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57 勇者、リユースコレクションに現れる

リユースコレクションには既に多くのメンバーが集まっていた。


俺達が入ると店中がざわついた。

それもそうだろう。なんせ妃殿下にして騎士団総師団長のクレイが一緒にいるのだから。


始めて一緒に来た時はクレイの身分を知らなかったからな。こんなお偉いさんがこんな子汚い場末の飲食店にひょっこり現れればそりゃビビる。

クレイがなぜこんな場所に出入りしているかは未だに謎だ。聞いたことないだけで聞けば教えてくれるのかもしれないけど。


「姫、あんたこんなところにいていいのかって…………あんた、もしかして勇者か?」


あぁしまった、流れで勇者の格好のままここまで来てしまったが着替えてくればよかった。

てかアーヴァインも俺だって気づけよ。確かに勇者の服は着てるけど首から上はベネチアマスク付けてるだけだぞ。口も鼻も髪も出ている。

よく聞くと周りの奴らもクレイじゃなくて俺の事で声を漏らしている。


「いや、俺だよ」


と、マスクを外してみせると店内の時が止まった。


それから―――


「だっはっはっは!!新入り、おめぇなんて格好してんだ!」

「おまえ、命が惜しくねぇのかよ!」

「こいつぁたまげた!こりゃ大物だ。アッハッハッハッ!!!」


店中から笑いが起きた。俺を指さしながら、テーブルを叩きながら、涙を浮かべながら、皆がこれ以上ないくらい抱腹している。


ルルは俺の横で額に手を当てて項垂れている。


そんな中、クレイが瞬く速さで腕を振り上げた。その手には剣が握られている。


数瞬の間を置いて目の前のテーブルが真っ二つに分かれて倒れた。


全員が沈黙して、テーブルの転がる音だけが響く。そのテーブルを使っていた2人も硬直し、テーブルに寄り掛けていた肘が拠り所を失った今も同じ高さで固まっている。


「何がそんなに可笑しいのか、教えて頂いてもよろしいでしょうか」


目の前の、斬られたテーブル席に座っていた男らに最高の笑顔で問いかける。


「いや……その…」


男らはたじろいで言葉が出ない。


「それくらいにしてやってくれ。この街でそんな格好してるのを見れば誰だって驚くさ」


2人のフォローに入ったアーヴァインをクレイは少し睨みつけるが、すぐに剣をしまってカウンター席に座った。


「ススム様」


クレイに呼ばれる。

え、俺もそこに座るの?


カウンターは店の入口の対角、奥側にある。

アーヴァインはカウンターの前に出てきているので、皆がアーヴァインに注目すると、必然的に全員がカウンター側を見ることになる。そのすぐ後ろのカウンター席も全員と目が合う最高のボジションだ。格好のせいか、日頃の行いのせいか、それとも新人だったりクレイと一緒にいるせいか、皆がチラチラとこちらに目を配る。


ウォーリーとフットマンは入口前に立ち、リリとルルは俺がいつも使っている手前側奥の席に落ち着いている。うぅ、俺もちびっ子達と同じ隅の席に移動したい。


「これからどうするんだ?」

「ひとまず待機だ。騎士団が外壁の外で魔物に対処するが、もし街の中に侵入されることがあれば俺達もそれらの討伐にあたる」

「とりあえずやることはないんだな」

「まぁそうだな」

「んじゃさ、飯貰っていいかな。何も食ってなくてさ」

「おまえは相変わらず緊張感がないな…。とは言ってもこんな早朝だ。準備するから待ってろ」


アーヴァインは全員分の食事を用意し、ひとまずは朝食の時間となった。




「で、なんだ…聞かない訳にはいかないんだが、あんちゃんはなんでまたそんな格好してるんだ?」


改めてアーヴァインが俺の服に疑問を唱える。


「ちょっと成り行きで」

「成り行きでって…あんちゃんが非常識なのは知ってるが、そんな服着てたら王国師団が黙っちゃいないぞ」

「うん、もうさっき1度やり合ったよ」

「あんちゃん……」


アーヴァインが呆れた顔でため息をつく。


「なんでもいいから着替えてくれねぇか。俺達まで巻き込まれるのは御免だ」


そうは言われても持ち合わせはないから、着替えるとなると1度家に戻らなければならない。

確かに、俺もどちらかといえば着替えたい。

なんて考えてるとチャキリと刃を返す音が聞こえた。

見ればアーヴァインの首にクレイの剣が向けられている。


「あなた、いつからススム様に命令できる程偉くなったのかしら」

「俺はここのリーダーでススムは新入りだ。それに俺には皆を守る義務がある」

「それは貴方が5年前に果たせなかった義務ですわ。いえ、あの時は奪う側だったと言った方がよろしいかしら」

「姫……あんた…」

「知らなかったで済まされる話ではありませんわ。貴方には勇者様を守る義務があるのではなくて?」

「………分かったよ、俺から言うことは何もない、好きにしろ」


いつもは何を言われても平々と返すアーヴァインが今回ばかりは顔を歪めていた。

本当に、5年前の勇者の件はいろんな人に根深く残っているものみたいだな。何かは知らないけど。


「でもこれ着てると騎士団に絡まれるんだよな。やっぱり着替えた方がいいかなぁ」

「私としてはそのままのお姿でいて欲しいところですが、着替えるのであれば代わりの服をすぐにご用意いたしますわ」


そう言ってクレイが舌舐めずりするのが見えた。たしかに今日はちょっと湿度が低くて唇も乾燥気味だ。


「仮面を付けていれば問題ないわ」


迷う俺にルルが助言を投げる。


「勇者のマスクには認識阻害の魔法が付与してあるから、付けていれば外見で正体がバレることはないわ」


このマスク、目元しか隠れないお飾りだと思ってたけどそんな効果があったのか。だから喋らないように言ったり、アーヴァインが俺の事分からなかったりしたのか。

こんな気休め程度の仮面じゃセーラー服の美少女並に隠しきれてないと思ったけど、なるほど理解した。


「じゃあ外に出る時は仮面をつければ大丈夫か」

「いや、騎士団に狙われるのに変わりはないだろう」


ごもっとも。

どうせ認識阻害をつけるんなら存在そのものをあやふやにするような強力なやつにしてくれればよかったのに。


とりあえずなにかしらの動きがあるまで待機ということなので、俺はのんびりと朝食をつついて過ごした。

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