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53 ススム、タイショーと再び決闘する

長老に連れてこられた場所は森の中でも開けた場所。

そこには1m程の石碑が建っていた。


その横にはタイショーが座っている。


「タイショー、こんなとこにおったのか。早く戻らぬと馳走がなくなってしまうぞ」


長老は背伸びして石碑に酒をかける。


「ここには5年前の氾濫で亡くなった者達が眠っておる。何卒、勇者殿にも皆を慰めて頂きたいのじゃ」


慰めろと言われても、何の話をしているのか要領を得ない。お偉い勇者様が慰問すればみんな喜ぶ的な事なのか?


ふと立ち上がったタイショーは長老から酒瓶を奪い、ラッパ飲みしてから残りを石碑に浴びせた。


「皆、最後までお前を信じてたんでぃ」


石碑を見つめたまま言葉を吐くタイショー。それは多分、俺に向けられた言葉だ。


「『何かの間違いだ』『勇者様はきっと助けに来てくれる』、皆が皆、最後まで勇者を信じてたんでぃ」


タイショーがキッと俺を睨む。


「あの日、どうしてお前は俺たちを襲ったんでぃ」


静寂。


俺が口を開くまでこの場は動かない。全員が俺の行動を待っている。


勇者としての俺の回答を。


「お前ら、いい加減にしろよ」


うんざりだ。


もううんざりだ。


どいつもこいつも勝手に俺のこと勇者だとか決めつけやがって。

勝手に崇めて、勝手に恨んで、好き勝手言いやがって。

救った?襲った?知るか!


「俺は!勇者じゃ!ねえんだよ!!!」

「そんな言葉で言い逃れ出来ると思ってんでぃ!?」

「知るか!俺は何も知らん!勇者のことも、この村のことも、その5年前の何かも」

「しらばっくてんじゃあねぇ!おめぇが何もかも奪っていったんでぇ!俺の、大事な……何もかもを………」


タイショーは涙ぐんで震えている。


「構えろ、決闘でぃ。俺が勝ったら5年前のこと、洗いざらい話してもらおうじゃねぇか」

「お前1度負けてんじゃねえか」

「今度は本気でぃ」


タイショーはそばに置いていた槍を構える。


なんでこいつはすぐ決闘したがるんだ。決闘しないと死んじゃう病にでもかかってんのか?

