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ギアフォートレス  作者: 佐乃上ヒュウガ
双子の悪魔
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第34話 ポルクス


 マリィとリリィの操る第四世代ギアはどちらもジェミニと呼ばれるフレームを元に作られているが、その特性は大きく異なる。

 マリィのカルトスは単機での潜入、偵察、撹乱といった隠密任務をこなすことに特化している。ジャマーが搭載された、近接戦闘を得意とする機体だ。

 対してリリィのポルクスは広範囲索敵と狙撃に特化した機体だ。長距離レーダーで周囲の状況を把握しつつ砲撃支援を行う。


 光学迷彩の用途も全く異なり、カルトスが不意打ちに利用するのに対し、ポルクスは自身の位置の特定を困難にさせる為に用いる。

 第六機甲師団の者達はこの二機をそれぞれ単機で運用することを想定していたが、マリィとリリィが操る場合二機の連携こそが脅威となる。


 マリィが敵を撹乱し、マリィに気を取られた相手をリリィが仕留める。

 そうして二人は首尾よく第六機甲師団の突入部隊を全滅させたのだが――。


「……もう一機突っ込んで来る? っ、姉さんっ!」

『いえ、これは……』


 突如出現した一機のギアは高速でカルトスへと接近。

 咄嗟にリリィはマリィに警告を発するが、現れた機体はマリィを追い越し、そのまま山頂へ向かってくる。


『リリィ、狙いはあなたですわっ!』

「こちらを補足した? っ、ドローンですか」


 第六機甲師団との戦闘に集中していたため気付かなかったが、気付けばリリィの操るポルクスの周囲に数機のドローンが展開されている。

 恐らくはこれを用いてポルクスを捕捉したのだろう。


 光学迷彩は透明人間を作り出す完璧な技術ではない。あくまで擬態、隠蔽であり視認し辛い状況を作り出す為のものだ。

 索敵を専門にするオペレーターが注意深く周囲を観察すれば位置の特定は可能だろうし、ドローンに温度センサが搭載されていればジェネレーターの温度から特定も可能だろう。


『そちらに向かいますわ』

「お願いします。それから、ジャマーの起動を」

『分かりましたわっ』


 敵は空を駆け、障害物を飛び越えてリリィに迫ってくる。第四世代ギア、エレナの話していた傭兵か。

 分析しつつ飛来する機体に照準を合わせ、対物ライフルの引き金を引く。

 しかし宙を駆ける青色のギア――スカイブルーはその攻撃を予測していたかのような動きで回避。足を止めることさえ敵わない。


 すかさず二度目の狙撃を放つが、これも完璧なタイミングで避けられた。

 完全にタイミングを読まれている。こちらのロックオンを察知しているだけでは説明が付かない。忌々しげにリリィは傍に浮遊するドローンに視線をやる。


 音か動作か、エネルギーの変化か。何にせよリリィが狙撃を行う前兆を事前に捉えてギアのパイロットに警告を行っているのだろう。

 対物ライフルによる狙撃だけでは仕留められない。


 本来このような相手にはミサイルによる弾幕を張りながら狙撃のタイミングを計るのだが、基地からミサイルまで持ち出す事は流石に出来なかった。

 今のポルクスの武装は対物ライフルと、サブウェポンの拳銃だけだ。


「フランベルジュに比べればまだまだだよ」

「っ……」


 後部座席から聞こえてくる得意げなエレナの声に確信する。やはり相手はエレナの仲間だ。

 ならば手の打ちようはある。リリィは外部スピーカーを起動させ、接近するギアに向かって警告する。


「動かないでください。動けば人質の命は……つぅっ!」

「ぐっ、あぁぁっ!」


 リリィの発した警告に速度を落とす様子もなく、突っ込んできたスカイブルーはそのままポルクスに向けて降下。エネルギーブレードを振るう。

 リリィは咄嗟に機体を後方に跳躍させるが、踏み込みと同時に繰り出された突きの一撃が頭部を穿つ。

 その衝撃と回避の際に生じたGでエレナは苦鳴を上げた。


 メインカメラを破壊されながらも即座にサブカメラに切り替え。正面のディスプレイに映る映像が、頭部から見た視界から胸部からの視界に変更される。

 視野は大きく狭まるものの、まだ戦えないことはない。


 冷汗をかきつつリリィは幾度か機体を跳躍させどうにか間合いを外れる。胸部を狙われていれば今の一撃で終わっていた。

 それをされなかった理由は唯一つ。人質の存在があった為だろう。


『やってみろ。それをするというなら、貴様らは残らず皆殺しだ』

「っ……」


 迷いのない声。その様子から脅迫は無意味と理解する。

 まったく何て奴の仲間を誘拐してきたんだと、リリィは内心姉に抗議した。


『そっちこそ、大人しくエレナを解放するなら悪いようにはしないぞ。事情は大体把握している』

「それを信じろと?」

『……ま、やっぱそうなるか』


 諦めたように男が答える。剣呑な雰囲気を感じ取ったのか、エレナが慌てた様子で声を上げる。


「ユウリっ、生きてるっ、あたし生きてるからっ! お願いだから加減してよっ!」

『無事で何よりだ。すぐに助けてやるが、少し手荒になる。……まぁその、なんだ。今度はトイレは済ませてるんだろうな?』

「っ……こいつ、最低だっ!」


