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コイン・メイカー  作者: 安田勇
53/55

十章 モテない男を救う小説 ⑧


  八


「西浦くーん! バトルに負けちゃって残念だった

ねーっ!」

 世界が生まれ変わるような、とびきりにかわいい

少女の声が西浦の耳に入った!


 ワールドチャンピオン級のスペシャル・ロリータ

・ボイス! 

聞くだけで身も心もとろけそうな、キュートで

スイートでプリティーなボイスであった! 


疲労と苦痛で閉じていた目を西浦は思わず全開に

開けた!


 視界に飛びこんできたのは、世にもすばらしい

究極美少女! それもロリ系の究極美少女であった!


 チワワのようなくりくりおめめ! 

小さな鼻とピンク色の唇! 

ふっくらしたほっぺた! 髪はほんのりと自然な

茶色! 


小学六年生でも通りそうなスーパー・ベビー・

フェイス!

 究極美少女は、腰までありそうな長い茶色の髪を

していた。


ヘッドドレスと呼ばれるレース付きの髪かざりを

頭につけてあごひもで結んでいる。


 同じようにレースがついた白のブラウスを着て、

レースとフリルが大量についた黒のジャンパースカート

を着ている。

 スカートの下からはフリルがついたドロワーズと

いう下着が見える。


 両足をつつんでいるのも、レースがついた白のハイ

ソックス。靴は黒のストラップシューズ。

 何から何までが装飾過剰で現実ばなれしている

衣装。


 ロリ系の究極美少女は、見事なほどにロリータ・

ファッションを着こなしていた。

 西浦は上半身を起こした! 『ゴミ三年』にやられた

顔や体がズキズキ痛むが何とか耐える! 


 世界最高の究極美少女が目の前にいるのに、意識

不明になっている場合ではない!


「あの、あの……もしかして、君はれんげちゃんな

のお?」


「そうでーすっ! 君はれんげちゃんでーすっ!」


 西浦の問いに目の前にいる究極美少女――れんげは

明るい声で答える。現実の声は記録映像の声とは異

なり、クリアーではっきりとした声だった。


 れんげは手にしていたピンクの傘をばさりと開いた。

その傘は『赤点巨乳女』が武器として使っていた物

だった。


 れんげは傘を肩にかけると髪とスカートのすそを

なびかせて、くるりんと一回転をして見せる。

 風が吹くとふわりとオレンジの香りが漂ってくる。


 れんげは正面に向きなおると純粋な心を持つ天使の

ような、あるいはいたずら好きの小悪魔のような

かわいらしい微笑みを浮かべた。


 最初にれんげの動画を見た時も思ったが、れんげは

外国人のような美少女だった。

 髪の色も肌の色も顔立ちも、日本人とはちがうのが

分かった。


 ――す、すごいっ! 本物のれんげちゃんがここに

いるううっ! 今まで会いたくてたまらなかったれんげ

ちゃんが、僕に会いに来てくれたあっ! 


 ――僕を癒しに来てくれたあああっ! 


 西浦の心臓が超高速で動き出す! 全身の血が信じら

れない速さで流れている!

 体が熱い! まだ、四月なのに一気に八月になった

かと思えるほどの高熱だ! 


 今まで自分は痛い事も怖い事も疲れる事も大量にして

きた! 

 その努力がむくわれる時がようやく来たのだ! 


 両目から涙があふれてくる! 将来のお嫁さんと出会え

た事に対する喜びの涙が! 

 人生のパートナーとなる異性と現実で言葉をかわせた

事に対する喜びの涙が! 

『ゴミ三年』から受けた苦痛など、どこかに吹き飛んで

しまった! 



「あのね、れんげね、西浦君にどうしても言わなきゃ

いけない三つの告白があるの」


 れんげは傘を閉じると視線を上に向けて夜空を見た。

はずかしいためか、真っ白な肌をピンク色に染めている。

 それを見て西浦の心臓の音がより激しさを増した!


 ――わ、分かったぞおおっ! たぶん、三つの告白

っていうのは僕の後輩になりたいってやつと、僕のメイド

さんになりたいってやつと、僕の妹になりたいってやつ

だな! 


 ――もお~! れんげちゃんは、わがままだから困

っちゃうよお~!


 西浦はれんげの告白を完全に予想できた! 

 れんげと心が通じ合っている自分には簡単な事だ! 

 まさに幸福の絶頂! 


