第47話 ダリアの提案
ヴィレット空軍基地の一室には今回の件の責任者であるヴィクトルとダリア達が集まっていた。
マザーの開発者であるダリアと、その元となった技術を提供したエレナはマザーによる進攻に対処する切り札となり得る存在だ。
出来ればラーダッド側の上級士官や参謀も集めたいところだったが、対外的には敵の正体は不明となっている為事情を知る者だけが集められた形になる。
「目標は敵フォートレス、カレスだ。マザー本体であれその端末であれ、カレスが敵部隊の旗艦であることは間違いないだろう」
言いながらヴィクトルが視線を向けたため、ダリアは頷いて肯定した。
「カレスはヴァルキュリア・システムの使用を前提に作られたフォートレスです。他の機体での代用はできないでしょう」
「とはいえ話はそれほど簡単ではない。偵察時の動きから見て、カレスは地上部隊と連携を取る為高度を落としてくるだろう」
カレスはアサルトシフトを展開する為、ミサイルによる長距離攻撃は現実的ではない。
かといって直接攻撃をしようにも地上部隊からの砲撃と、アサルトハウンドとガルガンディアを主力とした航空戦力が妨害してくる。
「何にしろ相手の戦力を削る必要がある訳だ」
「一番の問題は、戦術ネットワーク・ゼラキエルでしょう。敵の攻略に、ゼラキエルの無力化は必須と言えます」
どうしたものかと声を漏らしたユウリの言葉に、ダリアが応じた。
視線が集まるのを確認し、ダリアは端末を操作する。
スクリーンに表示されるのはツリー状に繋がったギア。その際上位にはカレスが位置している。
「各機の観測データをリアルタイムで上位ユニットに送信。この情報を元に上位ユニットが今後の戦況の予測や戦術を決定します」
「流石にラプラス程精度の高いモノじゃないだろうけどこちらの行動も予想してくるし、効率的な戦い方をしてくる。厄介な代物だね」
「確かにこれを無力化出来れば戦況は有利になるんだろうが」
ユウリが言わんとすることはダリアにも理解出来た。理屈は分かるが、どうやってそれを成すのか。
勿論無力化すると言うからには、考えはあった。
「そちらについては考えがあります。システムの脆弱性を突きクラッキングを仕掛けます。完全な無力化まではいかなくとも、妨害にはなるでしょう」
「開発者の先輩にしか出来ない裏技って奴ですね」
「第一段階として地上部隊にて牽制を行い、敵の足を止める。第二段階としてゼラキエルの無力化を試みる。その上で最終段階。カレスを直接攻撃し、撃墜する。段取りとしてはそんなところか」
「口にしてみると簡単そうに聞こえるから不思議ね……。って……ごめんなさい、今のは失言だったわ」
思わず口に出してしまった言葉が皮肉に取られると気付き、慌ててアリシアが謝罪する。しかしヴィクトルは気にした様子を見せず大きく首を横に振った。
「構わない。毎度毎度無茶な依頼をしているのは分かっている。申し訳ないという気持ちもあるが、それでもやる他ない」
「ん、マザーの件を表に出さないのは私も賛成だし、作戦に不満がある訳じゃないから。それよりこっちの布陣は前回同様、ユウリが空中、クライドが地上。残りの人員はエアー7に搭乗で良かった?」
「私は地上部隊に同行します。ゼラキエル無効化の為の処置は地上で行う必要がありますから」
「地上側ってのは良いが、雑魚共の面倒は見ねぇぞ」
「それは困ります。ゼラキエル無効化は、地上部隊で連携を取る必要があります。単独行動というわけには……」
「それなら、そちらにはうちの精鋭二人を付けよう。その……二人とも腕は確かだが、どうにも他部隊との連携が上手くいっていなくてね」
「足を引っ張らねぇってんなら好きにしろ」
不機嫌そうに鼻を鳴らしクライドは渋々といった様子でこれを承諾する。
そうして、各々はそれぞれの準備に入ってゆくのだった。
「(何度見ても、奇怪な造りですね)」
ハンガーでクライドのライトニングハウンドを確認し、ダリアは嘆息する。
エレナ達と合流してすぐ、アーディナル基地を脱出した際に損傷など受けていないかチェックした際にも確認したが、二度目になっても違和感は消えない。
