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55 ススム、騎士団団長と総師団長に囲まれる

「勇者を倒したくば、まずは私を倒す事ね」


騎士に囲まれた俺の前に現れたルルはそう言い放った。

やばい、かっこいい、人生で1度は行ってみたいセリフランキング上位だ。


「あの方は」

「聖剣様?」

「本物か?」


ルルを見た騎士たちはざわついている。


騎士たちが動揺している間に俺はルルの隣へ瞬間移動して騎士達の包囲を抜ける。

支配領域においた地面の上ならダンジョンとほぼ同じ能力が使えるため、転移くらいはできる。


「まさか、本物の勇者なのか?」


よく分からないがルルは勇者の味方。そのルルが勇者の格好をした俺をかばえば信憑性が出てくるというものだ。


「さぁ、どうするの!」


剣の柄に手をかけたルルと騎士団が睨み合う。


事態は一触即発。


そこへ―――


「ごきげんよう」


優雅な足音を響かせながらクレイが現れた。ウォーリーとフットマンも一緒だ。


「総師団長!」


騎士達が安堵の声を漏らす。しかし、


クレイは騎士たちの間を抜けて、俺の隣へ。


「一体なんの騒ぎですか?」

「よく分からんが、いきなりこいつらが斬りかかってきたんだ」

「まぁそれは大変」

「姫さん、あんたの立ち位置はこっちでしょうよ」

「私はいつでもススム様の味方ですわ」


ウォーリーが騎士側からボヤくも、クレイには響かない。


「全員、剣を収めなさい!」

「姫さん、何言ってんですかい」


俺側についたクレイの命令に皆が困惑する。


周囲には騒ぎを聞き付けた人も集まってきている。


「あんた、仮面は持ってないの?」

「ん?一応あるけど」

「だったら付けておきなさい、目立つの嫌いなんでしょ」

「おぉ…わかった」


元々付けるつもりのない仮面だったが、服にちょうど良いポケットがあったので入れっぱなしにしていた。

俺はそれを取り出して装着する。


「んで、どうすんだ?なんなら下に逃げるけど」


別に無理をして戦う必要は無い。足元が地面である限り、俺はどこからでも逃げられる。


「お待ちください。せっかくですので皆に喧伝致しましょう」

「喧伝?」

「そうです。魔王の襲来があった今こそ絶好のタイミング。5年前の汚名をここから払拭するのです」


またそれか。

『勇者』『5年前』、その2つのワードがずっと付きまとう。

一体なんだってんだ。

何度も言うが勇者の事なんて俺は知ったこっちゃないってのに。

そんな俺の気持ちなどお構い無しにクレイは周囲に向けて声を上げる。


「皆さん!今、プロンタルトが魔王による脅威に晒されている事は既にご存知かと思います。その危機に立ち向かうべく、勇者様がプロンタルトに舞い戻ってこられました。5年前の悲劇を全て勇者様に押し付けた王国の決定に疑問を抱き続けている者も多くいることでしょう。もし、5年前の悲劇が勇者の手によって起こされたものだとするならば、国の危機を救うべく再び姿を現したりするでしょうか。否!勇者様は断じて我々を見捨ててなどいなかったのです!勇者の栄光は今ここに舞い戻りました!その偉大なる力で、必ずや魔王の牙を退ける事でしょう」


クレイの宣誓にギャラリーがどよめく。


初めは困惑の声、しかしそれは徐々に歓迎と歓喜の声が増え、やがて勇者を讃える歓声へと変わった。


こうなると悪役となるのは俺に剣を向けている騎士団。民衆の反対に囲まれては騎士団も俺に手出しできる雰囲気ではない。


「あーあー、姫さんまーたやりやがりましたなぁ」

「毎度だな」

「とはいってもこりゃ~…」


と、ウォーリーとフットマンが頭を抱えていると、その奥から一際…いや、二際も三際も大きな図体の男が現れた。はち切れんばかりにパンパンな服からは丸太のようにぶっとい手足が生えている。その迫力は立っているだけで場の空気を飲み込み、勇者コールも尻すぼみに消えていった。


「おめぇさんが勇者だってのかい?」

「そ、総大将!」

「ウォーリーにフットマンか。それに……」


男はマーレイを一瞥して、俺を見やる。


「おめぇさんがやったのかい?」

「答えなくていいわ、口を開かないで」


ルルは小声で俺に指示する。

俺はそれに従って黙って男を見上げた。


「総大将、なんでこんなところに?」

「総大将?俺が総大将だってのかい?」

「いえ、失礼しやした。モーゼ団長」

「そうか、知らない間に昇進したのかと思って驚いたぞ。がっはっは」


体格のイメージ通り。力強くも少しゆったりとして、それでいて人の良さそうな喋り口調の大男は、何がおかしいのか大笑いするが、周りはそれについていけずに騎士団の面々でさえ若干引いている様子だ。


「おめぇさんが勇者だってんなら、このまま見逃すってわけにもいかねぇもんでな。おい、剣貸せ」


モーゼは近くの兵士に剣をよこせと手を伸ばす。


「しかしモーゼ殿、防具もなしに勇者と対峙するのはいささか…」

「おめぇさんは俺があいつに負けるってのかい?」

「いえ、そのようなことは」

「じゃあ勝つってのかい?」

「それは…騎士団が重罪人に負ける事などありはしません!」

「そりゃあやってみんことにはわかりゃせんだろう」

「は、はぁ…」

「うーむ…軽いなぁ」


モーゼが騎士から受けとった剣を素振りする。刃が1m程はある標準サイズのものだが、モーゼが持つと玩具のように見える。


クレイが1歩、俺の前に出る。


「モーゼ、剣を返しなさい」

「剣を返せってのかい?」

「そうよ」

「そりゃできねぇよ。おらぁこの国の騎士だ。この国に仕えてる以上、王には逆らえねぇ」

「王国騎士団総師団長、アルクレインラットが命じます。剣を収めなさい」

「団長として命じるってのかい?」

「そうよ」

「だとしても聞けねぇなぁ。勇者の処分は王が決めたことだ。団長さんの命令だとしてもそりゃあ覆せねぇよ」

「そうですか、ならば致し方ありません」


ゆっくりとクレイが剣を抜く。


「リリ、ススム様をお守りするように」

「ん」


いつの間にかリリがそばにいた。


「あら、久しぶりね…ってあんた、随分変わった色になったわね」

「リリ、勇者に会う。そのためならなんだってする」

「それがあんたの選択なのね」

「そう」

「まぁいいわ、あんたは燃費も悪いしね」

「リリ、元気」

「それじゃあ気合い入れてこいつを守るわよ」

「ん」


リリとルルのちびっ子2人が俺を守ろうと息巻いている。

大の男が幼女の影に隠れてるのはなんとも絵面が悪いのではなかろうか。


「おめぇさん、子供を盾にして恥ずかしくねぇのかい」


言うなよ!今自分でも思ってたところだよ!


「魔王が現れたって時に身内同士でぶつかるのも気が進まなんだが、そんじゃ久々にやるかいなっ!」


言葉尻と同時にモーゼとクレイが衝突する。

その衝撃は空気を震わせ、ビリビリと肌を刺激した。

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