 このまま死んでもいいほどの喜び! 

 しかし、れんげの口から出たのは信じられない言葉

だった!


「まずは一つ目の告白ね。今までずっと言えなかった

けど、れんげは高校一年生じゃないの。本当はまだ十一

歳。れんげは小学五年生なんだよー」


「うええええ! じゅ、じゅ、十一歳だってええええっ!」


 西浦は悲鳴を上げた! 道を歩いている時、いきなり

自転車に激突されたぐらいのショックだった! 


 しかし、れんげの顔をよく見ると高校一年生にしては

幼いことに気づく。


 小学五年生にしては成長が早いのは確かだが、絶対に

高校生には見えない顔つきと体つきだった。


 ――れんげちゃんは高校生じゃなかったのか。そうなる

と、学園ラブコメディーは無理だなあ……でも、いいや。

 

 ――学校が別でも放課後に会ってデートはできるし。


 西浦が前向きに思考をめぐらせていると、れんげはさら

なる爆弾発言をした!


「次は二つ目の告白ね。西浦君は胸がちいさい女の子が

好きみたいだけど、れんげの胸は将来的におっきくなり

そうなの。


 だって、お母さんもお姉ちゃんも胸がおっきいし、今、

クラスでブラジャーしてるのってれんげだけだもん。

あ~んっ! 


 やだ、やだ、やだあ~! こんな話、男の子にする

のってはずかしいよお~! もお~!」


 れんげは顔を一段と真っ赤にすると、両手を口に当てて

体をくねくね動かした。


「うそだっ! うそだっ! うそだあああっ! れんげ

ちゃんが将来、巨乳になるなんてうそだあああっ!」

 

 西浦は叫ばすにはいられなかった! 道を歩いている時、

いきなりバイクに激突されるぐらいのショックだった!


 ――し、信じられないっ! こんなかわいいれんげ

ちゃんが、下品で頭が悪そうな巨乳になるなんてっ! 


 ――れんげちゃんの体を、そんな醜い姿に変えるなんて

神様はひどすぎるううっ! 


 今まで収まっていた体の傷が、ズキズキと痛み出すのが

西浦は分かった。

 すべての不幸が『ゴミ三年』の呪いのようだった。


 目から新しい涙があふれてくる。今回の涙は苦しみの

涙だ。


「それから三つ目の告白ね。これが一番、大事だからちゃん

と聞いてね。あのね、西浦君のことをはじめて見た時から

……」


 れんげは言い出すのをためらうように言葉を切った。

将来は巨乳になるという胸に小さな両手を当てながら、目を

閉じて何度も深呼吸をしている。冷静になろうと努力して

いる。


 ――いよいよだぞ~! 来るぞ! 来るぞ! 愛の告白

があ~!


 三つ目の告白を前にすると、西浦は気持ちが激しくエキ

サイトしてきた! 


 れんげが小学生であるのはショックだった! 

 れんげが将来、巨乳になるのもショックだった! 

 だが、それらの苦痛をすべて打ち消してしまう究極の魔法

がある!

 愛の告白という大魔法が!

 究極美少女は目を開けると、天使の微笑みを浮かべて言った。


「……れんげは西浦君の事がぜんぜん好きじゃなかったの。

好きじゃなかったというより、気持ち悪くて吐きそうな

ぐらい嫌いだったの。


 だから、これを最後にれんげとお別れしてね。もう絶対に

二度とれんげと会わないって、約束してくれればうれしい

なあ~」 


 とびきりに明るく、とびきりに優しい声でそう言った。

 西浦の頭の中が真っ白になってゆく。

 まったく意味が分からない。

 意味を理解するために質問をした。


「そ、それってどういう意味なの? れ、れ、れんげ

ちゃん?」


「れんげの事を好きになる人って、変な事件を起こしそうな

気持ち悪いおにいちゃんばっかりなの。

 町で西浦君をはじめて見た時も、この人は絶対にれんげ

を好きになるなーって分かった。


 だから、後でつきまとわれる前にこうやって、お別れの

告白をした方がいいかなーって思ったんだあ」


「ちょっとっ! ちょっと待ってっ! れんげちゃんは僕が

嫌いだって言いたいの? でも、この前クッキーをくれた時

にビデオで言ってたじゃないかあ! 

 

『この中にれんげの愛情がたーくさんこもってるから許して

ねっ!』って!


