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76 終戦

今話を含めた2話で2章が完結します。

今日中に2章最終話もアップしますのでお楽しみに!

頼むぜぴょん太。今、この街を救えるのはお前しかいない!


「ぴょん太カーニバル!」


即席で考えた技名を唱えて数秒後。足元が揺れて地響きが街を揺らす。

目の前の地面が盛り上がったかと思うと、真っ黒な小動物たちが、石油でも掘り当てたかのように吹き出した。


何百、何千と湧き出るシザーラビットはガルムの置き土産にも勝る勢いで街中に広がり、手当り次第に黒獣を次々と切り裂いていく。


黒獣と対峙していた冒険者や逃げ惑っていた町民は黒い波の第2波に驚き、絶望した顔を見せたが、それが第1波の黒獣のみを攻撃していることに徐々に気づいているようだ。


シザーラビットの群れはものの数分、本当にあっという間に街を蹂躙していた黒獣全てを消し去った。


街に溢れた黒獣を退治し終えたシザーラビット達は2組に別れて西門と南門に駆け出した。

どうやら外にいる黒獣も全て殲滅させる気らしい。


ちなみにオリジナルのぴょん太は定位置である俺の頭に乗っている。いや、元は生きてたのを殺してダンジョンに取り込んだ訳だからこいつもオリジナルではないか。


「上手くいったわね」

「あぁ、リリのアドバイスのおかげだ」

「ん」

「ちょっと!意見出したのは私でしょ!」

「そうだったか?」

「そうよ!なんでリリの手柄になってるのよ!」

「まぁまぁ、上手くいったんだからいいじゃないか、そう怒んなって」

「ふ…ふんっ」


頭を撫でてやると、ルルは控えめにそっぽを向いた。




黒獣の脅威が去った後、冒険者らはすぐに救助活動に動いた。

冒険者や動ける者が、瓦礫をどかして人を探し、けが人に手を貸している。



街は酷い有様だ。

黒獣が溢れた範囲で無事な建物はひとつも残っていない。あちこちに無残な姿で動かなくなった人の姿が転がっている。子供の頃に学校の授業で見た戦後の写真のような…いや、それ以上に惨い、リアルな戦場跡地が広がっている。


破壊されたのは街の一部に留まったようだが、それが不幸中の幸いだなんて言葉は口にできないほど酷い有様だ。



俺は救助に手を貸す訳でもなく、その光景をただ眺めていた。



しばらくするとぴょん太カーニバルが戻ってきた。戻ってきたシザーラビット達は俺の周囲に密集して奔放にくつろいでいる。数が多すぎて足の踏み場もない。


「悪いがみんな、一旦洞窟に戻ってくれ」


俺が一声かけるとシザーラビット達は元出て来た穴に次々飛び込んで帰っていった。



遅れて騎馬隊が駆けつけてきた。


白銀色の鎧を着た、正規の王国騎士団達だ。


騎士が戻ってきたのなら救助活動も捗るだろう。俺はそろそろお暇するか。


「囲めぇ!!」


10人ほどの騎馬隊は左右に展開し、俺を取り囲むよう陣を組んだ。


馬に八方を塞がれ、武器を持った者に見下される。圧がヤバい。


「動くな!妙な動きを見せれば即座に切り落とす」


隊長格と思われる騎士が1歩勇み出て俺に言う。


「グラファ、仮面をつけて。口を開いてはダメよ」


囲まれる間に結構顔を見られているけどなぁと思いつつ、黙ってルルの指示に従って仮面を装着する。


「土の勇者、グラファ=ワールドエンド。お前には捕縛命令がでている。生死は問わずだ。抵抗すれば命はないと思え」


隊長格の男は馬に乗ったまま剣先をこちらに向けて警告してくる。その顔は余裕に満ちており、自分の方が上の立場にいると思っているのが伺えた。


ボロボロな様子を見る限り、こいつらも今の今まで黒獣と戦ってたんだろうけど、それなのに周りの惨状が見えていないのだろうか。

無害な俺なんか取り囲んでる暇があったら1人でも多くの国民を助けようとは思わないのだろうか。


「魔王討伐では散々だったが、まさかこんな大物が転がり込んでくるとはな。ひとまず、聖剣様2人をこちらで預かろうか。聖剣は3人だったはずだが、1人どこかで隠れていたりしないだろうな」


