51 ススム、蟹と戦う(蜘蛛と戦わない)
サブタイトルの「○○のススメ」縛りを解除してわかりやすくします。
過去のタイトルも全部変えるかも
みんなが寄ってたかって俺を勇者にしようとしてくる。
魔王ってだけでもおなかいっぱいなのに、そのうえ勇者の称号とかいらないんですけど、どうやらみんなの中では俺が勇者ってことで確定らしい。
「んで、よしんば俺が勇者だったとして、勇者って何するんだ?」
「民の味方じゃ」
「魔王退治ですわ」
「別に仕事なんてないわよ」
勇者像は三者三様のようだ。
「魔王が動くような時代じゃないんだし、勇者のやることなんてないわよ。暇なら世直しの続きでもしたら?」
「世直し?」
「あぁ、記憶が無いんだったわね。侵略ごっこが終わった後のあんたはそりゃもう凄かったわよ。悪徳貴族をバッサバッサと切り捨てて、どれだけの貴族の首が飛んだか」
「殺人鬼かよ」
「殺して回ったわけじゃないわよ。まぁ中にはそういうのもあったけど。“この世界は腐ってやがる”が口癖だったわ」
「やつれすぎだろ」
「“金と召喚獣は裏切らない”も口癖だったわ」
「やっぱその勇者、俺じゃないってことにしないか?」
「あの、ひとつ気になった点があるのですが」
だんだん漫才と化してきていた俺とルルの会話にクレイが割り込む。
「なに?アルクレインラット姫」
「先程、魔王が動くような時代じゃないと仰ていましたけど、実は現在、王都に魔王が―――」
『うわああああああああ!!!!』
クレイの話は外からの叫び声と地響きに遮られた。
外に出ると、狩りに出たモグネコ族の男らが巨大な蜘蛛に追いかけられていた。
いや、蜘蛛ってか、蟹か?
男達は村に逃げ込み、追いかける蟹も当然、木々を薙ぎ倒しながら村に向かってくる。
「なんじゃあの巨大なゴアクラブスパイダーは!村に突っ込んできよる!」
「ダンジョンが一気に活性化したから変異種が生まれたのかもね」
「ススム様、どうなさいますか?」
「まぁ、やるしかないっしょ」
「勇者殿!何卒、村をよろしくお願いします」
「任せとけって」
村の奥へと逃げる村人の波に逆らって、俺、クレイ、ルルの3人は村の入口でゴアクラブスパイダーを待ち受ける。
ゴアクラブスパイダーは俺たちを前にして停止、威嚇するように両のハサミを揺らしてバンザイする。
「久々に目覚めたし、ちょっと運動でもしますかね」
「ここはススム様が勇者として村を守るべきでは」
「同じことよ。私は勇者の剣、私が闘うって事は勇者が闘うって事よ」
ルルはお尻に真横に据えた大剣に手をかけるが、鞘から抜くにはその幼く短い手ではとても足りない。
ルルは鞘から剣を少しだけ引き抜くと、勢いよく身体をひねる。鞘は体と一緒に回転し、鞘から抜けた剣だけが空に取り残される。回転の勢いそのままに剣を掴み、そのまま一回転して敵に向き直った。
「いくわよぉ!」
ルルはゴアクラブスパイダーの体の下まで駆け込んで、大剣を一気に振り上げた。剣は蟹の腹に強く打ち付けられたが、ゴアクラブスパイダーはビクともしない。
「かったーーーい!」
ルルは脚をばたつかせて全身に走った痺れを逃がす。
そこに目掛けてゴアクラブスパイダーのハサミが振られる。
「ぶべらっ!」
ハサミによるビンタを受けたルルは吹っ飛んで地面に刺さった。
障害を1つ排除したゴアクラブスパイダーはさらにこちらに接近、そしてまた挑発するように両手を広げて体を大きく見せる。
クレイは1歩前に出て鞘を握っている。
睨み合うクレイと蟹。
先に動いたのは蟹だった。
蟹は右のハサミをもう1本のハサミの根元にあてがい、そのまま切り落とした。
紫色の鮮血が降る。
「何やってんだこいつ…」
