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コイン・メイカー  作者: 安田勇
33/55

七章 一億・総自己中化時代 ⑤


  五



 五分程歩きつづけて一般都市と魔界都市のボーダー

ラインに差し掛かった時、外灯の下で怪しい集団を発見

した。

 

 その数は合計六人。全員が男だ。日本人は一人しかい

ない。残りの五人は全員外国人だ。


 日本人は高校生らしく学生服姿だった。体つきは細い

が良太よりも背が高い。


 髪はケバケバしい緑色にそめており、サボテンのよう

に全体を逆立てている。怪我か病気か不明だが左目に

眼帯をつけていた。


 高校生は五十CCバイクにまたがっており、肩には

ゴルフクラブ収納ケースをかけている。

 顔立ちは青白く、健康な方の右目も病的な凶暴さを

秘めていた。


 一目で危険人物だと分かる邪悪なオーラを発している

高校生であった。


「うらああっ! クズ外人ども! 早くMコインを探

せえっ!

 Mコインは一個千円で俺が買ってやるぞっ! 金が

欲しいなら必死でMコインを探せえっ! ボケ!」


 眼帯をした緑髪高校生はバイクにまたがったまま、

怒声を上げた。


 財力に物を言わせて外国人に命令できる立場に

あるらしい。


 良太は六人がリフォーマーであると確信した。


五人の外国人の男は何をしているのかと言えば地面に

引き倒した自動販売機の前面の扉を、力任せに開けよ

うとしている。

 自販機荒しの真っ最中だった。


 不良外人部隊の年齢は全員二十代後半。アメリカ人。

アフリカ人。中国人。

 ブラジル人。フィリピン人。

 多種多様な国籍の男が一人づつこの場に結集していた。


 未成年の日本人に大人の外国人が手下にされている

ようだ。


 最初に金を出したのは小柄な中国人だった。

 眼帯をした緑髪高校生は奪うように小銭を受け取った。


「これはだめ。これもだめ。これも、これも、これも

全部だめ……おい! 一枚もMコインがねえぞ! 

ふざけんな! ボケ!」


 眼帯をした緑髪高校生は、受け取った小銭を全部投

げ捨てた。金属音が周囲に鳴りひびく。

 外国人はMコイン――念銭の念を感知できない様子

であった。

 念が感知できないという事は念術師ではないらしい。


「Mコインじゃねえ金には一円も価値はねえんだよっ!

ボケ!」


 眼帯をした緑髪高校生は、バイクに乗ったまま中国

人の腹に強烈なキックを加えた。

 しかし、なれているのか中国人は文句を言わず耐え

ている。


 ――なんだよ。このガキ。どれだけエライ奴か知ら

ないけど、調子に乗りすぎじゃないのか? 


 良太は眼帯をした緑髪高校生に怒りを感じた。

 悪徳企業のワンマン社長並の不快な態度だ。


 しかし、横にいた超・危険人物――石川は親しげに

呼びかけていた。


「よう。平塚ひらづか君。元気そうで何より。

前回はちょっとやりすぎちまったかと心配したが、

余計なお世話だったみたいだねえ」


 眼帯をした緑髪高校生――平塚は脅えた右目で石川

を見た。

 外国人に対する時は高圧的な態度だが、石川の顔を

見ると情けないパニック状態で言い返した。




「い、石川っ! 俺はなあ、お前に殴られたせいで

目にモーマクハクリっていうケガをしちゃったんだ

よっ! 

 また俺に何かしたら良貨連盟のボスに言いつける

ぞっ! ボスに頼んでお前を島流しにしてもらうぞ

おっ! うらあっ!」


 平塚の左目の傷は石川の仕業だと良太は理解した。

……何となく予想はしていたが。 


 平塚は自分よりも弱い相手には強気に出るが、

強い相手には弱気になるメガトン級に情けない

思考回路の持ち主のようだった。


「安心しろ。今日はおめえにわびを入れに来たんだ。

おめえにも俺にも子分がいるけどよう、子分同士で

戦いをさせねえか? 

