第14話 漆黒の剣士
「チーム2からの情報が入った。ナイトG3の組立は十機中八機が完了。二日後にはラーダッドのギア部隊に引き渡される。……頃合いだ」
民間を偽装した大型トラックの運転席の中。フードを目深に被った男、ヴァジムが通信機越しに仲間達に告げる。
彼らはラーダッド解放戦線のメンバーであり、一人の例外を除き全員が元ヴァンクールの兵士達だ。
ヴァジムはそんな彼らを指揮する立場にあった。
一度ヴァジムは大きく息を吸い込む。
この作戦は『大戦』後にヴァジムが経験するものの中では最も大規模なものとなるだろう。
そしてこの作戦が成功した暁には、ラーダッドはその偽りの名を捨て再びヴァンクールの一部となる。
「これよりアルティマのギア開発工場を占領する」
『チーム1、了解。作戦を開始する』
『チーム2了解。合図と同時にいつでも行動可能。幸運を祈る』
作戦に従事しているラーダッド解放戦線のメンバーは十人。ギア開発工場に潜入したスパイ、チーム2が二名。
施設占領を目的とした白兵戦担当のチーム1が六名。加えて指揮官であるヴァジムと、今回の作戦の為に雇い入れた傭兵が一人。
チーム1が行動を開始したことを確認してヴァジムは通信を切り、別の回線に繋げた。
今更後に退けないことなど分かっていたがそれでも確認せずにはいられなかった。
「情報通りギア三機が警備に付いている。すべてナイトG3だ。……やれるんだろうな、ヤイチ」
『……無論。すべて斬って捨てれば良いのだろう?』
ヴァジムの言葉に、男――ヤイチが応じる。ボソボソとした酷く陰鬱な声だ。
今回の作戦の為にラーダッド解放戦線のリーダーであるダヴィードが雇い入れた傭兵だが、ヴァジムはこの男がどうしても信用ならなかった。
そもそもこの誇り高き戦いにヴァンクール人でもない傭兵を参加させるなど正気の沙汰ではない。
それでもヴァジムは、いや、ヴァジムの指揮する部隊のメンバー達はこの男に命運を託す他なかった。
『機材の搬入に来た。確認してくれ』
『搬入? こんな時間にか。少し待て、確認する』
チーム1のメンバーを乗せたトラックが開発工場の入り口に到着する。
それを確認し、ヴァジムは抱えていた一抹の不安を押し殺しチーム2に通信を入れた。
「チーム2、作戦を開始しろ」
『チーム2了解』
ヴァジムの合図と同時に、工場内の電力の供給がカットされる。すぐに予備電源へと切り替わるが間髪入れずに仕掛けられた爆弾が爆発し、予備電源施設を破壊する。
予定通りチーム2が電源施設を占領し、予備の電源施設は破壊した。
作戦の第一段階は成功。第二段階は警備のギアの無効化。
隠密行動のため、ヴァジム達の部隊が保有するギアは一機。それがヤイチの操る第四世代ギア、新月。
信用ならない、いけ好かない男だ。しかしそれでもヤイチはこの作戦に不可欠な存在であった。
ヤイチが警備のギア三機を無力化することが今回の作戦の前提となっている。
『さて、行くとするか』
通信機越しに響くヤイチの声には何処か喜悦の色が混ざっているように見えた。
工場から数キロほど離れた場所に駐車させていた、ヴァジムの運転する大型トラックの背後から漆黒のギアが起動する。
放たれた矢のような勢いで、新月は混乱している様子の兵器開発工場に向かって全速で突っ込んでゆくのだった。
『警告する。こちらはラーダッド第三特殊地上部隊だ。それ以上近づけば発砲する』
『構うな、撃てっ! 新兵じゃねぇんだからっ、マニュアルなんざ捨てちまえっ!』
『了解、攻撃を開始する!』
第三世代ギア、ナイトG3は連合国の軍事産業の最大手、アルティマの量産機だ。
ノーラム社のハウンドに比べて一回り大型のため機動力ではやや劣るものの、機体の最大出力と耐久力はナイトG3に分があると言える。
