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コイン・メイカー  作者: 安田勇
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十章 モテない男を救う小説 ④


  四




 ――できれば、これを使いたくなかったけど無理

だな。今回の相手は本気を出さなきゃ絶対に勝てそう

にない。


 良太は前回の戦いで四段の念銭を使った時、激しい

自殺願望にふりまわされた事を思い出した。

それよりも二段階も強い念銭に耐えられる自信は

なかった。


しかし、敵をたたきつぶすため、六段の念銭を念具

にぶつけた。


今まで見た事がない真っ黒な念が金貨から激しく

吹き上がり、回想現象がはじまった。


 その場所は夕方だった。

 地平線にかすかな太陽の残光が残り、どうにか

明かりなしでも出歩ける時間帯だった。

 後、十分もすれば完全に夜になるかもしれない。


 遠くに家の照明が見えるが、やけに薄暗い。

 周囲にあるのは荒れ地だけであり、人家らしきもの

は見当たらず、人影もない。


 念銭の作者は何も舗装されていない砂利道を一人

で歩いていた。


 良太は理解した。この時代はどう見ても現代では

ない事を。何時代かは不明だが、昭和時代のどこか。

 あるいは昭和よりも前の時代かもしれない。 



 突然、目の前の空気がゆらりと震えると一人の男

が姿を現した。

 背丈は人並だが、体つきは細かった。

 頭には編み笠をかぶっている。


 体には袈裟けさを着て、片手には錫杖

(しゃくじょう)――金属の環がついた棒を持っている。

 足には草履ぞうりをはいていた。 


 宗派は不明だが、一目で仏教関係者だと分かる姿を

した男であった。 


『おぬしがヨシ坊と呼ばれる大掟破り殿か?』


 問いかけてきた仏教男の顔は若い。まだ、二十代

半ばと思われた。

 目が細く表情は読めないが、人が良さそうな人物

に思われた。


『なんだ? 貴様?』


 ヨシ坊と呼ばれた念銭の作者は敵対的に答えた。

仏教男にうらみを持っているように。

 まだ声が若いため、良太と同じ十代後半の少年

かもしれない。


拙僧せっそう無銭むせんと申す者。

大掟破りをいたした念術師の道案内を生業なりわい

としておる。初にお目にかかる』


 無銭と名乗った仏教男は編み笠に手をやって礼を

した。


 どうやら、この念銭の作者は念術師らしい。

 術者が作った念銭を使うのは初めての経験だった。

 無銭は口元に軽い笑いを浮かべながら続けた。


『見た所、おぬしは思う存分。現世を楽しんだ様子で

あるな。そろそろ拙僧が道案内をつかまつろう』


『道案内って……まさか俺を島流しにするのか?』


いな。拙僧が案内するのは現世ではない。

黄泉よみの国よ』


『俺を殺すってことか?』


 問いかけるヨシ坊の声はふるえていた。無銭は満足

そうにうなずきながら、さっぱりとした笑顔で答える。


左様さよう。念術を悪用したおぬしは報いを受

けねばならぬ』


『ふざけるなっ! クソ坊主!』


 ヨシ坊は叫ぶとポケットから一つの黒い石を取り

出す。

 その石を念具と思われる右の腕輪にたたきつける。


 石から飛び出した激しい光は赤、青、黄色の三色。

それらは混じり合い一つの光の球を形成した。


 三色に彩られた光の球体は生きているように点滅し、

点滅する度に各パーツの色が変わってゆく。


 この球体はおそらく念を変換して作り出した武器

なのだろう。


 光の強さから判断すると五段の威力はありそうだ。

しかも、複数の色彩を備えている様子からすると怒り、

悲しみ、喜び等が組み合った複合属性かもしれない。


『死にさらせええっ!』


 ヨシ坊は気合の声と共に光球を無銭にたたきつけた。

一瞬、周囲が昼間に戻ったかのように真っ白に照らさ

れる。


 その後、稲妻が落ちたような轟音が鳴りひびく。

光が収まった後には、前方の地面には一軒の家が埋まる

程の大穴が開いていた。


 周囲はたき火の後のように火の燃えかすが飛び散り、

念の残留物がパチパチと火花をちらせていた。


 くわしい術の内容は不明だが、この場に常人が密集

していれば軽く二十人は黒コゲ死体になっていただろう。

 恐るべき破壊力であった。


 前方に無銭は存在しなかった。

 黒コゲ死体になったのだろうかと、良太が思った時

……すぐ横で手をたたく音がした。


『これはこれは、道案内の前に良き物を見せていただいた。

拙僧も最大限の礼をせねばならぬな』


 ヨシ坊の五歩ほど横に無銭が立っていた。

 体に傷一つ負わない状態で楽しそうに笑っている。

 ヨシ坊は信じられないという口調でさけんだ。


『貴様には念術が通じないのかっ!』


『よくぞ見抜いた。拙僧は生まれつき念が通じにくい

体質ゆえ、念銭を使うことができぬ。ゆえに念銭を用

いずに術を使う。ほれ、このように』


『あがあああっ!』


 無銭は杖を持たない手で空気をにぎりしめる仕草

をした。

 直後、ヨシ坊は絶叫した。

 左手につかんでいた念銭を十枚以上地面に落として

いる。


 ヨシ坊の左手は骨がなくなったように、ブラブラと

たれ下がっていた。


『今、おぬしの腕の健を切らせていただいた。拙僧は

このように人の体の内側から痛めつける術に長けて

おる』


 苦痛にうめきながら、ヨシ坊は泣きわめくような声

で絶叫した。


『一体、俺が何をした! 俺はアメ公に親兄弟を殺された

ガキに念術で幻を見せていただけだっ! 


