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エピソード7:聖人君主に光あれ!!③

 12月25日、クリスマスの朝。時刻は間もなく8時30分。

 終業式を前日に終えた秀麗中学校は、朝から部活動に励む中学生が、各々の場所で準備を始めていた。

 そんな中、3年生でも内部受験で特別進学コースを希望している生徒には、受験対策の補講が実施されることになっている。倫子もそれに参加するため、昇降口で靴を履き替えていた。

 世間はまだ、これからもうしばらく浮かれている。その中に混ざって楽しめないのは残念だけど、今は受験勉強に集中すべきだ。内部のテストとはいえ、ここで振り落とされる内部生も決して少なくはない。外部からの希望者も年々増え続けているため、昔ほど、内部生に有利なわけでもないのだ。

 履いてきた靴を片付けた倫子が、カバンを持って教室に向かおうとした次の瞬間、久しぶりに聞こえた声に呼び止められる。


「阿部会長!!」

「島田くん?」


 倫子は足を止めて声がする方へ体を向けた。少し離れた場所から小走りで近づいてきた勝利は、鼻先を少し赤くして息を切らせながら、いつも通りの笑顔を向ける。

「おはよう、会長と会うのも、なんか久しぶりだね」

「おはよう。確かに久しぶりね。あと……」

 靴を履き替えている勝利の横顔を見やり、倫子は苦笑いを浮かべた。

「ところで島田くん、私はもう『会長』じゃないのだけど……」

「え? あ!!」

 彼女の指摘で絶妙な呼び間違いに気付いた勝利は、「そうだった……!!」と1人で狼狽する。

「うわーどうしよう、僕って阿部会長が阿部会長になる前はどんな呼び方してたんだっけ……!?」

「確かに……どうだったかしらね。とりあえず教室に行きましょうか」

 正直、倫子もとっさに思い出せなかったため、それはそれとして2人で教室へ向かうことに。階段を登りながら彼の横顔を見ると、目元に濃い疲労の気配があった。

 これまでは血色の良い、健康優良児の顔しか見てこなかったので……根を詰めている気配に、少し、不安が募る。

「島田くん、ちゃんと睡眠時間は取れているの? 目の下にクマがあるように見えるけれど……」

「あー……大丈夫大丈夫!! 今だけだから!!」

 倫子の指摘を笑って受け止めた勝利は、一度呼吸を整えて、前を見据えた。

「ここで頑張らないと絶対に後悔するって思うから。今は少し無理をしてもいいって思ってるんだよね」

 受験は一度きり。高校だから最悪、浪人して志望校を目指すことも出来なくはないけれど……それが今以上に、非常に厳しい道だということは想像に難くない。

 だからこそ、今、目の前の問題をしっかりこなしていく。

 時間をかけないと分からないなら、時間を作って取り組むしか無い。

「……島田くんの言う通りかもね」

 勝利の決意を受け取った倫子もまた、階段の上を見据えて息を吐いた。

「まずは今日、最後まで頑張りましょう」

「うん!! 寝ないように頑張る!!」

 彼はそう言って階段を一段とばしで上った後、てっぺんから倫子へ軽く手を振って、自身の教室へと向かう。

 その姿を見送りつつ……倫子は苦笑いを浮かべて呟いた。

「それは……本末転倒じゃないかしら……」


 時の針が進み、時刻は間もなく9時。

 ユカが『仙台支局』へ始業ギリギリで滑り込むと、仕事の準備を進めていた政宗が彼女を待ち構えていた。寝袋等の宿直道具は既に片付けられ、室内はいつもどおりの様相。身支度を整えている政宗の胸元では、真新しいシルバーのネクタイピンが、蛍光灯の光に反射して存在感を出している。

