58 ススム、出動する
リユースコレクションに集まって2時間くらいたっただろうか。
たまに爆発音が聞こえたり地鳴りを感じたりするが、王国騎士団は黒獣の襲撃を抑えられているようだ。
うーん…暇だ。
今朝はピエールに野菜を卸しに行った為早かったし、そこからバタバタしてたからな、こうやることがないと眠くなってくる。
ちょっとウトウト仕掛けたところにルルが話しかけてくる。
「そういえばあんた、昨日はなんで帰ったのよ」
「昨日?あぁ。いや、ちゃんと『帰る』って伝えたろ」
「伝えたって…あんたねぇ、あの場で帰るっていったら『村に戻る』って意味だと思うでしょ普通。村に戻ったらあんたがいないから長老ビックリしてたわよ。あんたに失礼があったんじゃないかって大騒ぎだったんだから」
「あぁ、なるほど」
まぁたしかに失礼があったから帰ったってのは合ってるけど。
言われてみればたしかにあの場で帰るっていえば、先に村に戻ってますと解釈するのが普通かもしれないな。
色々と嫌気がさして何も考えてなかった。
「それに、なんでそっちの女を連れてって私を置いてったのよ……」
「なんか言ったか?」
「なんでもないわよ!」
ルルがボソリと呟いた言葉は聞こえていたけど、面倒なので計画的難聴を発動させた。
「それにしても、随分と時間がかかっているな」
アーヴァインが呟く。
「街に向かってくる2000の魔物ってだけならとっくに片付いていてもおかしくねぇ時間でさぁな」
「苦戦だな」
「ウォーリー」
「あいよ、ちょいと見に行ってきやすぜ」
クレイに名前を呼ばれたウォーリーはその意図を汲み取って店を出ていった。
「おそらく相手は昨日現れたっていう魔王だ。一筋縄では行かないのかもな」
「おそらくって、魔物は黒獣なんだからそれしかないだろ」
「他の魔王が攻めてきたという可能性もある」
言われてみれば確かに。
魔王が複数いるという考えは当然のように浸透しているんだな。
魔王を倒したー!やったー!これで平和だー!となれば、俺が魔王だと疑われる機会が減ると思ったんだけど。
それがなくてもここ数日は勇者疑惑キャンペーン絶賛開催中なんだけど。
15分ほどでウォーリーが偵察から戻ってきた。アーヴァインが状況を尋ねる。
「どうだった?」
「なんとも言えねぇ感じですなぁ」
「そんなに手こずってるのか?」
「手こずってるって訳じゃあねぇんですけど、魔物の数が減らなくてキリがねぇそうで」
「魔物の数は2000程度だって話だったが」
「それが、倒したら倒しただけ森から沸いて出てくるってんで、俺も確認しやしたが確かに倒した分だけ森から現れやがるんです。それで押し切れもせず押し切られもせず、今は森に向けて徐々にラインを上げていってるところでさぁ」
「そうか。……なんだか気持ち悪いな」
話を聞く限り、戦場は膠着状態、陣を徐々に上げているという話だからやや騎士団優勢だろうか。
だと言うのに、アーヴァインは少し渋い顔をみせる。
今現在、プロンタルトを襲っている魔王は褐色隻眼の獣人…って言うとなんだかえらくかっこいいな。南国衣装の獣人の青年、ガルム。ビーストテイマーだと名乗っていた。
名前から想像すると、モンスターをゲットしてそれを戦わせるんだろうかと思ってしまう。
俺を助けてくれた時や冒険者と戦ってた時は自身の影から色んな魔物を呼び出していたな。
にしても、ガルムはタイミングが悪かったな。
話によると、昨日ちょうど遠征に出ていた騎士たちが戻ってきている為、プロンタルトには数万の騎士がいるそうだ。
言うなれば、最も守りの堅いタイミングだ。
本当なら凱旋パレードや祝勝会が行われるはずだったが、魔王のせいでそうもいかなくなってしまって、多くの兵が魔王に怒りを覚えているらしい。
その怒りは魔王と一括りにせずどうぞちゃんとガルムにぶつけて欲しい。とばっちりは御免だ。
このまま俺たちの出番なく終わってくれればいいけど
―――なんて思った矢先だ。
けたたましく警鐘が鳴る。
全員が一斉に立ち上がり外に出る。
笛鳴りがする方を見上げると、空にカラフルな煙が上がっていた。
「あれは?」
「騎士団の信号弾ですわ」
「野郎ども!仕事だ!」
アーヴァインの激でメンバーが一斉に街へ向かう。
「俺はちぃと様子を見てきやす」
ウォーリーは1人離脱して南門へ向かった。
「どうすりゃいいんだ」
「説明しただろ。俺たちの仕事は西側の守備だ。お前も早く―――」
と指示を言いかけて、アーヴァインはクレイの方を一瞥する。
「おまえは好きにしろ」
クレイに、俺に命令するなって言われたばかりだもんな。
なんか俺だけ悪い意味で特別扱いというか、冷たく見放されたみたいでちょっと困る。
「俺も西に向かうよ」
「では参りましょうか」
俺は皆の後を追い、クレイ、フットマン、ルル、リリも続く。
アーヴァインは俺たちを置いて先に行ってしまった。
「さっきの信号はなんだったんだ?」
「あれは緊急で増援が欲しい時の合図ですわ」
「それで俺達が増援に向かうって事か」
「いえ、増援には騎士団が向かいます。信号は冒険者に向けたものではありませんわ」
「そうなのか。じゃあなんでアーヴァイン達は守備に向かったんだ?」
「念の為ではないでしょうか。増援を呼ぶということは何かしら不測の事態が起きたということですから。最悪、街の中まで侵攻されることを懸念したのだと思います。西は守りが薄いですから」
「ふーん」
そんな話をしながら向かう途中、孤児院の前を通る。孤児院もギリギリ街の西側に位置しているから俺達が守る範囲に入っている。
孤児院の玄関先に慌てた様子のアイリーとアーヴァインがいた。
「どうしたんだ?」
「これはススム様、それにアルクレインラット様。ヨーゼとエリーが、孤児院の子が2人見当たらないのです」
「他の場所に避難してるんじゃないのか?」
「めぼしい所は回ってきたのですが何処にも見当たらず、こちらにもまだ戻ってきてないようで」
「わかった、見つけたらこちらで保護しよう。これ以上歩き回るのは危険だ。孤児院から出ないように」
「ですが―――」
保護するというアーヴァインだが、アイリーは食い下がる。このままだとまた1人で探しに行ってしまいそうだ。
「ヨーゼとエリーなら俺が顔を知ってる。絶対連れ戻してくるから、アイリーは他の子供らについてやっててくれ。アイリーがいないと子供たちが不安に思うだろ」
「ススム様」
「言ったろ、アイリーと子供らは俺が守るって。任せとけって」
「ススム様……。そうでしたね、それではヨーゼとエリーはススム様にお任せしたいと思います。何卒よろしくお願いします」
「おう!」
アイリーの不安を拭いきれない笑顔に、俺は力強く返事を返した。
アイリーが孤児院に入るのを見送る。ひとまず、これでアイリーが出歩くことはないだろう。
にしても、あの問題児2人はなにしてんだか。最近保護されて孤児院に入ったメンバーの中では最年長の2人、年少組の世話をする側の2人だ。
それが揃いも揃って、世話の焼ける。
そこへウォーリーが戻ってきた。
「ただいま戻りやした」
「戦況は?」
「それがちぃと芳しくない。第9団隊、第6師団が壊滅しやした」
優勢かと思われた騎士団だったが、どうやら盤面が変わり始めたようだ。