 今は不幸であっても、将来は必ず幸福をつかめると

いう幻を見せていただけだっ! それのどこが悪いっ!』


『善悪は問題ではない。問題はおぬしが大掟破りである

ことのみ。念銭を私利私欲のために幾度も用いたおぬし

の所業はまぎれもなき大掟破り。


 並の掟破りの報いは島流しに過ぎぬが、大掟破りに

与えられる報いは死罪。ゆえにおぬしはこの世に留まる

事は許されぬ』


 無銭は平然とした顔で答えながら、錫杖を持たない手

を大きく開いて見せた。


『……おぬしの心の臓はもろそうだな。これならひともみ

で道案内いたせる。ほれ』


 ほれ――というかけ声と共に無銭は手で空気をにぎり

しめる。

 ヨシ坊の目が光を感じ取る力を失って、少しずつ暗く

なってゆく。

 何らかの術で致命的な攻撃を受けたのだと分かる。


 ――西やん……すまねえ。後は任せた。


 ヨシ坊は心の中でつぶやくと地面に倒れた。最後に

見えたのは藍色の夜空に浮かぶ、さびしげな三日月

だった。


『大掟破り殿。また、来世で会おうぞ』


 最後に聞こえたのは、無銭の楽しげな死刑宣告だった。

 回想を終えて現実世界に戻った時。

 良太はすさまじい恐怖を覚えた。


 心臓が十倍以上の速さで動いている。

 顔中に汗をかいていたため、汗を手でぬぐった。


 ――この念銭の属性は『無念』か。やるべきことを

やれずに死んだ男の思いがこもった念銭だったのか……。

すげえ最低の気分だぜ。


 ――中学の時のオレなら絶対にショックで死んでいた

だろうな。


 悪夢から目覚めた後のような不快な感覚だった。

 頭と体が一気に重くなる。

 その重さは地球の重力がいきなり倍になったかと思

うほどだ。


 ――六段を一回使うだけでも死ぬほどきついのに、

葵ちゃんはこんな体験を八回連続で味わったのか……

人間技じゃないぜ。


 少し動くだけで倒れそうになるほど最悪の体調だ。

しかし、戦闘中に倒れるわけにはいかない。

 良太は抽出した念を鉄壁防御に変換して全身に定着

させた。


 その時、異変に気づいた。

 手の平には電気が流されたような感覚がまだ残って

いたのだ!


 ――なんだ……これ? この金貨は、まだ六段の念を

持ってるぞ。石川のおっさんが言ってた、多層構造って

やつか?


 良太が握りしめた金貨は一度、念を出したにも関わらず

多量の念を蓄えていた。

 今までの常識をくつがえすような異常な念銭だった!


「僕はお前がれんげちゃんにいじわるした事よりも、

お前がモテまくる事の方が一万倍許せないんだっ! 

ライトノベルの主人公みたいに、無価値男のお前がモテ

まくる世界なんて狂ってるっ! 


 そんな狂った世界は僕が修正してやるぞおおおっ! 

ダークヒーローの僕がああああっ!」


 現実世界にもどった良太を歓迎したのは、西浦の念術

による総攻撃だった。


 電子ポット。扇風機。十四インチ型のテレビ。

 合計三つの家電製品が目にも止まらぬ超高速で良太に

ぶつかってきた! 


 よけるヒマもなく、すべてが良太の体に命中する!

 生身ならば一瞬で即死して黄泉の国に案内されるの

だろうが、六段の鉄壁防御は優秀だった。


 すべての攻撃を余裕で跳ね返して、地面には電気製品

の残骸――金属やプラスチックの破片が派手にちらばって

いた。


「防御の次は攻撃だ! 金貨の念を攻撃に使え! あの

くそガキの鉄壁防御をぶちやぶる準備をしろっ!」


 石川の声が近くから聞こえた。良太が視線を動かすと、

水銀灯に上がっていた石川がいつの間にか地上におりて

叫んでいる。


 むちゃな要求に怒りを覚えて、良太は怒鳴り返した。


「あのなあ、六段の念はきついんだよ! 連続でやれば

ぶったおれちまうよ!」


「強い念銭を使う方法は二つしかねえ! 一つは不感症

の廃人になる事! もう一つはそのくそガキみてえな大

バカ野郎になる事だ! 


 不感症は一般人には無理だ! だから、おめえも大バカ

になれ! 念術師の戦いは敵よりも大バカ野郎になった方

が勝つんだ!」


 まるで大昔のスポーツ根性漫画に出てくる、監督の

ようなセリフをわめく石川。


 石川の助言があてになるかどうかは別として、並の

念銭では敵の鉄壁防御を破れないのは試さなくても予想

がつく。



 良太は不調の体をムチ打って、手にした金貨を念具に

ぶつけた。



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