 緊迫感のない会話を交わす人質と助けに来たその仲間だが、応じている余裕はリリィにはない。

 対物ライフルを相手のギアに向けようとするが、この至近距離で果たしてどれほど役に立つか。

 少しでも時間を稼ぐため、リリィは木々の多い方向へ機体を向かわせる。

 しかし……。


「っ……」


 障害物があれば速度は出せないと踏んだのだが、相手はお構いなしに突っ込んでくる。

 リリィは機体を大きく右に跳躍させながら百八十度回頭し、敵の動きを追う。衝突して自滅してくれと祈りながら。


「……っ、野生の獣でもあるまいに」


 思わず呟きを漏らす。

 あろうことか、スカイブルーは正面にあった木を蹴り付けながら方向転換。ポルクス目掛けて再び突っ込んでくる。

 マリィがカルトスで似たような動きをしていた為にどうにか反応できたが、危うく背後からエネルギーブレードを食らうところだった。


 再びスカイブルーが間合いを詰めてくる。同じ軽量機であるポルクスだが、白兵仕様のカルトス程の機動力はない。

 対物ライフルを投棄しリリィは機体を前に突き出しながら左手で相手の右手を掴む。

 しかし、直後感じた浮遊感にリリィは顔を強張らせた。


「っ、しまっ」


 敵は右足で足払いをかけ、体勢の崩れたポルクスの胸部に左の拳を叩き付けてくる。

 エネルギーシールドが展開出来ればその程度の攻撃は無効化できるだろうが、直前にエネルギーブレードが振るわれた為かオーバーヒートを起こしている。結果阻むことが出来ず、直撃。

 それでもどうにか背中から地面に叩き付けられずに済んだのは姉と行った格闘戦の訓練の賜物だった。


 咄嗟にリリィはサブウェポンである二丁拳銃を引き抜き、碌に狙いもつけずに発砲。

 至近距離から大口径の銃弾を何発も浴びればエネルギーシールドで無効化も出来ない。スカイブルーは一旦その場を離れ、距離を取った。


 しかし安堵は出来ない。相手の火力に対しこちらの武装はあまりに乏しい。次に仕掛けられたら今度こそ対応できないかもしれない。

 焦燥するリリィだったが、飛行していたドローンが地上に着地しているのを見て若干の余裕を取り戻す。

 ジャミングによって電波を遮断され制御を失ったドローンが地上へと緊急着地したのだろう。つまりは、間に合ったということだ。


『リリィっ!』

「ねっ……」


 カルトスがスカイブルーの後方から追いかけてくる。『姉さん』そう言いかけたリリィの言葉が途切れる。

 スカイブルーが、ポルクスへと突っ込んでくる。


 リリィは咄嗟に左手に持った拳銃を放棄する。先程と同様に右手を受け止めエネルギーブレードを受けるつもりだった。

 ポルクスが待ちスカイブルーが間合いを詰め、そしてカルトスがそれを追う。

 エネルギーブレードを使用するために出力を抑えているのか、カルトスとスカイブルーの差は徐々に縮まってゆく。


「(縮まって、いる?)」


 リリィがその事実に違和感を覚えるよりも早く状況が動く。

 距離を詰めたスカイブルーが右腕を振り払おうとする。ポルクスはその腕を掴むべく腕を伸ばす。そして背後からは、エネルギーナイフを構えたカルトスがスカイブルーに飛び掛かる。


 次の瞬間、スカイブルーのサイドブースターが火を噴き機体を百八十度回転させる。

 向き直った先には、飛び掛かるカルトス。


「っ、姉さん、ダメッ!」


 リリィの制止の声は間に合わず、旋回と同時に振り払われたエネルギーブレードはカルトスの両足を斬り飛ばす。

 そして一瞬が遅れて放たれた左足による回し蹴りが、カルトスの胴へと突き刺さる。


『あっ、ぐぅぅぅぅぅぅっ……』


 開きっぱなしになっていた外部スピーカーからマリィの苦鳴が響く。

 スカイブルーは構うことなくリリィの方へと向き直り、


『お前達の負けだ』


 静かにそう宣言するのだった。




 呼吸を整えながら、ユウリは油断なくポルクスを見据える。

 主武装を失い満身創痍となり、今また頼りとしていた僚機を失ったポルクスだが油断は出来なかった。


 カタロス陸軍基地の戦力を囮として狙撃手の位置を特定、強襲し前衛が合流するよりも早く決着を付ける。それがユウリの算段だった。

 しかし狙撃手、ポルクスはユウリの想像以上の粘りを見せ最後の一手を詰めさせなかった。

 危機に対する瞬間的な反応が驚くほど速い。神経接続という技術がこれ程厄介なものだとは思わなかった。


 その状況でカルトスを撃墜出来たのは、運が良かったとしか言いようがない。

 冠城流抜刀術七本目『乱刀』。正面の敵に敵意を向けて背後の敵の攻撃を誘い、正面の相手に牽制の一撃を放ちつつ向き直り、先ず背後の相手を抜刀で仕留めるという技だ。

 牽制に引っかかったマリィを甘いと見るか、或いは優しいと見るか。どちらにせよこの姉妹とはこれ以上戦いたくはなかった。


「どちらにしろアンタだけで基地の残存戦力を無力化はできないだろう」

『そうですね……降伏します。人質も、解放します』


 ユウリの言葉に応じてポルクスが武装を解除する。続いてハッチが開き、コックピットからエレナと少女が降りてくる。


「悪いが、機体の方は破壊させて貰うぞ」


 一方的にそれだけ告げて、ユウリは主の居なくなったポルクスに向けてエネルギーブレードを振るうのだった……。

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