90 5年前の出来事(2)
「いいえ、同一人物よ。ススムは勇者ガルファであり魔王:ダンジョンマスターよ」
俺の事を勇者ガルファであり、以前のダンジョンマスターと同一人物であると断言するアリア。
白昼の悪夢は5年前の出来事、そして俺はこの世界に来て1月経つか経たないかくらい。どう考えたってありえない話だ。
どいつもこいつも勇者勇者って、そんなに似てんのか?その勇者様と俺は。
「記憶がなくなってしまっているのは残念だけど、呼び出した私が言うんだから間違いないわ。私はススムを間違えたりしないもの」
彼女は自信満々にそう言い切るが、でももしそうだとしたら―――
「じゃあ5年前の騒動は俺が起こしたっていうのか?」
つまりそういうことだろ?
それを聞いた彼女は狼狽えて俺の周囲をクルクルと飛び回る。
「ごめんね、そうじゃないの、ススムは何も悪くないの、怒った?私の事嫌いになった?ごめんなさい、ちゃんと話すから、お願い捨てないで、嫌いにならないで、怒らせたかったわけじゃないの、ススムは何も悪くないの」
「わかった、わかったから説明してくれ」
「ほんと?怒ってない?」
「怒ってないから?」
「気に入らないことがあったらすぐに言ってね。私すぐに反省するから。指でも耳でもすぐ落とすから」
つい今まで慌てふためいていた彼女がいつの間にか完全制止で闇深い目をこちらにじっと向けている。
だからそれ怖ぇって!可愛く慌てるかヤンデレかするかどっちかにしろ。そこにギャップ萌えはない!?
「お、恐ろしいことを言うな。自分を傷つけるのは禁止だ」
「わかった。ススムがそういうなら絶対に守る」
そうか分かってくれたか、分かってくれたんなら早急に深淵蠢く視線を外していただきたいのだが。
不満があったら言うようにって、はっきり言えば俺と勇者を同一視されてる時点で気に入らないのだけど………言えねぇ、言えるわけねぇ。自傷ショーなど趣味ではない。
純粋に疑問に思ったことを口にしただけのつもりだったけど、そんな些細な一言をいちいち拾われてたらどこに地雷があるかわかったもんじゃない。
「それじゃあ話すわ、5年前の真実を」
彼女は彼女は俺の背後に浮き、両手を肩にかけて胸を俺の頭に乗せた体勢で話し始める。
「確かに白昼の悪夢はダンジョンがススムの管理下を外れて魔物が街に溢れて起きたことよ。でもそれを引き起こしたのは原因はススムじゃない。ススムがそんな事するはずないもの。じゃあどうしてそんな事になったかっていうとね。それは、ススムがこの世界から消されたからなの!」
俺が消された!?
…………と言われても自分には身に覚えもない事だ。
むしろ5年前に俺がこの世界にいたかのような想定で話が進んでいることの方が気になるくらいだ。
衝撃の事実みたいな雰囲気で話されたけど何も思うところはない。
「消されたって、殺されたって事か?」
「違うわ。この世界からススムの魂を違う次元に飛ばしたの。正真正銘、この世界線から消滅するって事。そしてススムをこの世界から消したのは、プロンタルトよ」
「プロンタルトって、この国って事か
?」
「そう、プロンタルト王国が恩人である勇者ガルファ=ワールドエンドの魂をこの世界から追放したの」
「なんでそんな事?」
「ススムはわりと過激に正義を執行してたからね。目障りだったのよ」
「それでモンスターが氾濫して王都も襲われたって訳か」
「勇者がダンジョンマスターで、魔物まで管理してるなんてことはごく一部の人しか知らないからね。因果応報、当然の報いよ。むしろ西区の一部しか被害が出なかったんだから全然足りないわ。プロンタルトは2000回は滅びるべきよ」
アリアは声を荒らげて不満を漏らす。
「そういや、それで貴族なんかが勇者を嫌うのはわかるけど、なんか一般市民にもわりと嫌われてる気がしたような…」
「それはプロンタルトが、デイライト・ナイトメアは勇者が引き起こしたって発表してるからよ」
「え、勇者が原因ってバレてるの?」
「いいえ、違うわ。それは国が街を守れなかった言い訳にヘイトを勇者に向けただけよ。本当に勇者が原因だってわかって言ってるわけじゃない。でもそれを信じる馬鹿もいるのよ。守ってくれなかった、助けてくれなかった、だから勇者は裏切り者なんだって。自分達の非力さは棚に上げて、勝手なことばっかり言って。あいつらも全員同罪よ」
つまり要約すると、この国の貴族たちは自分らの悪事がバレることを恐れて勇者を亡きものにして、そしたらそれがきっかけで国中が魔物に襲われて、それも勇者のせいだと擦り付けたってわけか。
クソだなおい!
「やはり、魔物の氾濫はマスターの本意ではなかったのですね……」
悲しげな表情で呟く墓守の管理人。表情はないけど。
墓守の管理人は俺のそばに祈るように跪く。
「マスター。どうか罪深き私めに罰を」




