第51話 対話の道
ゼラキエルの無力化とガルガンディアの撃墜で、戦いの趨勢はラーダッド側に傾いた。
空ではスカイブルーを主力とした航空部隊がカレスを護衛する航空機を撃墜してゆく。
そして地上ではリリィとマリィを始めとしたギア部隊が連携し、複数機でもってハウンドを確実に仕留めてゆく。
ドライのアサルトハウンド一機ではこの流れを止めることは出来ない。
「(カレスの撃墜を回避して時間を稼ぐ。ゼラキエルの再起動に成功すれば逆転の目が出てくる)」
マザーからの指示により、全部隊は積極的な攻撃を控え自衛に専念させている。
ゼラキエルはスレーブやリーダーからの送信機能を停止させ、システム集中管理型に変更して再起動中。
再起動にかかる時間は凡そ十五分。ドライの計算ではまだ勝算はある。
今攻撃を仕掛けてきている敵機、スカイブルーさえカレスに近づかせなければ。
「(止まらない。遠距離からの攻撃では足止めにならない)」
単機でスカイブルーを食い止めることは困難と見たドライは、一部の航空機を指揮化に置いた。
そうしてカレスの甲板に上がり、二丁の狙撃銃を装備してスカイブルーを迎え撃とうとした。
しかし、その進撃を止めることが出来ない。スカイブルーは圧倒的な加速でミサイルを振り切り、ドライの狙撃を避けながらカレスへと迫ってくる。
食い止めるには接近戦しかないが、中近距離でスカイブルーの足止めを担っていたガルガンディアは撃墜された。
戦闘機では足止めにはならない。機銃による牽制はエネルギーシールドによって阻まれる。
狙撃型の機体は、前衛を務める僚機が居る状況では圧倒的なアドバンテージを持つ。
その射程の長さを活かし、相手が反撃できない距離から一方的に攻撃が出来るのだから。
しかし反面一対一の状況では相手に攻撃を読まれ、接近されてそのまま撃墜されるリスクがある。
そう、一対一だ。既にスカイブルーは周囲の戦闘機を敵と見なしてはいない。なりふり構わずブースターを全開で起動させカレスへと突っ込んできている。
この様子ではエアー7に帰艦する余力を残すつもりもないのだろう。
カレスに取り付いて足場にする。この攻撃で決着を付けるつもりなのだろうとドライは理解した。
「(させない)」
僚機への指揮権を放棄。通信、索敵、戦況分析、そうしたプロセスを全て終了。
接近するスカイブルーへの対処とその行動の先読みにあらゆるリソースを投入する。
ゼラキエルの膨大な演算能力を使うことで実現した、敵の回避行動の予測。これをドライ自身の演算によって再現する。
一撃目が避けられることを前提として、もう一丁の狙撃銃でスカイブルーの回避予測地点へと射撃。
命中。エネルギーシールドを貫通。一定のダメージを与えられたものと推測するが敵の動きは止まらない。
続く三発目、四発目は回避される。回避予測が外れたか、或いは行動を予測されていると知り回避パターンを変えてきたか。
更に不要なプロセスを終了。再び回避地点を予測し攻撃を続行。
六七八九十。二丁の狙撃銃を全弾撃ち尽くす。
敵機へのダメージ推測の機能をカットしたため、今のドライにはスカイブルーの損傷状態は判断できない。
ただ敵機はいまだ健在で、カレスの間近まで迫っていることだけは認識できた。
それだけの理解で十分だった。
弾を撃ち尽くした狙撃銃を放棄し、ツヴァイの機体の為に用意されていたガトリングガンを二丁装備。
迎撃に出ようとして、機体の反応速度が著しく低下したことに気付く。
重量オーバー。一丁を投棄し、スカイブルーに向かってドライの方から討って出る。
残弾や銃身の冷却、射撃時の反動など一切考慮せずガトリングガンのトリガーを引き続けた。
遠距離型のFCSによる照準が間に合わずとも、スカイブルーの正面に位置するよう機体を移動させれば自然と相手に銃弾は集まる。
スカイブルーのアサルトライフルによる反撃がドライの機体に直撃するが、エネルギーシールドがそれを阻む。
しかしそれも長くは持たず、オーバーヒート。アサルトハウンドに銃弾が直撃し装甲が削られる。損傷は不明。自機の被害状況の確認機能など、真っ先にカットしている。
機体が大きく傾くが、ガトリングガンを放棄してどうにか高度を保つことに成功する。
スカイブルーは後数秒もすれば衝突するような至近距離にまで迫っている。
敵機の回避行動を予測し、その進路を塞ぐようにドライはアサルトハウンドを操作。
これを察したスカイブルーは寸前で衝突を回避。しかし伸ばされたアサルトハウンドの腕は奇跡的に、スカイブルーの足を掴む。
バランスを崩した両機は錐揉みしながら地上へと落ちてゆく。
