『ゾンビパンデミックの世界⑲』
「んぎぎぎ!」
白月が無線とやらで陽太と連絡を取り合う傍らで、踏ん張るような奇声を漏らしつつ、何としてもラジカセを持ち帰らんと自分のリュックの中に力づくで捻じ込んでみた結果、半分くらいがはみ出しているという不格好な形になってしまったが、まぁ良しと私は満足げに鼻を鳴らした。
それからアタッシュケースの中に入っていたホルスターを腰のベルトに装着し、そこに相棒となった黄金銃をしっかりと収めてから、無意味に三回ほど出し入れを嗜んで、満悦。
……んふ。
楽しみが過ぎるね。
早く試し撃ちをしたいものだ。
心の準備は万端も万端である
それに同梱されていた説明書の内容を白月が噛み砕いて読んでくれたため、黄金銃の扱いについても概ね理解することができた。
①弾は一発ごとに装填する必要がある。
②有効射程は10メートルくらいである。
③変異種の体表に薬液が付着すれば成功。
④銃口を覗いてはいけません。
⑤人に向けてはいけません。
⑥分解してはいけません。
……うむ。
白月は「書いてあることを読んでいるだけだ」と言わんばかりの表情をしていたが、明らかに彼女の付け足した言葉が入り混じっている気がする。
そのやり口を見て、ジョッシュ君に匹敵する強かさを感じ取った私は、しみじみと黄金銃を撫で回しながら諦観めいた笑みを浮かべた。
このタイプの人間に生半可なゴネは通用しないだろう。一流のゴネリストである私をもってしても、攻略するのは容易じゃない。
……いや、そもそも最初から分解するつもりはなかったんだけどね。
白月の心配性にも困ったものである。
気を取り直し、彼女らの話し合いがまだ終わりそうにないことを確認してから、もう一度、机の上のアタッシュケースに目を向けた。
「さてさて」
あとは、この銃弾をどこにしまうかだけど。
そう考えた時、収納先として自然に思い付いたのは、やはり自前のポーチだった。
入れられるスペースはあっただろうか。
最後に開けた日のことを思い出そうとしながら、腰に手を伸ばして中を確認すると、丸焦げになったキュースィーちゃんが手のひらの上にころりと揺れた。
そうだ、思い出した。完全に故障していて、使い道は皆無だったが、一応回収していたんだった。
その時、ピコンと妙案が舞い降りる。
思いつくと同時にニンマリと微笑んだ私は、カニ歩きで一歩、二歩と横移動。ラジカセが置いてあった辺りに佇み、名も知らぬ発明家の写真立てを見下ろした。
そして、キュースィーちゃんに別れの一瞥をくれてから、その真っ黒になった球体を、そっと写真立ての横に供える。
見る人が見れば、ゴミを不法投棄しているようにしか見えないが、そうじゃなく、彼の発明品を受け取る代わりに、お返しとして私の発明品を贈ろうと思ったのだ。
見栄えも悪く、もう使い物にならないガラクタだけど、これも一つの世界から脅威を追い払うのに一役買った発明品。
「縁起だけは保証するよ」
言いながら手を放すと、キュースィーちゃんが写真立てに寄り添うように小さく転がる。
自己満足的な手向けではあるが、弔いなんてそんなものだろう。
どうか、仲良くやってくれ。
勝手に心地の良い充足感を得た私は、腰に手を当てて一息、またカニ歩きで元の位置へと戻った。
そうこうしている内に、無線でのやり取りは落ち着いたようで、せっせとポーチの空いたスペースに銃弾を詰め込んでいると、白月が私の横へと並び立つ。
「外のゾンビは陽太達が誘導してくれたよ。でも、変異種は依然として道を塞いでるらしい」
彼女の真剣な声色に合わせ、私も眉を寄せながら真面目に受け答えた。
「なるほど、それは絶好のチャンスだね」
私が活躍する舞台を整えてくれるとは。
机の上に腰を預けた白月が、複雑そうな顔でゆっくりとアタッシュケースを閉じる。
「あまり気乗りはしないんだけど……まぁ、試し撃ちは必要か。まだ本当に効果があると決まったわけじゃないしね」
うんうん。そうそう。
仕方ないよ、仕方ない。
どうしても必要なことだからね。
了承を得たと判断し、速やかにリュックを背負い込んだ私は、アタッシュケースを左手に持って「行こう、早く」と訴え掛けるように扉の前で足踏みをした。
吐息を漏らした白月もリュックを背負い、壁に立て掛けていた鉄の棒を持ち上げると、それを肩に乗せてから私を見やる。
「……あんたが楽しそうにしてると、どうしてこんなに不安な気持ちになるんだろうね」
「あはは。昔、ジョッシュ君にも似たようなことを言われたよ」
懐かしい記憶が蘇った私は、右手の人差し指と親指を立てて銃の形を作り、その指先を白月に向けた。それから片目を閉じ、発砲するかのように手首を跳ねさせる。
「不安にならないくらいしっかり者になってね、って言って説き伏せたけど」
撃たれた白月は、一拍置いて、吹き出すように笑い出した。
「あっはっは、ジョッシュも大変だね」
「白月もそうなってくれて良いんだよ?」
「いいや、遠慮しておくよ」
「そう? 残念」
軽く笑い合った私達は、偉大な発明家の研究所を後にした。




