
しかし最早それもない。何故ならばこれは二人が望んだ戦いなのだから。そしてガーランドもまた、整備主任としてそれに付き合うと決めた。
無茶に付き合うと決めたのならとことんまで。
そういう妥協のできない生真面目さこそ、ガーランドがラウンズの専属メカニックを任されている要因だった。
「ラズフィアからの増援が到着した」
『ようやくですか』
ランスロットとエアー2で通信回線を繋げての、連合国軍と傭兵団の合同作戦会議。
ヒルダからの報告にシャーリーは短く答え、そして続けた。
『あてにして良いのですか?』
「彼らには基地の防衛を任せる。前線に立つのは我々と君達ということになる」
『で、俺らは本格的にボーディガーを攻める訳だ』
「そういうことだ」
クルトの言葉を肯定する。
ラズフィアの日和見主義は有名だが、その辺りの調整はヒルダの直属の上司であるクラウディアが事前に済ませている。
指揮官を多くしても碌なことにはならないし、こちらの指揮下に入れて何かあれば責任問題になる。
ラズフィアからの増援は基地の防衛に充て、これまで分散させていた戦力を集中して攻勢に出るのがヒルダの計画だった。
『帝国側に動きは?』
「ない。ボーディガーの戦力はこれまでに確認したものから大きな変化はないものと思われる」
『……陽動が目的かねぇ』
想定していたよりも帝国軍の動きが鈍い。これは以前から話題に上がっていたことだ。
本気でノイデンを支配下に置きたいのなら、連合国や経済連盟の戦力が到着する前に大戦力を投入し、電撃戦で一気に決着をつけるべきだった。
しかし帝国は前線基地であるボーディガーに一定の戦力を投入しただけで、攻撃は散発的だ。
最高権力者である永世大統領ロベルトの指揮下の元、即断即決、全力投入が帝国軍の特徴だった筈なのだが。
『だとしても、ボーディガーの戦略的な価値に変わりはありません』
「そうだな。その辺りの備えは上が行っている。我々は務めを果たすだけだ」
戦力の配分や戦略的判断は然るべき処が行っている。ヒルダ達の役割はノイデンに侵攻する帝国軍の迎撃だ。
『作戦決行は?』
「そちらに問題がないのなら三日後を予定したい。詳細は別途連絡する」
『問題ありません。準備を済ませておきます』
帝国側に増援がないのなら好都合。このままボーディガーを落とせば、こちらから帝国に攻め入ることが出来るようになる。
未だ対話に応じる様子を見せない帝国の動きを牽制する上で、ボーディガーの攻略は重要な意味を持つ。
それがヒルダ達の判断だった。




