第3章 侵食の始まり~名家の外堀を埋める時(8)~
更に、一呼吸置いた後、智博はこう話を続けた。
「でも、この寄せ書きを持って、ここに来たと言うことは、咲希ちゃんに学校へ戻って来て欲しいと言う気持ちがあると言うことなんだよね?」
「勿論です。私たち、咲希は完全に無実だと信じてるし、(咲希が)急にいなくなったことで、教室も調理実習室も何処か静かで寂しくなっちゃった感じがするんです・・・。」
どうやら、咲希は先生からも腕を見込まれるくらい、製菓の実技が優秀だったらしく、それも和洋問わず、丁寧且つ器用に作れて、味もかなり上々の物だったのだと言う。そして、幼い頃からの明るく活発な性格も相俟って、クラスでも人気があったと言うのだ。
「実は、私たちだけじゃないんです。他のクラスの子たちからも、『ちょっとやり過ぎなんじゃないか』とか『あれは絶対、デマだよ』と言う声があったし、先生たちも噂のヒートアップぶりに困惑してるって感じなんですよ。」
こうした親友たちからの証言によって、智博はまだ充分復学出来る余地があることを悟ったのだが、肝心の本人がその気にならない限りは、それも難しいと言うことも重々承知していたのだった。そして、寄せ書きを直接受け取ってもらえないと言う現実がそこにある・・・。
そんなこんなで、再び場の空気がどんよりして来たところで、今度は翔太が切り出して来た。