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52 ススム、勇者の服に着替える

誰も入れないよう隔離されていた部屋。中は何の変哲もない8畳程の個室だ。


目につくのはクローゼットにかけられた服。同じデザインの全身装備一式が何着もかけられている。


うち1着を手に取ってみる。


「それは、勇者様がお召になっておられた服ですね」

「クレイは勇者を知ってるのか?」

「何度か拝見したことはございます」

「それは俺だったのか?」

「いえ、遠くからお見かけしただけで、勇者様はいつも仮面をつけられておりましたので。ですが―――」


クレイは傍にあった籠の中身を拾う。それは俺が持っているものと同じ、勇者の服だ。

クレイはそれに顔を埋めた。


「すぅぅ………………………はぁぁぁぁぁぁ、あはっ。ススム様と同じ匂いがします」

「………………ぁ、そうですか」


突然のクレイの奇行はとりあえずスルーで。


引き出しを開けると、仮面舞踏会で使われてそうな目元だけを隠す仮面、ファムトムマスクとかベネチアマスクって言えばいいんだろうか、それが並んでいた。


「そう、これですわ。勇者様は常に銀翼の仮面をつけていらして、その素顔を知るものはいないと言われておりました」

「ふーん」


こんなもんつけて出歩くとか怪しさ全開で恥ずかしいと思うけど、この世界では大丈夫なんだろうか。


何の気なしにそれを自分の顔にはめてみる。

うむ、なんてことはない、ただの仮面だ。

ただ、着け心地は凄くしっくりくる。サイズはぴったりのようだ。


「ススム様!ススム様!是非とも、こちらも!」


クレイが興奮気味に勇者の服を勧めてくる。


「いや、人の服だし、勝手には…」

「何をおっしゃいます!これは勇者の服です。この服を着るのはススム様以外におりません!」

「いやだから、俺は勇者じゃ」

「だとしても!すぅぅぅ…………はあああああっ。これはススム様の服です!」


クレイは再び服に顔を埋めて深呼吸してから言い切った。


「是非とも」

「お、おう。わかったよ…」


鬼気迫る表情で服を押し付けながら迫るクレイ。ちょっと目が怖い。

結局押し切られて着替えることとなった。

ちょっと着替えて、クレイにお披露目して、すぐに脱ごう。



「まあ、素敵ですわ!」


勇者の服を着た俺を見てクレイが歓喜の声を上げる。

勇者の服は俺にぴったりのサイズだった。


自分でも着替えた姿を見てみたいと思ったが、この部屋には鏡はなさそうだ。


「鏡なら上の部屋にありましたわ」


俺の思考を察したクレイに言われて1階に戻ってきた。


うむ、なかなか似合っている…と思う。

仮面も中二くさいが今の格好に合わせるなら悪くない。

ちなみに赤いマントが標準装備されてたけど、それは外してクレイがくれたいつものローブを羽織っている。


「勇者殿、失礼するぞ。…………おぉ、おぉ………おぉ!」


やってきたのは長老。


長老は勇者姿の俺を見て感嘆の声をあげる。


「勇者殿が…………勇者殿が帰ってこられた」


またこれか。長老はあと何回俺を帰って来させる気だ。

俺が何かする度に拝み倒すのはいい加減やめていただきたい。


「是非ともそのお姿を皆に見せてやってはくれぬか?」

「いや、いいです」

「おぉ、いいですか。さぁさぁどうかこちらへ」

「いや、そのいいじゃなくて、結構です」

「結構でございますか、それは結構です、さぁさぁ」

「いやだからそうじゃなくて」

「さぁさぁ」


またこのパターンか!

長老は断る俺の返事を都合よく解釈して強引に宴の場へと押し進めた。



勇者姿の俺が姿を現すと、長老が口を開かずとも皆が膝をついた。

それほどまでにこの姿は象徴的なんだろう。


ふとルルと目が合ったが、ルルはつまらなそうな顔をしてどこかへ立ち去った。


「勇者殿」

「ん?」

「何卒、勇者殿に来て頂きたい場所があるのです」

「別にいいけど」

「ありがとうございます。おい、酒を用意してくれ、瓶でな」


長老の指示を受けた若い村人が一升瓶を長老に渡した。


「では、参りましょう」


長老は自分の背丈と同じ程の酒瓶を抱えて俺たちを先導した。



「ここですじゃ」


少し森を進んで抜けた先。


その場所には1m程の石碑が建っていた。

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