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94 ルル、ススムの経緯を知る

ルルを連れて領主フリッパの屋敷に戻ったが、特に何かを問われる訳でもなく、部屋はどうするかと聞かれた。


男女がひとつ同じ部屋で寝るなんてはしたないわ―――という理由ではなく、単純に五月蝿そうだったから別々の部屋が良かったんだが、俺が返事をするよりも早く、ルルが強引に同室にするよう決めてしまった。


フリッパは俺と一緒にいるとガチガチに緊張してしまって変な空気になるため、食事は部屋に運んでもらうことにした。


というわけで、今はあてがわれた部屋で俺とルルの2人で食事タイムだ。



「そういやお前は俺とアリアがどんな関係だったか知ってるのか?俺っていうか、勇者との関係だけど」

「勇者はあんたでしょ」

「それはもういいから」

「はぁ……まぁいいわ」


俺がどうあっても自分=勇者だと認めない事に諦めのため息を吐きつつ、ルルは話し出した。


「一言でいえば、あれはあんたのストーカーよ」

「あぁ………さいでっか……………」


まぁ………正直言うと予想していなかった答えではない。

俺に好意を持っているであろう事は当然わかっていた。そして行動の節々に現れる狂気じみた…なんというか、行き過ぎた服従心とでも言えばいいんだろうか。俺に嫌われない為に、俺が死ねといえば本当に迷いなく自害してしまいそうな狂気的な服従心。あの目は確実にイッちゃっている。


「あんたの事を四六時中監視してたし、あんたの為ならなんだってやるし、邪神教の狂信者が可愛く見えるくらいの信仰ぶりだったわ。だけど、そう考えると変ね……」

「何がだ?」


おかしな奴の話をしているんだから、変なのは当然だろうと思いつつも聞き返してみる。


「この距離にあんたがいるのに、一緒にいようとしないなんておかしいわ。さっきも自分から帰っていったし。私の知ってるアリアならなんとしても一緒にいようとしたはずよ」

「まぁ…勇者は5年もいなかったんだろ?その間に本人も変わったんじゃないか?」


人間5年もあれば結構変わるもんだ。ルルは腑に落ちないみたいだけど。まぁ俺はそもそも元を知らないから何も言えないんだけど。


「有り得ないわね、あの女は絶対何か企んでるわ」


ルルは確固たる確信を持った表情で答える。


「それに、この5年で変わったのはあんたの方でしょ。どこで何してたのよ。まったく、私の事を5年もほっとくなんて大罪だわ。………この罪は、その……デート10回でも足りないんだから………」

「あ?」

「何も言ってないわよ!あんたは5年間何してたのかって話よ!昔のあんたとはまるで別人じゃない!」

「またその話か。まるでじゃなくて、別人なんだよ」

「なんでよ!記憶喪失だってんなら、なんで別人だって、なんでそれだけ頑なに言いきれるのよ!」

「記憶喪失じゃないからだ」

「……………え?」

「周りが勝手に言ってるだけで、俺は自分が記憶喪失だって言ったことはない、……はずだ………たぶん…」


勇者否定は徹底してきたつもりだが、もしかしたら面倒な時は言い訳に使った事もあったかもしれない。


「記憶喪失じゃ……ない?」

「ずっと言ってるだろ。俺はお前らの言う勇者じゃないって」

「だってそれは記憶が無いから、分からないから―――」

「わからないなんて言ったこともない。俺は最初から完全に否定し続けてきた」

「そうだけど!………じゃああんたはこの5年間、どこで何してたのよ!」

「この世界でっていうなら、何もしていない。なんせこの世界にいなかったんだからな」

「………は?意味わかんないんだけど?どういうことよ」

「俺がここに召喚されたのは一月くらい前のことだ。だからこの世界のことについて全然知らないし、5年前の事なんか知る由もない」

「召喚………?1ヶ月前に?それまではどこにいたのよ」

「こことは全くの別世界。いわゆる異世界だ」

「異世界って…そんな……」

「アリアも、勇者の魂は別次元だか違う世界線だかに飛ばされたみたいな事言ってたぞ」

「……………」


俺の言葉を受けてルルは食事の手を止めて考え込む。


「だから俺は勇者じゃないってずっと言ってんのに。誰も聞きゃしねえんだから…」


半ば独り言のようにぼやきながらプリンを口に運び、ムシャクシャをむしゃむしゃで解消する。


「アリアがあんたを召喚したの?」

「そうだよ」

「1ヶ月前に?」

「まぁだいたいな」

「……………そう」


ルルは深刻そうな顔をしてまだ何かを考え込んでいる。


「お子様がそんなに悩み込むなよ。知恵熱が出るぞ」

「お子様じゃないわよ!あんたの事だからちゃんと考えてやってるんでしょ!」

「へぇ、俺の事そんなに真剣に考えてくれてるんだ」

「そうよ!………ばっ、違うわよ!あんたの事なんかこれっぽっちもか、考えてないんだから!ってかあんた!何食べてんのよ!」


ルルは俺が持っている2個目のデザートを指さす。


「なにって、プリン?」

「なにじゃないでしょ!?それ私のでしょ!」

「いや別に名前とか書いてなかったけど」

「2人で食事して2個しかないんだから、1人1個が普通でしょうが!」

「あーはいはい、わかったよ。ほら」


既に俺が一口食べてしまっているプリンだが、それをルルに差し出す。


「あんた………これ………」

「俺の食べかけじゃ嫌か?」


ルルは俯いて体をふるわせている。

ちょっとからかい過ぎたかな?

本気で怒られたりなかれたりしても面倒だし今日はこのくらいにしてやるか。


「冗談だよ冗談」


2個目に手をつけてしまったのは無意識だけど。

場の空気を和ませようと務めて明るい口調に変える。


「プリンくらい頼めばすぐ新しいの持ってきてくれ―――」

「食べるわよ………」

「え?」

「それ!食べるわよ!」


ルルは俺からプリンとスプーンを奪い取り、しばらくそれと睨めっこをしていたが、意を決したように険しい顔で不乱にスプーンを動かし始めた。


「いや、ほんと、新しいの頼むけど………」


と言ってみるが、ルルは俺の言葉を無視して食べ続ける。

ちょっとやりすぎたかな?


まぁいいか、時間が経てば機嫌も治るだろう。


俺はベッドに体を沈める。食べてすぐのゴロ寝は最高だ。


今日も色々あったな。

なんて思い返してるうちに、いつの間にか寝落ちしていた。

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