勝っても俺に得はない。負けても知らない事は話しようがない。本当に無意味な争いだ。


本当にめんどくせえ。ここに来てからずっとこれだ。


「私がやるわ」


どこからともなく現れたルルが俺とタイショーの間に割って入ってきた。


「ルル様、そこをどいてくだせぇ。男と男のサシの勝負なんでぃ」

「私は勇者の剣。勇者の戦いは私が受けるわ」

「ルル様は村の恩人。そんな人に槍は向けらんねぇ」

「私への恩は勇者への恩よ。あの日、村を守ったのは勇者の剣よ」

「だったらどうしてこいつらも守ってくれなかったんでぃ!」


タイショーは嘆きながら石碑を指した。

その訴えに、ルルは眉ひとつ動かさない。


「あなたが守ればよかったじゃない。その人達を守れなかったのは私じゃない、あなたよ」

「俺だって村のために戦った!」

「そう、だったらいいじゃない」

「言い訳あるか!俺たちだけじゃ守りきれるはずなかったんでぃ。あんたらがもっと早く来ていればみんな助かったんでぃ!」

「…………はぁ、話にならないわ。勇者はあんたら専属の便利屋じゃないの。自分たちの弱さを押し付けないで」

「俺は弱くなんかねぇ!」

「あの時もそう言って、自立を選んで、それがこの結果よ。自分の行動ひとつ受け入れられなくて、何が俺は弱くねぇよ。身勝手な事言わないで」

「うるせぇ!こんな現実、受け入れられるか!勝手に助けて、勝手に裏切って、身勝手なのはどっちなんでぃ!俺たちはあのまま静かに暮らせていればそれで良かったんでぃ」

「静かに暮らすのだって簡単じゃないの。それを守れなかったのはあなたたちが弱かったから。ただそれだけよ。それで、どうするの?やるの?やらないの?」

「ルル様がそんなお人だとは思わなかったんでぃ。やるさ、あぁやってやるさ!」

「やると決めたらさっさときなさい。現実はいつも待ってはくれないのよ」

「いくぞ!うらあああああ!!!―――ぶべしっ!」


タイショーが気合を入れて、飛びかかって、ルルに殴られて呆気なく顔を土に沈めた。動く気配はない。


ぴょん太が興味深そうに近寄って匂いを嗅ぐ。後ろ足で土をかけるのはやめて差し上げろ。


「ふん」


ルルはつまらなそうな顔でこちらに戻ってきた。


「ありがとな」

「何がよ」

「あー、なんだろな。代わりに戦ってくれて?」

「代わりじゃないわよ!あなたの戦いは私の仕事なんだから。それに、あいつちょっとムカついたし」

「そうか、ありがとな」


そういってルルの頭を撫でた。ちょうどいい高さにあるからつい手が伸びてしまう。


「にゃ、にゃによぅ!ご機嫌取ろうったって、そうは……いかないん…だから」


ご機嫌?

あぁそういやこいつなんかいじけてたな。忘れてた。まぁいいや。


「すまぬ、勇者殿」


長老が俺たちに頭を下げる。


「こやつは5年前の氾濫で家族を亡くしたものでな。ずっと気持ちのやり場がなかったんじゃろう。村ではリーダー格故に、尚の事弱みを隠しておったのかもしれん。もっと早くに儂が気づいてやるべきじゃた」


そう言う長老も、どこか物思いに耽けているようだった。

過去の悲しみを覚えているかのように、少し冷たい夜風が頬を撫でる。木々のざわめきはこの場に眠るものたちが勇者に何かを訴えているようだ。


「帰る」


長老に端的に一言だけ伝える。


「そうですな、戻りましょう。おかしなことになってすまなんだ。わぞわざ御足労いただき本当に感謝しておる」

「ああ」


長老に短く返事を返して、クレイに手を差し出す。

クレイは顔を輝かせてその手を握る。


「ぴょん太」


タイショーをかじっていたぴょん太が俺の声に気づいて頭に飛び乗る。


視界が一瞬飛んで、次の瞬間には俺とクレイとぴょん太はボロボロな建物の中にいた。


「ここは」

「俺んちの裏の廃教会だ」


俺の寝床の裏手にあるボロボロの協会まで瞬間移動してきた。

ダンジョンマスターの能力の1つで、ダンジョン内ならどこへでも一瞬で移動できる。


ちなみに言うと、モグネコ族の村の出入口はこの廃教会に隠されていた。

楽ではないけど、隠蔽系のギミックが主な迷路形式のダンジョンで、理解していれば比較的安全に進むことが出来そうな道になっているようだ。


「はああああ疲れた~~~~!」


外の空気を取り込んで思いっきり伸びをする。


「色々ありましたものね」

「まぁな。そのきっかけはクレイだけどな」

「あら、そうでしたかしら」

「まぁいいさ。良ければ送ってくけど」

「いえ、お疲れでしょうし結構です。明日もお早いのでしょう」

「え、なんで?………あぁそうだ」


明日は野菜の卸しの日だ。また忘れてた。


「明日に備えてすぐ寝ないとな。それじゃあクレイも気をつけて」

「はい、ありがとうございます。ススム様も風邪など召しませぬよう」

「おう」


クレイと別れていつものあなぐらに飛び込む。


今日も疲れた。ストレスも半端ない。明日は早起きだ。


ベッドに横になる。モグネコ族の勇者の家にあったベッドと比べるまでもなく寝心地は悪い。


「あ…」


勇者の服を着たまま来てしまった。そして元の服はモグネコ村だ。


まぁいいか、とりあえずおやすみなさい。


俺はそのまま眠りに落ちた。

というわけで地上に帰ってきました

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