 それに電話でも言ったじゃないかあっ! 『西浦君と話

したら、なんか元気が出ちゃった』って! あれは、なん

なんだよおおっー!」


「あのクッキーは西浦君に愛情をこめたんじゃないの。

『れんげ』が『れんげ』の事を大好きっていう気持ちを

こめて、クッキーを作ったんだよ。


 それに西浦君と話して元気が出たのは、お別れの時期が近

づいてうれしかったからなの。

 誤解させちゃってごめんねー。ちゃんと説明しなかった、

れんげはいけない子でした。えへへ」


 れんげは両手を合わせるとウインクをしながら首をかしげて

、軽い口調であやまってきた。

 一つ一つの仕草が一流アイドルのように計算しつくされて

いる。

 出会ったすべての男を洗脳するように。


 どうやら、れんげは本当に自分の事が嫌いだと言いたい

らしい。

 西浦は信じられなかった。いや、信じたくなかった。

 だが、確認しなければならなかった。


「じゃあ、僕をだましてたの? 僕をだまして良貨連盟と

戦わせていたの?」


「ちがうよ~。西浦く~ん。れんげは西浦君をだまして

なんかないよ~。だって、れんげは愛の告白をするとは

一度も言ってないでしょ? 


 れんげの告白を愛の告白だとかんちがいして、暴走しち

ゃった西浦君がいけないんだよ~! めっ!」


 れんげは両手を腰に当てると、頬をふくらませて怒った

ような顔をしてみせる。

 セリフは最低だが、見た目と動きだけは最高だった。


「本当のことを言うとね、西浦君は一生彼女ができそうに

ない男の子だから、かわいそうな気がしたの。

 だから、お別れの告白をする前に、ちょっぴり優しく

してあげたかった。


 だって、れんげは思いやりがある女の子だもん。

 どんなに気持ちが悪い男の子にも、愛情を少しだけ

わけてあげる天使みたいな女の子だもん」


 はずかしそうな笑顔を作ると、れんげは茶色の長い髪に

指をくるくると巻きつけながら自分に酔うような口調で

言った。


 普通の女の子の声で同じ事を言われれば、普通に激怒を

するだろう。


 しかし、れんげのパーフェクト・ロリ―タ・ボイス

でこのような事を言われると、脳内の記憶が全部消去

されたような壊滅的打撃を味わう。

 異次元に投げこまれたように脳内が大混乱している。 


 ――な、何なの? こ、この世界は? な、何なの? 

僕の人生は?……僕はぜんぜん分からなくなっちゃった

よお~。


 西浦は現実を受け入れられなかった。道を歩いている

時、十トントラックに十回連続で激突されたような

ショックだった。


 目の前に白い霧がかかったようにぼんやりしている。

現実世界でここまで不快な事が連続で起きるとは思えない。

たぶん、自分が体験しているのは悪夢だろう。


 それとも、『ゴミ三年』との戦いで負けた後、意識不明

になり臨死体験をしている最中なのかもしれない。


「……残念だったな。西浦君。戦いに負けた事も、れんげ

ちゃんの告白が愛の告白ではなかった事も本当に残念

だった。

 だが、『ゴミ三年』との戦いに敗れた君には約束

通り、リフォーマーをやめてもらおう」


 いつの間にか、れんげのとなりに大岩が立っていた。

いつものドライアイス・スマイルを浮かべながら。


 れんげとの会話に集中して気づかなかったが、大岩は

最初から自分達の会話を聞いていたらしい。 


 大岩はしゃがみこむと西浦の左腕をつかんだ。

 小指にはまっている指輪――Aツールを奪い取ると、

すばやく自分のポケットにしまいこむ。


 道ばたのゴミを片付けるような作業的な手つきで。


「リフォーマーをやめた後もアビリティーの事は一般人に

言わないでほしいな。この秘密をもらせば、良貨連盟の

凄腕暗殺者が君を殺しに来るからね。

 Aツールを失った君は無抵抗のまま殺されるに違いない」


 小指がすっきりとした瞬間、西浦は理解した。

 自分がアビリティ―を使えたのは、すべてAツールと

Mコインのおかげだと! 


 特にAツールを失えば、ただの一般人にもどってしまう

ことを! 


 れんげを失う事も恐ろしいが、アビリティーを失う事も

同じぐらい恐ろしかった! 

 西浦は大岩の腕をつかんで引き止めると、大声を出して

願い出た!


