92 ラー・カレイムvsタイタンアイアンクレイマン
新作といいますか、長く続くかは分かりませんが何となく書いてたら形になったので投稿してます。
宜しければそちらもおなしゃす!
「卑屈勇者の意趣返し~理不尽には理不尽を~」
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全員でダンジョンの最下層にやってきた。ダンジョンマスターの力を使えば一瞬で転移できる。
転移したのはボス部屋、むき出しの岩に囲まれた大空洞だ。そこに魔物の姿はなくもぬけの殻のように思えるが、俺が会いに来た魔物は確実にそこにいる。
俺は壁に向かって名前を呼ぶ
「イワオ」
名前を呼ぶと、部屋の壁に2つの黒い模様が浮かんだ。
無機質なため影やシミのようにも見えるが、これがタイタンアイアンクレイマンであるイワオの目だ。
「よく頑張ったな」
イワオを労いながら軽く触れてやる。
レイに対して前のマスターとして振る舞うのなら、もはやイワオに対しても同じ対応をしても一緒だろう。
こいつは本当に今日までの5年間1人でよく頑張ったと思えたから、それでいいだろう。
「ゴッ…」
イワオが小さく返事を返す。
イワオは言葉は喋れないが、声を漏らしたり雄叫びを上げたりはできる。
さて、一見して壁そのもののように見えるイワオだが、というか実際に今は部屋の岩壁と一体化しているが、本来はそうではない。こうなってしまっているのには理由がある。
ズシリ、ズシリと、地震とは違う単発の地響きがダンジョンを揺らす。
「あとは任せろ」
俺の言葉を聞いたイワオはその身を砕かれた。
ダンジョンマスターが消えた5年前から今日まで、限界を超えてよく耐えてくれていたものだ。
もしこいつが街に出ていればピンスモグは復興が望めないレベルで壊滅していただろう。それどころかピンスモグだけでは済まなかったかもしれない。
イワオが砕けた奥から姿を見せたのは、薄黄色の鱗に覆われた巨大な竜だ。竜といっても翼はなく、亀やワニに近い体型をしている。
ラー・カレイム、雷を操るドラゴンの上位種。イワオに代わってこのダンジョンのラスボスにしようと前ダンジョンマスターが仕込んだ魔物だ。ほかの魔物と比べれば多少は賢くはあるが、言葉を操ったりは出来ず、本能で生きている。そのためダンジョンマスターの支配が消えた際に野生へ還った。
そしてそれを自己の判断でダンジョン最奥に押し止めていたのがイワオというわけだ。
ラー・カレイムは鋭い目で俺を睨んでいる。天を向いて咆哮をあげれば部屋が揺れる。1歩2歩と距離が詰まる度に地が揺れる。
足元の石ころをひとつ手に取る。
まったく、前任者がこんなもんを連れ込んだせいでこいつは…
握った石に力を込めるとほのかに輝き姿を変える。
開いた手のひらの上に乗っているのは小さな岩人形、それはひとりでに立ち上がり、喜ぶように両手を振りあげた。
タイタンって呼ぶには随分と小さくなったな。
タイタンアイアンクレイマンはいわゆるゴーレムだ。ゴーレムの創造はダンジョンマスターの能力に含まれているため、俺は土や岩からゴーレムを生み出す事ができるし、意志を持ったものならば今回のようにそれを残したまま再構成もできる。
まぁイワオはわりと高レベルだから本来なら自力で再生できるはずなんだけど、今回はラー・カレイムを抑え込んでるうちにダンジョンの壁と同化し過ぎて機能不全を起こしていたようだ。その改善とか、マスターを俺に書き換えたり、マスターが手を煩わせる事で労いを伝えてみたりと諸々あったのでちょちょいと俺自らやったってわけ。
ちっちゃくなったイワオは俺の腕を登って肩まで上がってきた。
そして肩から頭に向かってジャンプ―――しかし着地する前にピョン太の後ろ脚をくらって地面に落ちた。
イワオはすぐに起き上がって一足飛びに俺の肩に戻ってくる。
そこから頭上のピョン太を睨みつける。ピョン太もピョン太でイワオを睨みつけている。2体の間でヒエラルキー抗争が起こっているようだ。
頼むから暴れてくれるなよ。イワオは小さくなったが強さは変わっていない、難攻不落のダンジョンのラスボスを務められるほど強力な魔物だ。そしてピョン太が強いのも先日のビーストテイマーとの1戦で発覚している。そんなのが目と鼻の先ならぬ、肩と頭頂の先で睨み合っているとか只事じゃない。
そして暴れるといえば、先程から無視されてるラー・カレイム。
自分に気を向けられていないことを察してか、憤慨を顕にしながら、攻撃に向けて体を光らせている。
こいつの攻撃方法は電撃、背びれのような鱗に雷属性の魔力を溜め込み、それを放電するというもの。
この情報も前ダンジョンマスターの記憶にあったものだ。
このまま何もしなければ部屋にいる全員がこんがり焼かれてしまう。
かといって俺が手を下せばちょっとうるさい事になる―――んだけど、どうやら彼女はギリギリ間に合いそうにない。
ラー・カレイムが咆哮をあげると、背中から全方位無差別に電撃が放たれる。
「避雷針」
両手を左右に広げ、2本の鉄の棒を生成する。
それによりこちらに飛んできた電撃は全て鉄の棒に吸い寄せられ、俺たちの身代わりになってくれる。