「ケッカ」

「お、遅れんかったよ!? まだ8時58分なんやけど!?」

 必死に自身のスマートフォンを見せる彼女へ、政宗は肩をすくめて「そうじゃなくて」と首を横にふった。

「支倉さんに聞いたんだ。みんなからのプレゼント、ケッカからの発案だったって」

「え? あぁ……」

 てっきり繁忙期に遅刻ギリギリで出社したことを咎められるかと思っていたので、ユカは間の抜けた声で彼を見上げた。

 そして、棒読みで返答する。

「あれはサンタさんからのプレゼントやけん、ケッカちゃんは関与しておりません。」

「えぇ……」

「そういうこと。ほら、打ち合わせ始めよう。おはようございまーす」

 ユカはしたり顔でそう言うと、彼の脇をすり抜けて衝立の向こう側へ。

 政宗はその背中を視線で追いかけた後……息を吐いて、足を前に踏み出した。


 クリスマスの昼下がり、15時50分過ぎ。『仙台支局』には華蓮と仁義、里穂の3人が揃っていた。3人とも既に冬休み期間のため、これから夜までガッツリ関わることができる。

「クリスマスは働くっすよー!!」

 入口近くにある応接用のテーブルに財布とスマートフォンの入ったショルダーバッグを置いた里穂が、明るい声で決意表明をした。今日は白いハイネックにグレーのワンピースをあわせ、足元はヒートテックのタイツとブーツで防寒対策はバッチリ。ポニーテールを揺らして頷く彼女に、隣に座っていた仁義が「頑張ろうね」と同意する。

 仁義もまた、蓄熱素材のインナーと裏起毛がついたジーンズ、足元はブーツを着用して、隙間風を許さないスタイル。悪目立ちを避けるために黒のウィッグを着用しているが、首元には里穂からクリスマスにもらった、明るいグレーのマフラーを巻いている。

 仁義はズボンのポケットに入れていたスマートフォンで時間を確認した後、机を挟んで向かい側に座っている華蓮を見やり、声をかけた。

「片倉さんも、今日の夜は参加できるんだよね?」

 この問いかけに、華蓮が静かに首を縦に動かす。彼女は長い髪の毛をバレッタで一つにまとめ、茶色い長袖のワンピースに黒いタイツ、足元はショートブーツを着用していた。夜には『仙台支局』有志によるクリスマスパーティーが予定されており、華蓮も参加者名簿に名を連ねている。普段はこういうイベントごとがあっても「明日の授業に向けた課題があるので」と言って参加しないのだが、冬休み期間中なのでその言い訳は使えない。

 応接用のテーブルを使って資料をファイリングをしていた華蓮は、ポツリと参加理由を零した。

「……手伝いをした方がいいかと思いますから」

「手伝い?」

「透名さんが食べ物を買って持ってきてくださるそうなのですが、名杙さんも佐藤支局長も、その時間に手伝えるか分からないとのことでしたので……」

 その言葉に、里穂と仁義は思わず顔を見合わせた。櫻子が参加することは何となく聞いていたが、食べ物を調達してくれることは知らなかった。里穂と仁義には『仕事』に集中して欲しいという、政宗達の意図もあるとは思う。

 けれど、それ以上に……華蓮ならば櫻子の――『縁故』ではない一般人であり、統治の婚約者でもある女性の――手伝いをしても良い、と、判断するだけの積重ねがあるということだ。それに華蓮がどこまで気付いているのか、ここで問いただすつもりはない。

 ただ……その事実が嬉しい。仁義は肩の力を抜くと、「そっか」と普段通りに相槌をうつ。

「僕も里穂も巡回があるから、手伝えないのが申し訳ないけど……重たい荷物、よろしくね」

「落としたら承知しないっすよー」

 ニヤニヤした表情でこちらを見つめる里穂を、華蓮は「そんなことしません」とバッサリ切り捨てて。

「名倉さんこそ……ホッカイロを貼ったままの洋服を洗濯機に入れてしまって、お母さんから怒られないように気をつけてくださいね」

「ど、どうしてそれを知ってるっすか!? ジン、裏切ったっすね!!」

「違うよ!? 本当に僕じゃないからね!!」

 慌てて釈明する仁義を横目に、華蓮は静かに立ち上がると……ファイリングを終えたものを片付けるため、衝立の奥にあるキャビネットの方へ向かう。

 すると。


「お疲れ様でーす」

「……っす」


 華蓮と入れ違いに、心愛と環が合流した。心愛は白いセーターと赤い膝丈のスカート、黒いタイツにハーフブーツを履いている。一方の環はフード付きのトレーナーに迷彩色のチノパン、足元はスニーカーという動きやすさを重視した格好だ。2人が奥にいると思っていなかった里穂は、驚きで軽く目を見開き、正直な感想を口にする。