装備は全機大口径ライフルとスタンロッド。
施設防衛に向いた装備だ。
高い射程と威力を持った大口径ライフルは当たり所によっては単発でエネルギーシールドを貫通しうる武装だ。何より、弾をバラ撒かないため守るべき施設に余計な被害を出すこともない。
万一接近された場合は、スタンロッドで対応するという考えなのだろう。接触箇所に高圧電流を流し込むスタンロッドは、敵を無力化するのには確かに優れている。
悪くはない。悪くはないが……。
「私の相手を務めるには、些か足りんな」
三機のナイトG3から大型ライフルの弾丸が放たれる。FCSによって補正された射撃は接近する新月を正確に捉えている。
ヤイチもまたそれを承知しているために、相手の射撃に合わせて大きく地を蹴り、サイドブースターを動作させ、斜め前方へと跳躍する。
跳躍とブースターの加速によって生じた凄まじいGがヤイチを襲うが、彼は笑みを深める。
久方ぶりの戦場の気配。生の実感。襲い来る衝撃が、自分は今生きているのだということを実感させる。
「まずは一機」
手近な機体にアサルトライフルによる掃射を行いながら、別の機体の左に回り込む。
そして、抜刀。
抜き放たれたエネルギーブレードがナイトG3の胴を両断する。
『エネルギーブレードだと……こいつっ、スカイブルーと同じ獲物を使ってやがる!』
『構うな、ソリッズ、援護しろっ!』
残った二機のナイトG3の一機が、ライフルによる射撃を行いながら新月との間合いを詰めてくる。
放たれた弾丸を避けるため、新月は再び跳躍。接近してきたナイトG3の右へと回り込む。
『このっ!』
その動きに反応してスタンロッドを振り抜いてきた辺り、相手も相応に場数を踏んだパイロットだったのだろう。
思いの他楽しめたがそれもここまで。
「二機」
『あっ……あぁぁぁぁぁっぁぁっ!』
ぶつかり合うような至近距離。水平に飛び退いて相手のスタンロッドを避け、アサルトライフルによる銃撃。
火薬の爆ぜる爆音と薬莢が飛び散りぶつかる金属音。そして、ナイトG3の装甲を銃弾が叩く衝撃と轟音。
コックピットに集中砲火を浴びて、二機目のナイトG3が崩れ落ちるようにその場に倒れ伏す。
銃の有用性は認めるがやはりあまり好きにはなれないとヤイチは思う。
無粋な音が、無駄が多すぎる。洗練された一切の無駄のない一撃こそが至高だと彼は考えている。
『たっ、隊長っ!』
「……終わりだ」
何の感情も示すことなく呟いて、ヤイチは機体を操作。チャージを終えたエネルギーブレードが再び光刃を発生させ、三機目のナイトG3に袈裟斬りを放つ。
孤立無援となった三機目は碌な抵抗も敵ないまま斬り捨てられその機能を停止する。
二機目に比べて他愛なかった。二機目と同程度の練度があったならば、手傷の一つは負っていたかもしれなかった。
「こちら新月、目標を殲滅した」
『よくやった新月。チーム1、突入しろっ!』
ヴァジムの号令と共に開発工場前に止まっていた大型トラックが無理矢理施設内に侵入。荷台に潜んでいた仲間達が施設内部の制圧を開始する。
「(スカイブルー、か)」
噂には聞いたことがあった。第四世代ギアを操る、ザールスの『青色の傭兵』。
戦力が乏しく、市民からの非難もあって隣国のクラナダからの支援も受け辛い状況となりつつあるラーダッドにとってその存在は大きく、兵士達の中にはその存在を英雄として扱う者も居るのだとか。
「(私と同じ剣士であるのなら、是非とも一戦交えてみたいものだ)」
それほど期待していない仕事だったが、一つ楽しみが出来た。
ヤイチは笑みを深めながら、工場が制圧される様子を眺めているのだった。