あぁ、なるほど。

こいつは勇者を捕まえたっていう手柄が欲しいわけだ。


俺はルルに小声で伝言を伝える。


「動くなと言っているだろ!」

「街の状況が見えないのかしら。勇者に構うより先にやることがあるんじゃないの?」

「ふん、そんなものは俺がやるような事ではない。隊を失った失態を挽回せねば俺の明日がないんだ。ここで貴様を仕留めれば取り潰しどころか勲章ものだ」


それを聞いて、スっと体から、感情から熱が下がるのを感じた。


あぁそうか、こいつはクズだ。救いようがない。


目の前で喚いているやつと、人と人同士としてやり取りする事に興味が失せた。


あいつの足元にぽっかり穴を空けてやればそれだけで終わる。敵だというのならやってしまってもいいんじゃないだろうか。

私利私欲に塗れた騎士など誰にとっても迷惑なだけだろう。いなくなった方が世の中のためだ。


俺は目の前の騎士に手を向けた。


「誰に剣を向けているのですか。ヤザーニ第9団隊長」


その場が凍りつくのではと思わせるほど刺さる威圧を持った声に騎士達が振り向いた。


「アルクレインラット総師団長」


そこにいたのは離西区で別れたきり姿を見ていなかったクレイだ。見る限り怪我どころか汚れの1つも見当たらない。無事なようで何よりだ。


「剣を収めなさい」

「しかし…」

「何か意見があるのでしょうか」


決して顔を顰めている訳でもないのに、相手を真っ直ぐ射抜く視線は、そのまま本当に心臓を刺し貫くのではと思わせる程の威圧を放っていた。


クレイがこちらに歩いてくると、道を開けるように陣が割れる。


ヤザーニと呼ばれた隊長格の騎士は剣を握った手を震わせて動けないでいるようだ。


「き……狂犬が!来るなぁ!」


威圧に耐えかねたヤザーニがクレイに剣を向ける。


その瞬間、鍔の鳴く甲高い音が響いた。

一間置いて、ヤザーニの剣がバラバラになって地面に散った。


クレイがやったのだろうが、剣を抜いたのはまったく見えなかった。


何も出来ずただただ呆然とするヤザーニ。その横を脇目も振らずに通り過ぎ、クレイは俺の前で膝をついた。


「ススム様、魔王を撃退して頂き有難う存じます。貴方様のおかげで首都プロンタルトは救われました」

「お、おう…」


どう返していいかわからず微妙な返事を漏らしてしまった。


クレイは立ち上がると背を向け、剣を抜いて天高く掲げた。


「皆さん!魔王は勇者様の手によって討ち取られました!勇者様は我々を見捨ててなど、裏切ってなどいなかったのです!勇者様の加護に最大限の感謝を!そして我ら王国騎師団、勇者様に最上の敬意を」


クレイは剣先を空に向けたままその右拳を左胸に添え、足を揃える。


その姿を見たもの、その宣言を聞いたものはざわついた。


勇者が生きていて魔王を倒したこと。クレイが、騎士団が勇者に敬意を表したこと。聞こえてくるのはだいたいこの2つで、皆が皆大きく驚いていた。


しかし俺を取り囲む騎士団はそれとは違うベクトルでざわついていた。

騎士達は狼狽え、互いに顔を見合わせたりしているが、どう行動すべきか決めかねているようだ。


「やめるんだ総師団長!騎士団が勇者に敬礼を捧げるなど!勇者は人族の敵なんだぞ!」

「いいえ、勇者様は魔王を倒し、街を救ってくれました。本来ならば私たち騎士団がやらねばならぬ務め、私たちが果たせなかった責務を負ってくださったのです。それはこの場にいる皆が見ています。勇者様は英雄であれど、人族の敵などではありません」

「ぐぬぬ、お飾りのくせに…!全員、姫を捕らえろ!反逆者である勇者に加担など乱心もいいところ、プロンタルト王国に対する謀反である!」


ヤザーニは刃を失い柄だけになった剣を俺たちに向けて命令する。だが騎士達はやはり戸惑うばかりで誰も動こうとはしない。


クレイは剣を収めて再び俺に向かい膝をつく。


「ススム様、どうぞこのまま私と共に城へ来ていただけないでしょうか」

「城に?」

「ススム様は魔王を倒し、街を守った英雄。国を納める王族として何の褒賞もなしという訳には参りません。それに、此度の活躍は勇者様の冤罪を解く絶好の機会です。何卒、この場は私に任せてはいただけないでしょうか。ススム様の安全はこの命にかえても保証致します」


クレイは頭を垂れたまま微動打にしない。


城といえば、騎士団に命を狙われている勇者としても、純粋に魔王としても敵の総本山だ。

わざわざそんな所に自分から赴く必要があるだろうか。どう考えても無謀だ。


かといってクレイがここまで頭を下げているのを無下にするのも悪い。クレイには異世界に来てからお世話になりっぱなしだ。たまの願いだしなるべく聞いてやりたい。


クレイの強さは信頼してるから安全の保証にも不安はない。


ここは、クレイの頼みを受けるべきか。


なんて悩んでいると、馬車が走ってきているのが目に付いた。


騎士が乗るよりも立派な馬2頭に引かれた、黒い車体に金縁が施された見るからに頑丈かつ豪華な馬車が、その優雅さに似つかわしくないけたたましい勢いでこちらに向かってきている。


案の定、馬車は俺の前で止まり、乱暴にドアが開くやいなや、馬車に負けないくらい豪盛に着飾った老人が飛び出してきた。



「おー!勇者じゃ!真に勇者がおるではないか!帰ってきたのか!」


俺を見つけた老人は嬉しそうに声を掛けてきた。

3章に向けて加速!

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