スカイブルーはどうにか体勢を立て直したが、その速力は失われ既に落下は始まっている。この状況でカレスに取り付くことは不可能だ。
墜落しそのまま撃墜、とまではいかなくとも、十分な足止めといえる。
目的を果たしたことを理解したドライは、終了していたプロセスを再起動。
そして、気付く。
『……ったく、こんな役割ばっかりだな、今回は』
スカイブルーからの通信が入っているが、構っている余裕はドライにはなかった。
地上へと落ちてゆくアサルトハウンドが見上げた空の景色に映るのは、有りえない存在。
空と同じ色の装甲をしたギア。もう一機の、スカイブルー。
『聞こえてるかどうかは知らんが、アンタの勝ちだ。大したもんだよ』
状況把握が追い付かない。何が起きてたのか分からない。
ただ、その光景が意味することだけは理解することが出来た。
『いえ、私の敗北です。人間とはこのようなことが出来るものなのですね』
ドライと戦ったスカイブルーは、彼女の捨て身の行動によって地へと向かって落ちている。
しかし一機のスカイブルーがカレスへと迫る。それを阻む術は、最早ドライ達には残されていなかった。
これはあまり知られていることではないのだが、ラーダッドには一つ、ジュノーエンジンが存在している。
以前にユウリが撃墜した、新月に使用されていたものを回収し修繕したものである。
ヴィクトルは倭国と交渉し、このジュノーエンジンを自国で保管する許可を求めた。
脱走したギアパイロットがラーダッドでテロ行為に加担するという、言ってしまえばラーダッドに対し負い目のある倭国はそれを承諾したのである。
「くっ、クライド、もう少し速度を落とせませんか?」
「出来るか、制御で手一杯だ!」
とはいえそれは、第四世代ギアを手に入れることにすぐさま繋がる事柄ではない。
ジュノーエンジンを手に入れたとしても、それを活かすの機体がなければ意味を成さない。
第三世代ギアに無理矢理ジュノーエンジンを搭載しても、その出力を持て余し不安定になるだけだ。
ジュノーエンジンと第四世代ギア本体、そしてそれを扱えるパイロット。
これを揃えることで初めて第四世代ギアは完成に至るのである。
『軌道修正、左に3。後は直進』
「これで良いんだろ!?」
『修正、右に2! 下に1! もっと丁寧にやってよ!』
当然今のラーダッドに第四世代ギアを独自開発する技術力などない。
言ってしまえば宝の持ち腐れなのだが、ヴィクトルはこのジュノーエンジンをヴィレット空軍基地へと輸送し、エアー7に積み込ませた。
そしてエアー7には、予備のスカイブルーのフレームが用意されている。
『ユウリっ……は、大丈夫みたい。なんかAIを褒めてるけど』
『ちゃんと着地出来るんだよねっ!? そっちのフォローまではとても手が追い付かないよ』
『聞こえた? ユウリ。サポートはないから一人で何とか着地を成功させろ、ですって』
この状況に至ったそもそもの要因はクライドにあった。
彼はダリアがマザーとの対話を望んでいることをエレナ達に伝え、その計画に協力するよう要求した。
マザーとの対話にはカレスに乗り込む必要があり、そしてその為にはエアー7を持つ彼女達の協力を得るのが最善と判断した為だった。
クライドの計画は以前にガルガンディアを撃墜した際と同様。エアー7からサンダーアローを用いて、ライトニングハウンドで強襲をかけるというものだった。
しかしサブシートのダリアがそのような反動に耐えられる筈がない。そのような大博打は無謀であると却下され、現在の計画へと変更された。
とはいえヴィクトルが承知しているのは予備のスカイブルーにクライドを乗せるということまでで、そこにダリアまで同行するというは完全に想定外なのだろうが。
『距離一〇〇〇。進路そのまま。敵機に迎撃の様子なし。で、どうするの?』
「あ? んなの決まってんだろうが」
手にした武器はショットガンにエネルギーブレード。
空戦などまるで考慮していない、火力しか頭にない白兵武装。とはいえこれは最後の手段。
クライドはマザーに通信を繋げる。周波数が自分の知るものと変わっていれば、その時こそ装備した武装が役割を果たす。
「開発者が話があるっつってんだ、ハッチを開けやがれっ!」
「やっ、あの、流石にそれは……」
ドストレートなクライドの要求にダリアは言葉を失うが、彼には確信があった。
マザーはこちらとの対話に応じる。
その確信があったからこそ彼はダリアが同行するのにも承諾したのだ。
『歓迎いたします』
応答と共に開かれるカレスのハッチ。
その結果にダリアは驚愕し、クライドは笑みを浮かべるのだった。