「待ってくださいっ! 大岩さんっ! あの約束はウソ

ですっ! もう一回、僕にチャンスをくださいっ! 

次は『ゴミ三年』と戦っても絶対に勝てると思いますっ!


 そうだっ! 次は大岩さんも手伝ってくださいよっ! 

 二人で『ゴミ三年』といっしょにいたオヤジもまと

めて、やっつけましょうっ!」


「ダメだね。戦いに負けたらリフォーマーをやめると

いう約束を、君は絶対に守らなければならない。

 だから、君と二人で戦うという要求も飲めない。


 ちなみに『ゴミ三年』といっしょにいたオヤジは

良貨連盟で一番の凄腕暗殺者だ。あの男と戦って勝てる

ユーザーはこの世に三人しかいない。

 しかも、僕はその三人の中に入っていないんだ。残念

ながらね」


 大岩は西浦の腕をふり払うと立ち上がって背を向けた。

急に西浦に興味をなくしたように。

 れんげは大岩の後ろでピンクの傘を使って遊んでいた。


 くるくるくるーと言いながら、開いた傘を手で回転させて

いる。最初から西浦に興味がなかったように。



「結果的にこういう事になってしまったが、君をリフォーマー

にスカウトした事は良かったと思う。

 これからは一般人として幸せな人生を送ってほしい。

今までありがとう、西浦君」


 背中を向けたまま告げると大岩は歩き出した。

 それが別れのあいさつらしかった。


 追いかけようと足に力をこめた時、全身にとんでもない

激痛が走り西浦は座りこんだ。


 目から涙が次々とあふれてくる。おそらく、これは悪夢

ではない。

 臨死体験でもない。これだけの痛みを感じているのに、

夢がさめないとは現実という証拠なのだろう。


 最後にれんげが西浦の前に来ると、顔をのぞきこむ

ようにして語った。


「あのね、れんげも西浦君も、お互い別の人と恋愛して

結婚した方が幸せになれると思うの。今日話して分かった

けど、やっぱり西浦君みたいな気持ち悪い人って、れんげ

のタイプじゃないみたい。


 れんげはもっと明るくて優しい人がタイプなんだ。女の子

がピンチの時には、命をかけてくれるような男の人が好き

なの。

 西浦君みたいに自分勝手で、女の子の方がお世話をして

あげなきゃいけない人は苦手なの。


 だから、ここでお別れしようね。

 西浦君もいっぱい努力すれば、れんげみたいなすてきな

女の子と恋愛できると思うよ。

 何もできないけど遠くかられんげも応援してる。がん

ばってね~!」


 れんげは最後に極上の笑顔を浮かべると、投げキッス

をした。ピンクの傘を回転させながら、大岩の後を追い

かけてゆく。


 れんげは天使ではなかった。悪魔でもなかった。

人類を破滅させるために生まれた破壊の女神ような

危険すぎる少女だった。


 孤独になると、西浦の体の内部から絶望感がじわじわ

こみあげてきた。

 同時に怒りと憎しみの気持ちもどくどくわいてくる。


『ゴミ三年』に痛めつけられた体までが、意地悪をする

ようにびりびりと痛み出す。

 心も体も悲鳴を上げていた。

 すべてが『ゴミ三年』の呪いとしか思えなかった。

『赤店巨乳女』のMコインを奪った自分を、破滅させる呪い

をかけたのかもしれない。


 西浦は血と涙と鼻水を流しながら、最大の声でわめき

ちらした!


「もう嫌だああああっ! こんな世界なんか嫌だあああっ!

 こんな世界なんか破滅しろおおおっ! こんな世界なんか、

僕は大嫌いだああああっ!」



 広場を歩いていた大岩はぴたりと足を止めた。西浦を

ふり返って言った。


「……大丈夫だ。西浦君。僕も君とまったく同じ気持ちだ。

君の願いは僕がかなえてあげよう。そう遠くないうちに

この世界を破滅させてあげるよ。必ずね」


 大岩が最後に見せた笑顔はこのうえなく優しかった。

いつもの冷たいドライアイス・スマイルではない。

 最後の笑顔には西浦への愛情がこもっていた。


 西浦の気持ちに心の底から共感したような、優しく

あたたかな笑顔だった。


 心の底から世界を憎んだ人間でなければ、作ることが

できない本物の笑顔だった。






この章は、ここで、おしまいです。

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