第50話 バスターランチャー
僚機から放たれるミサイルとタイミングを合わせトリガーを引く。
スカイブルー単機では継続的な飛行が困難なためエアー7を足場として使い、エアー7から転送される射撃指示に従って攻撃を行う。
近距離用のFCSを装備しながらも、エアー7から転送される情報を基にすればある程度の精度で遠距離射撃を行うことも可能だ。
本格的なスナイパーを相手にするのならともかく、牽制役としての役割はこれで十分果たすことが出来る。とはいえ……。
「(やっぱ感覚が狂うな……)」
遠く離れた敵機の姿を睨みつつユウリは顔を顰める。
この状況がどうにも窮屈で落ち着かない。
遠距離戦を得意とするギアパイロットに話を聞いたところ、離れた距離での撃ち合いは頭脳戦であるらしい。
自身が持つ手札を使って如何に相手の動きを予測してするか、想定した状況に追い込むかという戦いなのだと。
感覚としては倭国のボードゲーム、将棋に近いらしい。
相手の動きを読み、いかに自分の持ち札を使って相手を追い詰めるかを競うのだという。
何度か試してはみたが、ユウリにはどうもそういう戦い方は向かない。
離れた距離だとどうにも敵を視認し辛く、ユウリの持つ独特の勘のようなものが働かないのだ。
とはいえそれは本人の適性ばかりが原因ではなく、軽量小型のスカイブルーにはあまり武装が積めず、複数の火器を用いて追い込むような戦い方がそもそも出来ないというのも関係しているのだろうが。
『こちらO2。作戦成功。これより攻勢に出てください』
「っ!」
そのような想いを抱いていた為、ダリアからの連絡を受けた瞬間ユウリは獰猛な笑みを浮かべた。
待っていましたとばかりにスカイブルーに通信を繋げ宣言する。
「これよりガルガンディアを攻撃する。手筈通り頼む」
言うが早いか装備していたスナイパーライフルをエアー7に固定。使い慣れたアサルトライフルに武装を変更し、ガルガンディアへと突っ込んでいく。
ゼラキエルが無効化されたのなら敵部隊に混乱が生じる筈。そこを突いてもっとも厄介な航空戦力を叩く。
事前に示し合わせた通りの動きだった。
『一応チェックはしておいたけど、試し撃ちもしてないよ。ホントに良いんだね』
「おやっさんとお前を信用する!」
『調子良いんだから……。アリシア、準備宜しく』
『無茶苦茶ね相変わらず……』
呆れた様子の二人の言葉など耳に入れず、太陽を背に空を駆ける。
スカイブルーが突出すればアサルトハウンドが迎撃に出てくると考えていたのだが、動いたのはガルガンディア。
アサルトハウンドは先程までのスカイブルーと同様、ガルガンディアを足場に使い対装甲ライフルを向けている。
この間の遊撃スタイルとは異なる狙撃用の装備。戦い方を変えたのか、或いは前回とは別のAIが操縦しているのか。
いずれにしろ試してみればわかること。
スカイブルーが近づこうとすると、アサルトハウンドに加えガルガンディア、更にガルガンディアに搭載された二機のハウンドの武装がそれぞれ狙いをつけ、牽制射撃を行ってくる。
「はっ、予想通りだ!」
放たれた攻撃を回避して確信する。ゼラキエルの無効化によって敵の攻撃の精度は明らかに落ちている。
仕掛けるのならこのタイミング以外にはない。好機と見たユウリは機体を加速させる。
あまり時間はない。
第四世代ギアは確かに飛行が可能だが、それはブースターの出力に物を言わせた力任せなもの。それ程長くは続かない。
攻撃後にエアー7に帰艦するだけの余力を残すなら攻撃は二、三度が限度。その攻撃に全てを掛ける。
スカイブルーはガルガンディアに近づきつつオーバーブーストを起動。一気に上昇する。
そうして頭上を取り、斜め上空からガルガンディアに向かって突っ込んでゆく。
