61 ススム、避難について話す
「数が多いな」
エリーとヨーゼを連れて孤児院を目指しているが、その間にも頻繁に黒獣が飛びかかってくる。
それを主にリリと俺が撃退しながら進んでいく。
俺が攻撃する度にルルが文句を言ってくるが、この中で1番射程が長いのがたぶん俺、敵まで一足飛びで詰められるのがリリって事で、ルルが手を出すタイミングはない。
俺としては子供2人のいちばん近くについていてくれてるのが非常にありがたいんだが、当人は不満なようだ。
黒獣は西側から流れてきている。
南門側でやり合ってるって話だったが、溢れて流れてきたにしては数が多い。
警鐘が鳴り、南門で信号弾がいくつか上がる。また戦況が変わったってことか?
後ろからアマゾネスの面々が追いついてくる。
「その子らが頭が探せっつってた子らかい?」
「あぁ」
「急ぎな、ちぃと不味いかもしれねぇ」
「何かあったのか?」
「オーガの黒獣が現れた。それも1体や2体じゃねぇ。今は頭と姫が相手してるけど数が数だ、こっちに流れてくるのは時間の問題だ」
「こっちに来るって、西門は落ちたのか?」
「西門?落ちてるわけねぇだろ。そうだな、最悪の場合、西門を超えるのもいいかもな」
「超える?」
「あたいらはもう少しここでワイルドファングとゴブリンを足止めしておくよ」
アマゾネスの4人は立ち止まって今来た方向へ向き直る。
エリーとヨーゼを連れた俺は止まるわけにも行かず、それ以上の話は聞けない。
それから俺たちは走り続けて孤児院まで戻ってきた。
その間もワイルドファングの黒獣に何度か襲われた。各所で足止めしてるといっても街中は細い道も多くて全ては見渡せないし、数が数だ。素早い魔物を全て捉えることは難しいだろう。
孤児院が無事であることがなによりだ。
孤児院前の広場にはスラムで暮らしている人達が集まっていた。ここが一時の避難所となっているらしい。
といってもみんな外にいるからこれが避難になっているかは不明だけど。
「2人とも、無事でよかったわ」
アイリーがエリーとヨーゼを抱きしめて安堵している。
「ススム様、ありがとうございます」
アイリーは俺の首に手を回して、そのまま俺の顔をその豊満な胸に沈めた。
「あぁ、ススム様がいなければどうなっていた事か」
頭をあげようともがく俺を押さえつけて感謝の言葉を続けるアイリー。甘い匂いに溺れそうになる。
「ぷはっ!はぁ…はぁ…天国が見えた……」
窒息寸前で幸せの大海原から脱出。
「きも、なにハァハァしてんのよ」
エリーが冷めた目で俺を睨む。
そういうハァハァじゃねぇよ、マジで溺れるかと思った。
「ごめんなさい、疲れてるみたいだったからつい」
悪びれもなく笑顔で謝るアイリー。まぁ、俺としても良いモノをご堪能させて頂きましたので何を言うでもないけど。
「どこか避難できる建物とかないのか?」
「難しいですね。離西区の方々を受け入れてくれる場所はあまりありませんから。西門を抜けられるかもどうか…」
「りさいく?」
「あんた地区の名前も知らないの?と言っても、通称であって実際名前なんてないんだけどね。離西区ってのはここいら一帯、旧西区のスラム街の呼び名よ」
「旧西区?西区とは違うのか?」
「そうよ、ここは国から捨てられた場所なの。だから居場所のない人達が集まるし、誰も助けてなんてくれないの」
「エリー、そんなことはありませんよ」
悲観したくなるような実情を当然のことのように淡々と話すエリーの肩にアイリーが手をかける。
「確かに、ここ離西区は国に捨てられた場所です。あなた達が不幸ではないとは言いません。しかし、ただただ地の底で生きている訳ではありません。笑って過ごせる時間も多くあります。手を差し伸べてくださる方々も多くいらっしゃいます。私たちは決して、世界の全てから捨てられた訳ではありません。アリア様は全ての人々を平等に愛してくださっています」
アイリーは両手を握り合わせ、祈るような所作でエリーを諭す。
「綺麗事言ったって現実は変わらないのよ…」
エリーはそう吐き捨てて顔を背けた。
孤児院から数人の子供が飛び出してきてエリーにしがみつく。
「お姉ちゃん、ジョーは?」
「ごめんね、ジョーは連れてこられなかったの。でも安全な場所にいるから大丈夫よ。さ、外は危ないから中へ戻りましょ」
エリーは優しく返事を返して、子供らと一緒に孤児院に入った。
「アイリーさん。ここもすぐに危険になる、もっと街の中心部に避難した方がいい。言っちゃ悪いけど、孤児院の建物じゃ持たないだろう」
「そうは言いましても…」
「アイリー姉ちゃん!」
孤児院の炊事リーダー、ヒルシが広場に駆けてきた。
「ヒルシ、どうでしたか?」
「やっぱりダメ、街には入れてもらえない。あれ、ススムお兄ちゃん、なんで勇者の格好?」
「誰が見ても『正義の味方』だって一目でわかるだろ」
嘘だ。着替えるのが面倒だったから着の身着のままでいたらなんやかんや今まで着替える暇がなかっただけだ。
「ふーん、そう」
ヒルシはちょっと冷たい顔で素っ気なく返事を返してきた。
ヒルシにはいつも笑顔で明るいイメージを持っていたためちょっと驚いたが、人間誰しも四六時中笑顔ってわけじゃない。ましてやこんな非常時だ。ヒルシだって恐かったり不安だったりするんだろう。
あまり他をあてにできなそうなこと言ってたし、孤児院は俺がしっかり守ってやんないとな。
「魔石の設置が終わりました」
孤児院の他のシスターがアイリーに報告を入れる。
「ありがとうございます。では後は子供たちに付いて、無事を祈りましょう」
「魔石?」
「はい、もし魔物がここまできた場合、広場一帯に結界を張ります」
「へぇー、そんなことできるんだ」
「強力な訳ではありませんが、下級の魔物程度なら侵入を防ぐことができます」
いいね、魔法要素。
この世界に来てから未だにあまり魔法に触れられてない。こんな時に楽しみだなんて言うのも不謹慎だけど、やっぱり魔法っていう響きには胸踊るものがある。
「宜しければススム様も一緒に孤児院で過ごされませんか?」
「俺?うーん…どうしようかなぁ」
「私たちは大人が女性しかいないので、戦える男性の方がついていてくれた方が子供たちも安心します。そうでなくても、子供らはススム様を慕っておりますから」
「そういうことならそうだな、それじゃあお言葉に甘えて―――」
「行ってはダメよ。」
ルルがアイリーと一緒に行こうとした俺の服を掴む。
。
「どうかしたか?」
「行ってはダメよ」
「なんでだよ」
周りに聞かれたくないのか、ルルは小声だ。しょうがないからしゃがんでルルに顔を近づける。
「どうしたんだよ」
「あんた、あの女について行ったら最悪死ぬわよ」
「は?」
アイリーについていくと死ぬ?
突然の宣告にルルが何を言っているのか理解できなかった。