ベースとなっている機体は確かにライトニングハウンドだが至る所に修繕の痕が見られ、他の機体のパーツも多く見られる。
珍しいことかと言えばそんなことはない。破損した機体のパーツを他の機体のパーツで代用するのは、特に戦場では多く行われていることだ。
ギアの部品は基本的にアスモ規格に従って作られており互換性がある。相性こそ存在するが、他社のメーカーのパーツを搭載することも可能だ。
とはいえそれにしても限度というものがある。特にブースター。左右にそれぞれ搭載されたメインブースターがそれぞれ異なるメーカーの物だと気付いた時には頭痛を覚えた。
これでは真っ直ぐ進まないだろうと指摘したが、クライドはあっさりと「コツがあんだよ」と答え、それを直そうとはしなかった。
アンシンメトリーの塊。有体に言ってダリアの美観にそぐわない欠陥機だ。
それでもこの機体はクライドの相棒として、恐らく多くの戦場を潜り抜けてきたのだろう。
形振り構わず。外見など気に留めることなく。そんなことを考えていると、不意に首根っこを掴まれた。
「ひゃっ!」
「何やってんだテメェは」
「あっ……クライドですか」
安堵の息を吐いて振り向くと、パイロットスーツに身を包んだクライドが呆れたような視線を向けている。
その視線の先にあるのは、ダリアがヴィレット空軍基地で調達したギア用のパイロットシートだ。彼女一人で運ぶのは難しいため、カートに乗せてここまで運んできた。
「何だそりゃ」
「サブシートです。テストなどでデータを取る際などに技術者が同乗する際に使用するもので」
「見りゃ分かんだよ。何に使うつもりだって聞いてんだ」
「ライトニングハウンドを複座式にしようかと思いまして」
サブシートの用途など一つしかないだろうに、一体何が聞きたいのだろうと思いながら答える。
クライドの質問の仕方は相変わらず迂遠で不明瞭だ。
一方のクライドはそんなダリアの思いを知ってか知らずか呆れた様子でこめかみを抑える。
気分を変える為か、クライドは取り出した煙草に火を点け煙を吐く。
「ハンガーで火を使うのは感心しませんよ」
「知ったことか。で、複座式ってなどういうことだ」
「私も連れて行って頂けたらと」
「何処に?」
「カレスに」
「なんで?」
「そうすればマザーと話が出来るかと思いまして」
「阿保か」
先程とは打って変わった明瞭かつ端的なやり取り。煙草に思考能力を向上させる効果でもあるのかと疑いを持つほどだ。
しかし一瞬で却下された。
「そこをなんとか、お願いできませんか」
「話をしてどうすんだ?」
「分かりません。ただ、話してみたいと思ったのです」
論理的でないと、話していてダリア自身もそう感じた。
何か作戦がある訳でもない。明確な目的がある訳でもない。何かが変わるということもないのかもしれない。
それでもダリアは話をしてみたいと思った。
機械相手に対話など意味はない。クライドであればそう返してくるとダリアは覚悟したのだが……。
「ま、野郎が何を考えてんのかは確かに興味はあるか」
予想外の答えが返ってきて、ダリアは暫し言葉を失った。
「意外でした。所詮は機械、そう答えられるものと思っていましたから」
「人間だろうと機械だろうと、話が通じりゃ大した違いはねぇだろ」
「そういうものですか」
「俺にとってはな」
シンプルな精神構造。相変わらず物事を単純化するのに長けている。
そういう人間性は偶に羨ましいとダリアは思う。
「シート付けるならスカイブルーに頼めよ。野郎に頼った方が確率は上だ」
「まぁそれはそうなのですが」
「改めて言われるとムカつくなクソが」
第四世代のアサルトハウンドならばともかく、ライトニングハウンドでは単独飛行も出来ない。カレスに接近するなど無理な話だ。そんなことはダリアも分かっている。
しかしこうも思うのだ。感情で行動することは悪いことではないと。
「貴方に頼みたいのです。貴方を信頼しているから」
「はっ……」
そんなダリアの回答を聞き、クライドは酷く楽しげに笑った。
「最高の殺し文句だな」
結局ダリアの用意したサブシートは、ライトニングハウンドに取り付けられることになるのだった。




