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62 教会の結界

「行ってはダメよ。」


アイリーと一緒に孤児院に入ろうとした俺の服をルルが掴む。


「なんでだよ」

「あんた、あの女について行ったら最悪死ぬわよ」

「は?」


アイリーについていくと死ぬ?

突然の宣告にルルが何を言っているのか理解できなかった。


「いや、死ぬってなんだよ」

「あんた、自分が何者かわかってんの?」

「何者って…また勇者だなんだって話か?」

「違うわよ。あんた魔王なんだから、下手すりゃ結界に弾かれるわよ」

「げ、マジか」

「絶対ではないけれど、相性が悪ければあんたか結界どちらかが壊れるかもしれないわ。普通の魔物避けくらいなら干渉しないだろうけど、あの魔法陣はたぶん、聖属性を宿している。互いに何かしらの影響が出るとみて間違いないわ」

「そ、そうか」


話を聞いた俺はアイリーに向き直る。


「えーっと、アイリー済まない、俺はやっぱり外で見張ってるよ。視界の通る方が対処もしやすいし。孤児院にはアリ1匹通さないから安心してくれ」

「そうですか。ススム様が隣にいてくだされば安心でしたのに、残念です。では、よろしくお願い致しますね」


アイリーとヒルシ、シスター達は子供らの待つ孤児院へと入っていった。


と、ルルが俺の首根っこを掴んで走り出す。急に首が締まって声を上げることも出来ない。


皆が集まっている広場から少し離れたところで開放される。


「ちょ、何すんだよ」

「あれよ」


ルルが後ろを見返すので俺も振り返る。


孤児院と広場を囲うように地面が光ったかと思うと、半透明の白く揺らめくオーラのようなものが現れた。


「これが結界?」

「ええ、だけどかなり脆そうね」

「そうなのか?」

「あんなボロの孤児院に魔術師でもないシスター達、これだけ広い結界を作り出しただけでも大したもんよ。どこかに大きな魔力の供給源があるのかもしれないわね」

「へぇー」


感心しながら何の気なしに手を伸ばす。


「だから触っちゃだめだって!」

「おわっと!?」


またしてもルルに不意に引っ張られてバランスを崩した俺は、そのままルルに覆い被さるように倒れた。


「いててて。おい、大丈夫か?」


上体を起こして下敷きになったルルを確認する。ルルは顔を真っ赤にして目を回していた。どこか打ち付けたりしたんだろうか


「にゃ、にゃにゃっいきなりにゃにするのよぅ!!」

「いや、お前がいきなり引っ張るからだろ。怪我はないか?」


リンゴのように赤く染まったルルの頬を撫でる。


「ひゃわぁーー!!」

「ぶびばっ!」


ルルの手によって再び吹き飛ばされる俺。その先には俺達に追いついて結界から出てきたリリがいた。

バランスを崩している俺は為す術なくリリに覆い被さるように倒れる。


「悪い、大丈夫か?」

「ススム、やっぱり勇者と同じ匂い」


リリは俺の首に両の手を回して首筋に顔を埋める。


「ちょっと!何してんのよ!!」

「何って言われても」


体を起こしてもリリは俺の首にぶら下がっている。


「さっさと離れなさい!」


ルルの手によってリリは俺から引き剥がされる。

ったくしょうがないなぁ、ルルは我儘なんだから。


「喧嘩すんなよ。ほら、順番こだ」


ルルもぶら下がりたいんだと思って、首に手を回せるようにように屈んで前のめりになってあげる。


「なによ…………な、や、やらないわよバカ!子供じゃないんだから!ってリリ、あんたまたぶら下がろうとしてんじゃないわよ!」


まったく、ルルは素直じゃないなぁ。


「しょうがない子だなみたいな目で見てんじゃないわよ!」

「おっと、心の声が漏れてしまったようだ」

「本当に思ってんじゃないわよバカ!」


「ん」


リリがなにかに気づいたように声を漏らして遠くを見る。


「リリ、どうし―――」


俺が声をかけ終わるより早く、南方から西方にかけて巨大な爆発が起きた。

一瞬、地面が沈んだかのように大きく揺れ、外壁に沿うように火の粉と粉塵、黒煙が上がっている。


それを合図にしたかのようにこれまでで1番激しく警鐘が鳴らされる。


南方では信号弾が多数、そして西方では再び爆煙が上がった。


俺たちの元に見慣れた長身の男が現れた。


「お嬢らは派手にやっとるようですなぁ」

「ウォーリー」

「子供らは見つかったんで?」

「あぁ、無事に保護した」

「そうかい。他も踏ん張ってるみてぇですがすぐにでもここまで魔物が流れてきやすぜ。一応結界は張ってるみてぇですがこれじゃあ……」


ウォーリーの言葉通り、ちらほらとリユースコレクションの連中が孤児院近くまで下がって来ているのが見える。


「来るぞっ!」


誰かが叫ぶ。


こちらに向かって多数のワイルドファングの黒獣が飛びかかってくる。


身構える俺を庇うようにルルが前に立つ。


「いい加減思い出しなさいよ」


ルルが身を翻して剣を抜く。


「あんたの剣は―――私なんだからっっっ!」


ルルの振り抜いた剣はワイルドファングを2体まとめて斬り落とす。

相変わらず俺に戦わせる気がないようだ。まぁ、念の為に仕込みだけでもやっておくか。


その間にリリは飛んできたボールでも打つかのように軽い身のこなしでワイルドファングを次々と叩き落としていた。

それを見てルルは舌打ちする。


ほかの連中も飛びかかってきたワイルドファングを直接討ったり、結界に激突して怯んだ所にトドメをさしたりとこの場を凌いでいる。


結界はワイルドファングの体当たり程度なら問題なく防いでくれるようだ。


そうして黒獣の第1波は全員無事に凌ぎきった。


戦闘開始時より人数が増えている。波に押されて大方のメンバーが結界前まで引いてきたようだ。


魔物の襲撃が途切れて一息つく―――


が、こちらに向かって地響きが近づいてくる。


本当にため息1つをつく暇しか与えてくれないようだ。


音が近づくにつれてその正体が見えてくる。


それは障害となる建物をぶち抜きながら真っ直ぐにこちらに向かってくる。

俺たちとそれを遮る最後の家が粉砕され、5mはあろうかという1つ目の黒獣が姿を見せた。


「ありゃあオーガチャンプ?いや、キングモノアイか!?」

「嘘だろ…かないっこねぇよ!」

「うるせぇ!やるしかねぇだろぉがよぉ!」

「だってよぉ……これ、何体いんだよ……」


弱気な声を上げる男の視線の先にあるのは絶望とも呼べる黒い壁、先を見通す隙間も許さない程に詰め寄ったのキングモノアイの群れだった。

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