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コイン・メイカー  作者: 安田勇
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十章 モテない男を救う小説 ②



   二


「正義だっ! これは正義の戦いだあっ! 世界平和

を守る正義の戦いだああっ!」


 西浦は最大級の大声でわめきちらした! 

 興奮のあまり涙が出てきそうになる!

 体中が熱い!

 狂おしい程の興奮で全身の血が蒸発しそうな気がす

る! 


 西浦は今までの人生で、ここまで爆発的な興奮を味わっ

た事がなかった! 


 ――かっこいいっ! 今の僕ってかっこ良すぎだよっ!

 ――世界中の男が僕をねたみそうなほど、今の僕は

かっこいいよおおおっ!


 西浦は心の底から思った。

 今の自分を写真にとってインターネットで全世界中に

配信したいと。


 ダークヒーロー西浦の晴れ姿を、全人類に見せてやり

たいと。

 この興奮を一人でも多くの人間に共有して喜んでもら

いたいと。


 闇につつまれた訓練場を頭上から多数のライトが照ら

していた。

 おかげで広場だけが真昼になったように明るい。


 訓練場には西浦と大岩の二人しかいない状態だった。

 先程まで集まっていた包帯マニアの男女混合集団は

立ち去っていた。


『君たち悪いんだけど、邪魔だから帰ってくれないかな』


 大岩が一言、そう告げただけで包帯マニア達は青ざめた顔

でガクガクうなずいて、一人残らず消えうせたのだ。


 西浦は今さらのように大岩がリフォーマーのトップに近い

人間だと気づいた。最高権力者ではないとしても、ベスト・

スリーに入る大物であるのは間違いない。


 大物である大岩は、広瀬なるみの貯金箱を西浦にわたし

ながら言った。


「『赤点巨乳女』から奪ったMコインは君に全部返そう。

『ゴミ三年』はこのMコインを取り返しにこの場に来る

だろう。これをエサにして『ゴミ三年』をだまし討ちに

すればいい」


 受け取った貯金箱はずっしりと重かった。

 すべてのMコインを戻したように。


「貯金箱の中はどうなってるんですか? 普通のお金に

入れかえたんですか?」


「いや、Mコインは全部戻したよ。一枚残らずね」

「ちょっと、待ってください! じゃあ、このMコインは

使わないんですかっ! 


 せっかく、僕が苦労して持ってきたのに使わないなんて

もったいないですよっ!  苦労して持ってきた意味がな

いじゃないですかあっ!」


「いや、意味はあった。Mコインの属性を調べるだけでも

十分な意味が。そのMコインはしかるべき所有者が持って

いた方がいい。現時点ではね」


 大岩は西浦に理解できない事を並べ立ててきた。

 自分には言えない隠し事があるのかもしれない。


 西浦が何か言うよりも先に、大岩は見あきたドライアイス・

スマイルを浮かべて別の話題を出してきた。


「西浦君。もし『ゴミ三年』と戦って負けたら、君はどう

する?」


「絶対にありえませんねっ! それは『ゴミ三年』が

れんげちゃんと結婚するぐらい絶対にありえませんっ!

 ふざけないで下さいっ! 大岩さんっ!」


 西浦は反射的に怒鳴り返した。


 今の大岩の質問はあまりにもバカげている。

 一流大学を卒業した超エリートに、足し算のテストを

するぐらい愚か過ぎる質問だった。


「確かに僕も君が負けるとは思っていない。だが、万が一。

『ゴミ三年』に負けたらどうする? その時はリフォーマー

をやめてもらうけどいいかい?」


「いいですよっ! そんな事は人類が滅亡してもありえ

ませんが、もしあったら僕は喜んでMコインもAツール

も全部大岩さんに返しますっ! 明日からはタダの一般

人にもどりますよっ!」


「良く言った。では、君の勝利が確実になるように最強

のMコインを授けよう」


 大岩はジャケットのポケットから、大量の五百円――

二十枚以上のMコインを出してきた。

 西浦は貯金箱を左手で抱えながら右手を出してMコイン

を受け取る。


 肌に触れた瞬間にとてつもない、激しいエナジーを感

じる。

 一枚十グラムもしない硬貨が一キロはあるように思

えた。


「……五段のうらみのMコインが五枚。四段の怒りのM

コインが九枚。三段のねたみのMコインが十五枚だ。君も

知っての通り、この三属性は相性がいい。

 うまく使用すれば六段以上の威力を出せるはずだ。


ただし、最初に四段や五段を使うとショックが大きいから、

君が得意とするねたみをベースに使ってならした後に、

怒りとうらみを使うのがよいだろう」


「す、すごいっ! 四段とか、五段のMコインが使える

なんて……! もう僕は絶対に負けませんよっ! 

 もう勝利は一〇〇〇%確実ですっ! これで負けたら

僕は死んでもいいですよっ!」


 西浦の全身の筋肉が喜びの悲鳴をあげている! 体が

ガタガタふるえていた! 


 これだけ強力なMコインがあれば『ゴミ三年』の顔面

に五〇CCバイクを一万回ぶつけるような破壊行為も夢

ではない! 


 自分の手に強大な力があると思うと、破壊神になった

気がした! ダークヒーローの破壊神! 

 なんとカッコイイ男だろう!



 西浦が己のすばらしさに酔っていると、大岩は西浦の

右手をつかんでガムテープをまき出した。

 西浦は嫌な予感をおぼえてたまらず悲鳴を上げた。


「わあっ! やめてくださいっ! 僕はSMプレイなんか

したくないですよおっ!」


「安心してくれ。僕も同性とそういうプレイをする趣味

はない。これは昔、ある人から教わった有効な戦闘テク

ニックだ。


 ガムテープの接着面にMコインをまとめてはりつければ、

戦闘の時にいちいちポケットから出さずにすむ。

Mコインは全部ここにつけるといい」


「そうですか! この技をやることで僕の勝利は二〇〇〇

%確実ですねっ!」


 西浦は大岩にプレゼントされたMコインを、右手のガム

テープにベタベタとはりつけた。

 こんな便利な技があるなら、最初からやれば良かったと

思う。


「さらに西浦君の勝利を確実とするためには、Mコインの

他にも通常武器が必要だな。君が間接攻撃で使用するため

のパチンコ玉。ゴルフボール。他にも家具や電気製品も

用意しておくか……」


 大岩は両腕を組むと難しい顔で考えていた。

 まるで自分が直接戦うような真剣さだ。

 西浦は急におかしい気分になり、大岩の肩をたたいて

笑った。


「大岩さあ~ん! そこまでするのは、おおげさですよ

お~! 僕の勝利は二〇〇〇%確実なんですからあ~!」


「おおげさではないよ。君が負けた時には本当にリフォー

マーをやめてもらうつもりだ。そうならないためにも、

君に最大限のチャンスをあげたいんだ」


 大岩は冷たく笑って見せた。

 その目つきは鳥肌が立つほど鋭い。


 広瀬なるみが武器として使っていた傘の先よりも、鋭く

凶悪な目に西浦は思えた。



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