 そんで勝った方が相手のゼニを全部いただくって

いうルールでどうだ?」


「そっちの子分はどんな奴なの? なんか、すっげ

え弱そうな感じのガキだけど?」


 平塚は良太に指を向けてバカにしたような目で

見た。自分よりも弱そうに見える良太には、外国

人と同じように強気な態度になるらしい。


 ――このガキ。本当に腹が立つなあ。あとで突撃

キックをおみまいしてやる。


 良太は何か言い返すかわりに頭の中で平塚への

攻撃計画を立てた。


 数日前までは不快な人間であっても、いきなり

暴力を加えようとは思わなかった。


 しかし、今では自分でも気づかないうちに思考

回路が凶暴化している。石川と関わる事で良心が、

マヒしつつあるのかもしれない。


「こいつは俺の弟子みてえなもんだ。念術を修行

してまだ七日しかたってねえが」


「はいはい。ド素人のザコってわけね……じゃあ、

子分だけの戦いにしてくんない? 親分は戦って

はいけないルールもつければやってもいいよ?」


「おう、いいぞ。そのルールを破ったら、子分も

親分も関係ない全面戦争をやる事にしようや」


 石川は良太の顔を見ながら肩をたたいて言った。


「……というわけだから、後はよろしく頼むわ。

良太先生」


「ちょっと待て! おっさん! 五対一だぞ!

 勝てねえよ!」


「絶対に勝てるよ。おめえは怪力攻撃、高速移動

、鉄壁防御のパワード・スーツ三点セットを全部

マスターしてる。

 一般人相手なら十対一でも楽勝だ。これで負ける

ようじゃあ、どうしようもねえドアホウだ」


 石川は良太の反論を無視すると地面をけって

飛び上がる。

 信じられない事にたった一度のジャンプで五

メートル以上浮かんで電柱にしがみつく。

 もう一度飛ぶと電柱の頂上に到達する。


 良太の記憶が確かならば、石川は過去三十分

以内に念銭を使ってはいない。


「俺はここから高みの見物をさせてもらうぜ。

死ぬ気でがんばんな」 


 頭上から石川の声が聞こえてくる。


 見上げると電柱の頂上に腰をかけて、足を

ブラブラさせていた。どうやら、自分は本当に

五対一の戦闘をさせられるようだ。

 強制的に。


「クズ外人どもっ! お前らに武器をかしてやる

からリンチの準備をしろっ! でも、武器をぶっこ

わした奴は罰金一万円だぞっ! 分かったか! 

ボケッ!」


 平塚は持っていたゴルフクラブ収納ケースを開

いた。

 中から五本のゴルフクラブを取り出すと、外国人

にそれぞれ一本ずつゴルフクラブを配ってゆく。


 外人達は武器を両手で構えたり、素振りをしたり

して戦闘態勢に入った。


 外灯に照らされた不良外人部隊はやけに巨大に

見えた。アメリカ人とアフリカ人は良太よりも頭

一つ分は背が高い。


 フィリピン人とブラジル人も五センチ以上は高い。

唯一自分と同じぐらいの身長は中国人のみ。


 ――やばいな……。こんな体験するんだったら、

良貨連盟なんかに入らなきゃ良かったよ。


 ――オレが死んだら十八禁DVDを部屋にかくして

ることが家族にばれるんだろうなあ。ああ、それだけ

は絶対に嫌だ。


 死の直前であっても頭に浮かぶのはくだらない事

ばかり。

 自分がくだらない人間であるためだろうか。

 心臓がずきずきと痛む。不安と緊張の痛みだ。全力

で走った後のように息が荒くなる。


 良太は左のポケットから五百円を一枚取り出す。

使う念銭は石川からもらった四段の絶望属性。


 よほどの時以外は使いたくなかったが、今がその

時かもしれない。


「今からお前らには、あの弱そうなガキを集団リンチ

してもらう。腕の骨を折った奴は五千円。

 足の骨を折った奴は一万円。首の骨を折った奴は

二万円。


 その他の骨を折った奴には〇円やるよ。金がほし

かったら、あいつを殺すつもりでリンチしろ!

 分かったかっ! ボケエ!」


 平塚が怒鳴ると、五人の不良外人部隊がゆっくり

とこちらに近づいてくる。


「マネーゲット! ジャパニーズガール! ラブ・

エンジョイ! グヘへへ!」 


「ガール! ガール! ジャパニーズガール! 