背後では、アリアは平然と立っているが、ハナとノベタは耳を抑えてしゃがみこんでいる。
いやノベタ、お前は平然としとけよ。行動を共にすればするほどこいつが魔王なのか、あの時に王とメンチ切りあってたやつなのかと疑問になる。
ラー・カレイムの電撃は5秒ほどで収まった。無傷の俺達を見て何を思っているのか、大きな咆哮をあげる。
続けてこちらに駆け出してくるラー・カレイム。電撃が効かないとなると次は物理で襲ってくるか、まぁ野生の魔物だしそんなもんだな。
対して、イワオが肩から飛び降りて俺たちを庇うように前に出る。やる気っぽいから俺も止めはしない。
一方は大型トレーラーくらいはありそうな巨大トカゲ、一方は手のひらサイズの石人形。『蟻が象に挑む』を体現したような構図だが、うちの石人形はそう簡単に潰されたりはしない。
イワオがこじんまりとした手を振りかぶると、周囲の岩が寄り集まり、巨大な手と化した。その手を前に押し出せば、容易にラー・カレイムの突進を受け止める。
ラー・カレイムの顔面をがっちり掴んだイワオは完全に力比べに押し勝っている。
その手を振りほどこうと暴れるラー・カレイムだが、イワオのアイアンクローが外れそうな様子はない。苦し紛れの放電も岩のボディには効果がないようだ。
見た目こそ小さくなったが、俺の支配下に戻った事でイワオのステータスは大きく上昇している。先程までは身を呈して抑え込むのが精一杯だったラー・カレイム相手でも、今は赤子の手をひねるようなもんだ。
『故郷の祠』の真のラスボスを舐めてはいけない。
イワオが俺を見て指示を仰ぐ。
「やっていいぞ」
一応はラー・カレイムは前ダンジョンマスターが、このダンジョンのラスボスにしようと思って捕獲しておいた魔物だ。イワオからしたら5年間も苦しめられた相手だ。しかしだからといって恨みを抱く訳でもなく、その処遇についてちゃんと主の意志を優先する。イワオは本当にいい子だ。
イワオがラー・カレイムを掴んでいる腕をひねると、その力に抗えずラー・カレイムの巨躯が裏返しになる。
イワオの左手に岩が寄り集まり、これで両手が巨大な鈍器と化す。
ちなみにイワオの体は手足が胴から離れて浮いており、それなりに自由が効くようだ。小さなボディに不釣り合いなサイズの腕となったが、それを動かすうえで、でかすぎて・重すぎて動きづらそうといった様子は全くない。
イワオは両手を組んでグーを作ると、そのままひっくり返っているラー・カレイムの腹に叩き落とした。
何度も、何度も、イワオの腕が振り下ろされる度にフロアが揺れる。
一撃貰うたびに呻き声をあげていたラー・カレイムの声も段々と弱まり、今では口から紫色の液体を吹きこぼしている。
イワオは組んでいた指を解き、両手のひらで床を叩く。
フロアがこれまでで1番大きく揺れ、そしてラー・カレイムの背を中心として床が裂ける。
転がるように地割れに吸い込まれたラー・カレイムは辛うじて前足と首を崖際にかけて穴に落ちまいと踏ん張るが、トカゲ型の竜がその巨体を短い前足で支えるのはどだい無理な話、ろくに踏ん張ることすら出来ずにズルズルと滑り落ちていく。
そのまま裂け目に引きずり込まれるものと思ったが、それより先に裂けた地面が戻り、ラー・カレイムは挟まれる形で止まった。
イワオは強化で巨大化していた腕をバラし、俺の指示を仰ぐようにこちらを見る。
「お前……」
言葉はなくとも、イワオの思考が伝わってくる。
雷竜をそのまま潰す事も、奈落に落とすことも出来たのに、そうしなかったイワオ。
イワオにとっては5年間苦しめられた相手だ。そいつにこうして本人手ずから引導を渡してやれる事は、俺はいい事だと思っていた。
そもそもイワオがその気になれば、ダンジョンの支配権など関係なしにラー・カレイムを倒すことが出来ていた。なのにそうしなかった。
それは単に、この魔物が元ダンジョンマスターが連れ入れたものだからだ。
ダンジョンの新しいラスボスにする為に連れてこられたラー・カレイム。イワオからしてみれば自分の仕事を奪う存在だ。
それでも、ダンジョンマスターの希望を1番に尊重し、その為だけに5年間も耐え続けた。そして今もトドメをさすことなく俺の意思を仰いでいる。
こいつは本当に、本当にいい子だ。
俺はイワオを抱きかかえてやる。
「ありがとう」
岩でできた顔に表情はなく、声を発することもないが、俺の言葉にイワオがどこか喜んでくれているように感じた。
せっかくイワオが生かした魔物だ。こいつは前ダンジョンマスターの意志を継いで俺がちゃんと有効活用してやろう。
「てやああああああ!!!!」
ダンジョン奥の通路から小さな影が飛び出してきた。
「夜穿流星!」
それは手に持った槍を蒼いオーラを靡かせながら鋭く振るう。
一直線に伸びた刃先はラー・カレイムの頭蓋を容易く貫き、ラー・カレイムは絶命した。
あっけに取られる俺たち一同。そんな雰囲気などまるで気づいていない小さき者は堂々と胸を張り声を上げる。
「まったく!どうしてあんたはいつも勝手に戦うの!なんで私を呼ばないのよ!」
現れたのは、自称:勇者第一の剣、ルルだった。