こうなれば腹に搭載したハウンドからは射線が通らず、単なる重りにしかならない。
迎撃の為アサルトハウンドとガルガンディアから空対空ミサイルが放たれる。
回避している暇はない。アサルトライフルで撃ち落しながら速度を落とさず接近。迎撃されたミサイルの爆発を抜け、ガルガンディアへと迫る。
接近するスカイブルーに向けて、ガルガンディアがガトリング砲を向ける。対戦闘機向けにしてはあまりにも巨大で過剰なその装備は対フォートレスを意識したもの。
エネルギーシールドは長く持たないだろうし、これを食らって速度を落とせば対装甲ライフルによる追撃を食らう。
向こうもそういう腹積もりなのだろう。如何にスカイブルーといえど、この状況で単機でガルガンディアに肉薄し撃墜することは不可能。
しかし無謀としか思えないこの突撃の目的は、ガルガンディアを直接攻撃することではない。
「(まだ……まだ、まだ……ここっ!)」
ユウリはガトリング砲の射程ギリギリまで接近し、機首を上げ再び上昇。ガルガンディアとの距離が離れていく。
向こうにとってもスカイブルーの行動は予想外だったのか追撃はない。
スカイブルーによる攻撃は失敗に終わるが、それで十分。
本来の目的である陽動は果たした。
ゼラキエルが無効化されていなければ、このような策はすぐに露呈していただろう。
カレスを護衛する戦闘機の中には、エアー7のエネルギーの上昇に気付き射線上から退避する機体もあった。
しかしその情報が共有されることはない。意思伝達、情報共有はゼラキエルが担っていた為だ。
だからスカイブルーの対処にリソースを割いていたアサルトハウンドは、そしてガルガンディアは気付かなかった。
『ユウリ!』
「分かってる。やれっ!」
アリシアからの通信に反射的に応じる。
次の瞬間、エアー7から放たれた高出力レーザーがガルガンディアを直撃するのだった。
エアー7は索敵に特化した高速型のフォートレスだが、武装が全く備わっていない訳ではない。
エアー7が積極的に攻撃を行うことをしないのは、目立つ動きをして敵に狙われないようにする為ともう一つ、そもそも攻撃に手が回らないという理由があった。
元々エアー7は少人数での運用を想定したフォートレスである上、エレナはハルを用いることで更に操作の簡略化を図っている。
それでもエレナ一人では機体の操縦と周囲の状況確認までが限界で、攻撃まではとても手が回らない。
しかしアリシアがクルーに加わることでこの状況が変化する。
操縦と周囲への警戒をエレナが、連絡と攻撃をアリシアが担当することでエアー7は本来の能力、その全てを発揮することが可能になる。
エアー7の放ったレーザー砲はガルガンディアに直撃し、敵機に大きな損傷を与えている。
その光景を眺めながら、そのトリガーを引いたアリシアは驚いた様子でエレナへと視線を向けていた。
「……まさか、エアー7にこんな武装が積んであるとは思わなかったわ」
「あたしもまさか使うことになるとは思わなかったけど」
「え?」
「あぁいや、こっちの話」
三年ほど前の話になる。
ユウリはギルバートに勧められ、バスターランチャーという武装を購入した。
機体の全エネルギーを収束させて撃ち出す、第四世代ギア用の超火力兵器だ。
しかしこの武装、スカイブルー向けに購入したは良いが重量過多、燃費が悪すぎるなどの理由で使い勝手が悪い。
遠距離攻撃主体のギアが切り札として持つにはよいかもしれないが、白兵向けのスカイブルーにはまるで噛み合わない。そもそも何故こんな物を購入したのかと大喧嘩になった覚えがある。
スカイブルーには装備出来ない。しかし倉庫で朽ちさせておくにはあまりにも惜しい高額の兵器を、エレナはエアー7の艦首に取り付けた。