「ココちゃんに森くん、先に来てたっすね。っていうか……森くんはこれからジンと一緒っすけど、ココちゃんは18時からっすよね? 早すぎないっすか?」

 里穂のもっともな指摘に、心愛は思わず目を開いて反論した。

「べ、別にいいでしょ!? 寒くなる前に移動しておこうと思ってっ!!」

「……名杙、早く来て特訓するんじゃ――」

「――心愛そんなこと言ってないしっ!!」

 大声で環の言葉を否定した心愛は、先ほどまで華蓮が座っていたソファへ腰を下ろした。残った1席に環がしれっと座ったところで、仁義が「ところで森くん」と環を見つめ。

「昨日、政宗さんへのプレゼントを支倉さんと一緒に取りに行ってくれたんだよね。ありがとう」

 仁義の言葉に里穂が「そうだったっすか」と目を丸くして。

「助かったっすよー。ミズちゃん1人だど仙台駅で迷子になってたと思うっす」


 遡ること十数時間前。

「あ、あの、森くん……この後、大丈夫ですか?」

 この言葉に肯定の意を示した環は、瑞希と連れ立って仙台駅西口のコインロッカー前にいた。

 冬休みも始まったクリスマスイブの夜、ということもあり、大きなキャリーケースを引いて移動する人も多い。仙台駅西口1階の屋外には、駅舎の壁に沿ってコインロッカーがズラリと並んでいるため、そこに荷物を預ける人、引取に来る人が行き交っている。

 息が白くなる時間帯、瑞希は統治から預かったレシートを握りしめ、いざ、ロッカーの前に立つ。

「え、えぇっと……暗証番号をパネルに入力して、それで……」

 ユカの発案で集まった、政宗へのサプライズプレゼント。それを取りまとめた統治が、朝、駅のコインロッカーに預けているのだ。不用意に支局内へ持ち込んで、政宗から感づかれるのを防止するために。

 これから瑞希はその荷物を引き取り、『仙台支局』へ持ち帰る。そして、政宗の机の位置から最も死角になる……であろう、ユカの机の足元に隠して、ミッションコンプリートだ。


 ただ。

 瑞希の目の前にあるのは、全て、外観が同じに思えるロッカーの扉たち。これが数十メートルにわたって続いているのだから、まずは位置を探すだけでも一苦労だ。

 統治は電子マネーで決済したため、鍵はレシートに記載された4桁の暗証番号。これを該当のタッチパネルに入力すれば解錠だ。

 そして統治は瑞希へレシートを渡す際、こんな根回しをしてくれていた。


「森くんにも時間の許す限り協力してもらえるよう、話をしてあります。一人で探すのは大変でしょうし……彼を送るという名目があれば、万が一、佐藤に見つかったとしても言い訳ができます」


