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8 白雪姫との共同戦線

 夜もだいぶ更けてきたころ、丈は邦子の家を辞し、アパートへ向かった。

 その道中、丈を待ち構えていた者がいた。

 鉄色の靴、黒のワンピース、赤いリボンがトレードマーク。毎日同一の服を着ていると見せかけて、最近では同種の服を何着かローテーションすることで清潔さをキープしていると自慢げな、白雪吹雪である。見た目には変わらないが、本人曰く「ほらほら、ステキな洗剤の香りがしますでしょ?」らしい。黙って立っていれば普通の女性に見えるのだが、最近のお気に入りはカモミールの香りがする柔軟剤入り洗濯洗剤だというどうでもいい情報を頻繁にアピールしてくるのが玉に瑕。

「こんばんは、桐島君。お困りのようですね」

「ああ、困ってる。こんなに困ってるのは某白雪姫の魔女に喧嘩を売られて以来だ」

 白雪は丈の嫌味にも表情を変えず穏やかに微笑んでいる。

「私も、微力ながらお手伝いさせていただきます」

「力を貸してくれるのか」

「ええ、そういう約束ですから」

「お前がその約束をちゃんと覚えていてくれて安心した」

 困ったときは力を貸してくれる――もともと、そういう約束なのだ。いつでもどこでも突然現れては鬱陶しく絡んでくるから、本来の目的を忘れているんじゃないかとひやひやしたこともあったが、これでひとまず安心である。

「では! 早速、打倒灰かぶりの魔女を目指して、あなたのお宅で朝まで二人きりになりましょう!」

「…………」

 やけに嬉しそうに提案する白雪に、丈はすっと無表情になり、黙って白雪の脇をすり抜けて早足で置き去りにした。あとから「お待ちになってー!」となぜか楽しそうに叫びながら白雪が追いかけてきた。

 なぜ自分の周りの魔女はこうも面倒くさい奴ばかりなのだろう、と丈は嘆かずにはいられない。



「さて問題です」

 ばばん、とどこかで別の誰かが口にしていたような効果音を自分の口で言って、白雪は出題する。

「毛糸を入力すると、時計を出力する。

 図案を入力すると、杏子を出力する。

 鰆を入力すると、稚鰤わらさを出力する。

 さて、変身の規則は?」

「……まさかアナグラムとか言い出すんじゃないだろうな」

「えっ、もうお解りになったんですか? さすが桐島君は聡明でいらっしゃいますね」

「…………」

 丈の現在の心境を端的に表すなら、こうだ――駄目だコイツ。

 戦った時こそ手ごわい相手だと感じたが、こうして話をするとそんなことないと解る。さすが、今までの勝負を知恵ではなくイカサマで乗り切ってきた奴は話が違う。白雪吹雪という魔女は、賢いのではなくずる賢いのだ。

 そしておそらく、今回相手取る江良姫奈は、賢い。

「……灰かぶりの魔女って、どういう奴?」

「そうですねぇ……」

 白雪は唇に人差し指を添えて、首をかしげて逡巡する。

「性格は、ドSです」

「ああ、それは解る」

「プライドが無駄に高くて、自分の思い通りにならないことは気に入らない、典型的なクソ生意気ながきんちょですね。私、ああいう方とはお近づきになりたくありません」

「奇遇だな、俺もあいつは絶対友達になれないタイプだと思う」

 少し話しただけでも感じたことだが、いちいち人の神経を逆撫でするような癪に障る喋り方しかできない奴だ。

「ところでさ、あいつって歳いくつなんだ? どう見ても小学生くらいなんだが」

「見たとおり、小学生くらいだと思いますけど」

「グリムの魔女の六人って結構前から悪名高き希代の魔女だっただろう。あいつはいったいいつからヤバい魔女だったわけ」

「ああ、そういう話ですか。ご存じありませんか、グリムの魔女は代替わりするんですよ」

「代替わり?」

 初耳の情報に、丈は首をかしげる。

「ええ。ですから、江良姫奈は二代目灰かぶりの魔女ということになります。初代は彼女の母親ですね。もう死にましたけど。普通、魔女の力は遺伝しますが、魔法の力に関しては、親と子で別のものを発現しますよね」

 丈は頷く。実際、丈の姉たちは、母の御影とは違う魔法を、それぞれ持っている。

「グリムの魔女の魔法は、親から子へ、同じものが受け継がれるようなのです。江良姫奈の母親も、彼女と同じく『変身』の魔法を使っていたはずですよ。ですから、グリムの魔女は、魔女の子を生し続ける限り滅びないのです。……まあ、グリムの魔女の子どもが、親と同じように悪事ばっかり働くとは限らないんですけれど、でも、子どもの考え方というのは親の教育次第ですからねえ」

「つまり、江良姫奈の性格の悪さは母親譲り、と」

「そういうことですね」

 性格の悪い子どもが相手――厄介だな、と丈は思う。

「そいつ、あんたみたいにイカサマするような奴か?」

「私を引き合いに出すことには納得がいきませんが……とりあえず、そういうことはしません」

 白雪は力強く断言する。

「あのがきんちょは、子どもだからというのもあって、発想がとても柔軟なんですよね。ですから、こういうなぞかけのような『ブラックボックスゲーム』は得意中の得意なんです。ですから、イカサマなどはたらくまでもなく、勝てる自信があるんです。『格下相手に卑怯な手は使わない』--それが彼女のポリシーです。正面から相手を完膚なきまでに叩きのめし、敗北感を植え付けるのが大好きな女です」

 江良が丈を格下と見なしているのは、先の会話から明らかだ。ついでにいうと、白雪のこども散々に見下しているようだったが、これは本人に言わない方がいいだろうと、丈は胸の中にしまっておく。

「……ということは、今回はイカサマの心配はしなくていいわけだ」

「ええ。正真正銘、正々堂々、知恵比べですね」

「子どもに知恵比べで負けるなんて癪に障る話だが、実際問題、子どもの方が頭が柔らかいからな……」

 初めて挑む、相手の得意な知恵比べ。それに勝算はあるのだろうか?

「さて、どうしたもんかね……」

「あっ、桐島君! 私、もう一つ問題を思いつきました! 聞いてくださいますか?」

「……一応」

 あからさまに期待していない顔で聞く態勢を取ると、白雪はこほんと咳払いし、自信満々に出題する。

「桜を入力すると、皿を出力する。

 天ぷらを入力すると、寺を出力する。

 かささぎを入力すると、鍵を出力する。

 さあ、これならどうですか?」

「語頭と語尾の文字をくっつけるって言ったら殴るからな」

「えっ」

 丈が即答すると、白雪は固まった。

 駄目だコイツ、と丈は重い溜息をついた。

白雪吹雪ちゃんがおばかな子になっていく……

敵の時は手ごわいけれど味方になると途端に使えなくなる現象が起きています。

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