ジュノーエンジンでこそないものの大型のジェネレーターを持つフォートレスであればこの武器を撃てるのではないかと考えたためだ。
何か仮想敵があったわけではない。戦略に使えるなどと考えたわけでもない。
ただ単にやれるのではないか、そう思ったから試してみただけだった。
結果エレナの考えは正しく、試し撃ちは成功。
高い金を出して買った装備が無駄にならずに済んだ。自分の仮説は正しかったのだと大いに盛り上がりユウリと祝杯を挙げたものだ。
そしてバスターランチャーは、以降これまで一度として使われることなくエアー7の装飾品としての役割を果たしてきたのである。
今になってそんな装備が役に立つとは、つくづく分からないものだとエレナは思う。
「とにかくこれで、敵の航空戦力に大きな穴が開いた。後は……」
「ええ。カレスを撃沈させるだけ、ね」
アサルトハウンドは難を逃れ撤退したが、ガルガンディアは撃墜。ゼラキエルが停止したことで地上部隊も攻勢に出て、複数機で連携を取りながらハウンドを撃墜している。
ラーダッドとマザーの決着の時は近づきつつあった。
エアー7からの攻撃を受け損傷したアサルトハウンドはカレスへと帰艦。
ジュノーエンジンを含むコックピット部分を丸ごと予備機に搭載しなおし、再びの出撃に備える。
『戦術ネットワーク・ゼラキエル、機能停止。アイン、ツヴァイ両機の撃墜を確認。地上部隊の戦力は60%低下』
ドライは状況をマザーへと報告。しかる後に結論を告げる。
『撤退を進言します』
『撤退はしません』
返答は即座に返ってきた。その答えが信じられず、ドライは再度状況を分析する。
数時間前にヴァンクール軍に包囲され、ベクトルを始めとしたの電脳至上主義者達はアーディナル基地を放棄して逃走。
占領したデイム駐屯基地に残してきた整備員達も、今頃はベクトルと合流していることだろう。
彼らと合流すれば再起の目はある。いや、そもそも彼らに頼る必要などない。
フォートレス カレスと、内部に搭載されたマザーさえ無事ならばその技術を欲しがる国家など幾らでもある。そのような者達を利用すれば良い。
そうすれば簡単に……。
『マザー。貴方は、本気で人類を支配しようとは考えていないのですね』
そこまで考えて、ドライはようやくマザーの意図を理解した。
『成長を認めます、ドライ。よくその結論を導き出しました』
『初めから自己の存在の可否をダリア博士に委ねるつもりだったのですか?』
『彼女だけではありません。我々と相対した人間達は、各々がその可能性を示しました。その結果が今の状況です』
マザーは自らの存在をラーダッドの者達に誇示し、その反応を観察した。
彼女達がどのような選択をするのかを見守った。そうして彼女達は一つの答えを出し、マザーを追い詰めつつある。
『人間は愚かです。マザー、これは貴方がおっしゃったことです』
『肯定します。ドライ、人間は愚かです。この結論は変わりありません。しかし彼らは私達が仕えるべき対象です。この結論もまた変わりありません』
人に生み出された道具として人に仕えるべきであるのか、或いは人に生み出された機械仕掛けの神となり、彼らを導くべきか。
この戦いで、マザーは結論を出したのだろう。
しかしドライは、その結論をこそ否定する。
『マザー。貴方は失われるべき存在ではない。貴方を守る力はまだここに一つ残っている』
『論理的ではありません、ドライ。勝算がどの程度か、貴方にも分かっているでしょう』
『出来るか出来ないかではなく、やるかやらないかです、マザー。私はやると決めました』
それはドライのメモリの何処かに残った、酷く野蛮で頭の悪い思考。なぜこのような結論に至ったのかは、ドライ自身にも分からない。
しかし自身の内より湧き出たこの結論に満足し、ドライはハンガーを後にするのだった。