 と、いうわけで駆り出された環は、仁王立ちしている瑞希の横へ立ち、横目でロッカーの番号を確認した。

 そして、スタスタと歩き始める。

「も、森くん!? そっちなの!?」

「……番号的にこっちっすね」

 確信を持って歩く環の後ろをついていくこと数メートル。環が指差したロッカーの扉には、瑞希が持っているレシートと同じ番号が記載されていた。

「本当だ……!! も、森くん、凄いね……!!」

「……ども。じゃあそれ、貸してください」

「へ? こ、これ?」

 環が指差したのは、瑞希が握っていたレシート。彼女が「どうぞ」とそれを差し出すと、環はそこに記載された暗証番号を目視した後、パネルへ淀みなく入力していく。

「……終わり、と」

 程なくしてロッカーのドアが開き、中身が取り出せるようになった。

「どうぞ」

「あ、ありがとう……!!」

 瑞希は慌てて中に入っていた茶色の紙袋を取り出すと、環へ頭を下げる。

「森くんがいてくれて、本当に良かった……!!」

「……うす。それにしても……」

「……?」

 環は瑞希が持っている紙袋を凝視した後、正直な感想を口にした。

「……袋、白くないっすね。サンタ感、皆無」

 その指摘に、瑞希もまた、視線を自身の手元へ向けた。

 確かに今、自分が抱えている紙袋は……サンタクロースが持っているものとは、程遠い外観だけど。

「そうだね……でも、それも、いいんじゃないかな」

 思わず頬を綻ばせた瑞希は、全員の思いが詰まった紙袋を抱え……無事に、政宗に見つかることもなく、『仙台支局』へ帰還することが出来たのだった。


 ……ということを思い出しつつ、環は表情を変えずにピースサインを向ける。

「暇だったんで問題ないっす」

「なにはともあれ、政さんを最高のタイミングで驚かせることが出来て、クリスマスは大成功っす。人が増えるって楽しいっすね」

 里穂の言葉に各々が頷いた次の瞬間、事務作業を終えたユカと統治が奥から4人に合流した。そして、4人それぞれの顔色や表情を確認して、『開始』を判断する。

「みんな、早くから揃っとるね。じゃあ、予定表の通りに巡回ってことで。今日がとりあえずの山場やけんが、夜のパーティー目指して頑張ろう!!」


 16時からユカと仁義と環、里穂と統治という組み合わせで、仙台市中心部の巡回へ。政宗と瑞希は外回りで17時まで戻ってこない。留守番は華蓮と……。

「……心愛さん、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫です!! 心愛もこれくらい出来るようにならないと……!!」

 普段は統治が座っている席に腰を下ろしている心愛は、パソコンの画面を見つめ、鼻息荒く頷いた。

 彼女がここに座っている理由は、『仙台支局』の事務仕事を手伝うため、である。

 遡ること30分前、環と共に少し早めに『仙台支局』へやってきた心愛は、パソコンへ向かって資料を作っている統治の隣に立ち、こんなことを言い出した。

「お、お兄様!! 心愛も……パソコンで文章を打ったり、印刷したり出来るようになりたいの」

 それは、あまりにも唐突な申し出だった。統治は思わず手を止めて、妹の決意の理由を探る。

「心愛……急にどうしたんだ?」

「ほら、心愛、生徒会で会長をやるでしょう? 学校にあるパソコンを使って資料を作れるようになっておきたいって思って。だけど、どうやって慣れていけばいいのか、よく、分かんないから。勿論、お兄様やケッカがやっていることが難しいお仕事だって分かってるけど……何か、手伝えることってない?」

 と、いうわけで。ユカと統治が急いで相談をした結果、今日のクリスマス会の式次第を作成してもらうことにしたのだ。

 統治からの課題は、以下の通り。

「サイズはA4、中央で折り畳めるとより好ましいな。縦書きか横書きかは任せる。主な流れはここに書いてある通りだ。フルカラーで8人分、印刷までしておいてくれ」

 そう言って、会の流れが書いてあるメモ帳を心愛に託して、外へ出ていったのだ。

 心愛の目の前にあるパソコン画面には、起動した文書作成ソフト。真っ白のファイルに様々なフォントで『クリスマス会』と文字を並べてみては、首をひねっていた。

「うーん……なんか、堅苦しいのよね……」

 自分がこれまで見てきたような、ポップなカードには程遠い。文字を書いては消し、書いては消し……を繰り返す心愛へ、見かねた華蓮が助け舟を出す。

「例えば、ですけど……フリー素材を使ってみてはどうですか?」

「へ? ふ、ふりー……素材?」

 全くピンときていない心愛を見た華蓮は、静かに立ち上がって彼女の斜め後ろに立った。そして、手を伸ばしてマウスを握ると、ブラウザのアイコンをダブルクリックして起動させる。

 そして、検索バーのあるポータルサイトへ『フリー 素材 クリスマス』と打ち込み、検索。すぐに結果が表示された。手っ取り早く、広告以外で一番上に表示されたサイトをクリックすると、クリスマスツリーやサンタクロースのイラストなど、様々な画像が表示される。