ヌハハハ!」


 良太より巨大なアメリカ人とアフリカ人が気持ち

の悪い顔で笑っていた。

 この二人は日本の若い女に良からぬ事をするため

に来日したらしい。


 今は金がなくなり悪党の手下として荒稼ぎをして

いるようだ。


 ――日本の平和のために、こいつらのバットを

切断してやりたいぜ。麻酔ナシで。


 良太がそんな事を思った瞬間。今度は別の声が聞

こえた。


「ワタシ一円でも多く金ほしいネ。故郷でぜいたく

したいネ。だから、リンチするネ」


「マネー! マネー! リッチライフ!」


「ゲット、ザ、マネエエエエエ!」


 中国人がたどたどしい日本語で言うと、その横に

いたブラジル人とフィリピン人も興奮状態で叫び出す。


 どうやら、この三人も完全に犯罪目的で来日した

連中らしい。


 この不良外人部隊は日本の女に目がくらんだ肉欲組

と、日本の金に目がくらんだ金銭欲組の二種類に分か

れているようだ。


「良太! さっさとおめえもパワード・スーツを作

れよ! もたもたしてると、クズ外人にぶっ殺されち

まうぞー!」


 頭上から石川の声が落ちてくる。応援というより、

良太を笑い者にしている声だ。



 ――しょうがない。こいつらはどう考えても悪人

だし、ちょっと念術でこらしめてやるか。


 良太は戦う覚悟を決めた。四段の念銭を念具に

こすりつける。真っ白い光のせいで夜の闇が消えて

回想現象が始まった。


 それは築四十年以上過ぎたような古ぼけた木造住宅

の中だった。

 念銭の作者は玄関に立つ二人を見つめていた。


 一人はTシャツにハーフパンツ姿の四十代半ばの男。

一人はむぎわら帽子にサマードレスを着た小学一年生

ぐらいの少女。


 二人の服装からすると回想の中の季節は真夏である

ようだ。


『父ちゃん、元気でな。また電話するよ』 


 四十代の男――おそらく少女の父親らしき男が最初

に言った。

 その娘である少女も明るい声を出して手をふった。


『じいじ、ばいばーい。また、来るねー』


『おお。また、おいで。じいじはいつでも待っとる

よー』 


 念銭の作者である『じいじ』は笑いながら答えた。

この場面は祖父が実家に帰省した息子と孫を送り出す

光景らしいと良太は理解した。


 ガラスの引き戸が閉じて二人が姿を消すと家の中

は静まり返った。


 家の中からは何も物音はしない。

 祖父は荒い息をつきながら、ゆっくりとした速度

で廊下を歩き出す。


 一歩進むのに二秒近くかかる。

 原因は不明だが足の具合が悪いのは確かだろう。

 移動した四畳半の和室は玄関よりも明るい。


 目の覚めるような青空が網戸ごしに見える。

風が吹いて風鈴がすずしげな金属音を立てた。

 異様なほど物が少ない部屋だった。


 テレビ。タンス。仏壇。ちゃぶ台。扇風機。

 他には何もない。


 仏壇には祖父の妻らしき老婆の遺影が飾ってある

のが見えた。


 この家に住んでいるのは祖父一人であることを

良太は悟った。


『次に息子らが来るのは冬か。長いもんだ』


 祖父は長々とため息をついて畳の上に腰をおろ

した。

 ちゃぶ台の上にはテレビのリモコンと夏みかん

とステンレス包丁が置かれていた。 


『もう自分には友達も話し相手も誰もおらん。

ヒマつぶしの相手になるのはテレビぐらいだ。


だが、息子らのやっかいになるわけにはいかんし

、自分一人で弱ったまま生きるにはこの世はしん

どい……』


 祖父の視線はちゃぶ台の上に置かれたステンレス

包丁に向けられた。


『近いうちに、自分の身を自分で始末せねばならん

のだろうな』


 そのつぶやきを最後に回想現象は終了した。

 真昼の光景から、夜中の光景に良太は引き戻された。


 一分近い回想だったが、回想前の状況と何も変わり

はない。前と同じように長時間の回想であっても、

現実とのライムラグはわずかのようだ。


 ――なんだよ? この属性? 絶望っていうレベル

じゃないぜ。ここまでくると自殺願望じゃないの……

か?


 良太は念銭の作者が持つ重すぎる感情が全身に

押し寄せるのを感じた。

 

 二段や三段の念銭とは比べ物にならない不快感。

ヘビイ過ぎる人間ドラマだ。


 もう一度、この属性を使用したら人生に絶望して

飛び下り自殺にチャレンジするかもしれない。







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