91 ロールプレイ
「マスター。どうか罪深き私めに罰を」
「ん?」
跪いた墓守の管理人は俺に自分を罰するよう言ってくる。
そういえばこいつは出会った瞬間から魔物の氾濫の事を気にしていたな。
「墓守の管理人さんは何をそんなに気にしてるんだ?」
俺の言葉にハッと顔を上げる墓守の管理人。その暗闇に包まれたのフードの奥から、一筋の滴が流れ落ちる。
え………もしかして泣いてる?顔はないのに涙は流れるの?俺なにか悪いこと言った?
「どうか……どうか最後は、名前で呼んでください。マスターから初めて頂いた、何よりも大切なものです。どうかお慈悲を」
墓守の管理人が言う通り、こいつは種族名とは別に独自の名前を持っている。
最初にステータスを見た時から気づいてはいたけど。
「え……あぁ…すまない。記憶が無いから初対面みたいな感覚で、気安く名前で呼んでいいものかと思って。すまない、レイ」
“レイ”
これが墓守の管理人の名前だ。勇者がどれくらいの魔物に名前を与えたかは分からないけど、とりあえずこのダンジョンで得た記憶の限りでは名付けはそんなに頻繁にする事ではないみたいだ。レイにとっても名前は余程特別なものなんだろう。
「ありがとうございます」
名前を呼ばれたことにレイは静かに礼を言う。
俺に名前を呼ばれた事がよほど嬉しいのか、頭を下げていて表情は見えないが…いや表情はもともとないけど、少し震えていて泣いているのがわかる。
なんか見てて可哀想だから仕方ないけどそれっぽく接してやろう。ここをダンジョン化した時に流れ込んできた前ダンジョンマスターの記憶を頼りにすれば特に違和感なく演じきれるだろう。
「最期に貴方様に名前をお呼び頂き至福の極みでございます。もう思い残すことはございません」
「いやだから、レイは何を気にしてるんだ」
気軽な感じかつ、自分の方が立場が上な感じで聞き返す。これが俺と使役モンスターとの適切な距離感だ。
「私はマスターの真意を見極めることが叶いませんでした。氾濫が起きた際、どうしていいか判断がつかず、それを止めることが出来ませんでした。私さえ正しく行動していれば街は無事だったはずなのに」
そういう事か。
つまり、ダンジョンがマスターの支配から外れた事が、マスターの意思なのか不慮の出来事なのかわからず、結果としてピンズモグが甚大な被害を受けたことを気にしてるってことか。
たしかに、ピンスモグダンジョンの中ボスであり、自らの意思を持つレイでなければ氾濫を止めることは難しかっただろう。だが彼女には判断がつかず止めることが出来なかった。
それがマスターの望む結果ではなかったので罰を望んでいると。
うん、興味無いね。
俺には関係ない話だし、これに関してはダンジョンに残っていた旧ダンジョンマスターの記憶にすら何も残っていない。まぁ事が起きた時には既にこの世界にいなかったらしいから当然か。
話を聞いた限り、レイは何も悪くない。それなのにこんなに気に病んで。俺の言葉で心労を取り払ってやれるなら―――
「気にするな、お前は悪くない。悪いと言うのであれば突然消えた俺の方だ。苦労をかけてすまなかった」
膝をついてレイの肩に手をかけてあげる。
「マスター………よろしいのですか?」
許して貰えたことが意外だったのか、震えた声でレイが聞き返してくる。
「あぁ、いいんだ。よし!この話は終わりだ」
感謝やら謝罪やらがグダグダと続いてもしょうがない、そういう空気は苦手なので強引に話を締める。
レイはもう一度俺にお礼を言っていっそう涙を流していた。
「さてと、それじゃあもう1人を迎えに行くか」
レイがここまで気に病んでいたのは近くに比較対象がいたせいもあるんだろうな。
このダンジョンにおいてもう1体の意志を持つ魔物であり、元ラスボス。
ロールプレイのついでだ、そいつを助けに行くとしますか。