蟹は続けて脚も2本、自らのハサミで切り落とす。
そして再びバンザイポーズ。
「これは、ススム様に自身の身を献上しているのでは?」
「マジかよ」
血を吹き出しながら自身で自身の身を削いでいく巨大蟹の姿は中々にグロテスクだ。
ハサミ1つと脚2本を切り落としたゴアクラブスパイダーはアピールするようにバンザイポーズを見せて、大人しく去っていった。
『うおおおおおおおお!!!』
村から歓声があがる。
「勇者様が魔物を追い払ってくださった!」
「またしても村を救ってくれたんだ!」
「勇者様ばんざーい!」
一斉に群がってきたモグネコ族たちは俺を担ぎあげて胴上げする。
いや、俺なんもしてねーけど…
俺を称える祭り騒ぎはしばらく続いた。
夜の宴は大いに盛り上がっていた。
並べられた料理も昼とは比べ物にならない豪華さだ。
新鮮な野菜に魚、蟹の足も調理された。皆、豊穣が戻ってきたと喜んでいた。
洞窟内なのに何故か昇っていた日は夜になると月のように姿を変え、空には満天の星が輝いている。
そんな賑やかな祭りの隅っこで、ルルが膝を抱えて丸くなっていた。
落ち込んでいる様子だったので、ちょっと気になって声をかけてみる。
「どうしたんだ?」
ルルは顔を上げて俺を見たが、すぐに目を逸らした。
「………なんでもない」
「何落ち込んでんだよ」
「あんたのせいでしょ」
「はぁ?」
俺が何かしたか?
落ち込んでる原因は何となく察しがついている。
ルルは昼間、ゴアクラブスパイダーにやられてから元気がない。きっとあいつに負けたのが悔しかったんだろう。
「昼間の戦いだろ?気にすんなって、お前みたいなちっちゃい子があんな強そうな蟹に勝てるわけないだろ」
「あれは蜘蛛よ」
「………そうか」
蜘蛛っぽい蟹かと思ったら、蟹っぽい蜘蛛だったか。俺は蜘蛛を食っちまったのか……まぁいいか、美味かったし、元の世界でも昆虫食ってのはあった。
「あんな雑魚モンスターに手も足も出ないなんて、屈辱だわ」
「気にすんなって、あいつはでかかった」
「でかいからなんなのよ!雑魚は雑魚よ!あんたのせいで負けたんだから」
「だからなんで俺のせいなんだよ」
「………あんた、本当に勇者ガルファなの?」
「知らん。俺は魔王ススムだ」
ルルはまた俯いて黙り込んでしまった。
今はこれ以上話せないだろうと思って俺もその場を離れる。
「よろしいのですか?」
後ろに控えるクレイが聞いてくる。
「難しい年頃なんだろ」
「あら、もうお休みになられるのですか?」
「いや、ちょっと気になる事があってな」
俺は長老に使っていいと言われた家に向かう。
元々勇者が使っていたという事で、村からしてみれば俺の家ということになる。
昼間にタイショーと決闘した際に俺はこの地下空間の全てを支配した。今は自身のダンジョンとして隅々まで把握できている。
その中で勇者の家にちょっと気になる空間があることに気づいた。
ダンジョン内ならどこでも瞬時に移動できるためどこからでも行ける訳だが、クレイもいるしせっかくなので正規ルートっぽい場所を通っていこうと思う。
ということで、やってきたのは勇者の家の地下室。
部屋の中には壁際に置かれた空の本棚以外には何も無い。
クレイは黙って俺の行動を見守っている。
不自然に置かれた本棚をずらすと1枚のドアが現れた。
「隠し部屋ですか」
「まぁね」
半分正解。
このドアはフェイクだ。
俺が見つけたのはこの家の地下付近にあった密室の空間だ。
地面に埋もれているため、誰も入るどころか、普通なら見つけることすら出来ない。
俺はドアに手をかけると同時にダンジョンを操作し、その部屋をドアの向こう側に移動させる。
ドアを開いた先に現れたのは、8畳程の個室だった。