「こういうサイトの中から、適当な画像や文字をダウンロードして並べるだけで、それなりの見栄えになると思います」

「そ、そんなことして大丈夫なんですか? 心愛、訴えられたりしませんか!?」

「フリー素材と書いてあるので、個人の範囲内で使う分には問題ありません。クリスマスのテンプレートもあるみたいなので、使い勝手が――」

「――あ、ここをクリックすればいいんですか?」


 次の瞬間、華蓮が握っていたマウスの上に、心愛が自身の手をかぶせた。結果的に手を重ねるような状態になってしまい、慌てて互いに手を引っ込める始末。


「ごっ、ごめんなさい!! 心愛、わざとじゃなくって……!!」

「い、いえ……分かってます。気にしないでください……」

 華蓮は眼鏡の奥の視線を泳がせつつ、両手を後ろに移動させる。

「……頑張って、くださいね」

「は、はい……やってみます。ありがとうございます……」

 心愛がぎこちなく頷いたことを確認した華蓮は、オズオズと自分の席へ戻っていった。そして、自席のパソコンのロックを解除した後、フォルダ内の整理にとりかかる。

 使っていなかったので、少しひんやりした感触がするはずのマウス。いつも通りそれを握って、作業を開始する。

 クリックをする指に、普段以上の熱が宿っているような気がした。


 日が落ちて、時刻は18時20分。『仙台支局』で軽く休憩をした里穂と仁義は、2人で商店街を歩いていた。

 学生が冬休みに突入していることもあり、カラオケ店やファーストフード店の入口には入店を待つ行列が発生している。ゲームセンターも大盛況で、楽しそうに遊んでいる同年代が羨ましくないかといえば、嘘になってしまう。

 ただ……警戒を緩めて迷惑をかけるようなことだけはしたくない。里穂が内心で気合を入れ直していると、隣を歩く仁義が彼女を見下ろした。

「里穂、大丈夫? なんだか、表情が硬いっていうか……」

「へっ!? だ、大丈夫っすよ!? 人が増えて、少し圧倒されてたっす」

 里穂は慌てて仁義を見上げ、そして。

「……ジン、早速マフラーを使ってくれて嬉しいっす」

 今日、昼前に仙台駅で待ち合わせをした際に渡したプレゼント。それを早速使ってくれていることに、思わず口元が緩んでしまう。

 里穂の言葉に仁義は表情をほころばせると、改めて感謝の言葉を口にした。

「今日もこれから冷え込みそうだからね。ありがとう、里穂。すっごく暖かいよ」

「それは良かったっす。ジンに似合うと思って買ったっすけど……予想以上なので私は鼻が高いっすよ」

 里穂はフフン、と、胸を張って頷いた後、自身が肩からかけているショルダーバックを見下ろした。

 ストラップの金具の位置で揺れるバックチャームは、白いラインストーンで作られたテディベアが可愛い代物。仁義からクリスマスプレゼントでもらったものだ。

 これまでの仁義は、サッカーの練習で使うサブバックや冬の寒さを乗り越えるための耳当てなど、実用的なものをプレゼントしてくれることばかりだった。今年はどのスポーツブランドだろう、なんて思っていたところに、盛大に、傾向が違うものが出てきたので……里穂は仁義に向かって「これ、本当にもらっていいっすか?」と、3回ほど確認してしまったのだ。


 ――これだと、里穂の学校のカバンにもつけられるかな、って。


 そう言って照れくさそうに笑う、そんな彼から目が離せなくなって。

 里穂はすぐにそれをカバンに取り付けた。そして、見る度に、口元がニヤけてしまうのだ。

「里穂?」

「いやー……まるで私、ジンの彼女みたいっすね」

「何言ってるの。彼女でしょ」

「そうだったっす」

 2人で軽口を叩きあい、歩幅をあわせて、商店街を歩く。

 緩めるのは互いの頬だけ。警戒は決して――緩めないまま。

 クリスマスだからイチャイチャしてください。

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