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50 勇者のススメ4

それからは飲めや歌えやの大宴会だった。

村人たちは質素な料理と美味くもない酒を両手に大いに盛り上がった


用意された料理はお世辞にも立派なものとは言えない、貧相な野菜で作られたものばかりだった。

それがこれまでの、寂れてしまったこの村の最大限のもてなし。


だが今は違う。


陽が蘇り、土が蘇り、水が蘇り、森が甦った。

今朝ここに来た当初の、岩肌に囲まれた薄暗く陰気な村の面影は微塵もない。


ということで、豊富になった素材を使って夜も宴を開くらしい。


昼の宴会の後、男達は意気揚々と狩りに出かけた。


野菜は俺から提供した。

クエルダケにゴウライニンジン、それに次の仕入れ用の貰っていたトラトマト。それからその他各種野菜……その他の普通の野菜はいつ手に入れたんだっけ、まぁいいや。

野菜を創って思い出したけど、明日はピエールの店に品を卸す日だ。危うく忘れるところだった。


野菜を創造したらまた皆に担ぎあげられた。そのうえ野菜は使わずに祀っておくとか言い出したから、使わないなら渡さないと消してみせたらまた長老にめちゃくちゃ泣き付かれた。これ以上、俺の服を汚さないで頂きたい。




にしても、さっきのは何だったんだ。


俺は足元だけをダンジョン化しようとしたはずなのに、実際にはこの村全体、しいてはそこから続く空洞全てをダンジョンと化した。

能力を使った瞬間、俺の意志と無関係に支配領域がドミノでも倒したかのように広がっていった。


この空間、首都全土の地下を覆い尽くすほど広大だ。

そしてなにより、これはただの洞窟ではない。

元より人工的に作られたダンジョンであろうということだ。

整備された通路、意図的に作られた部屋、各所に設置されたトラップなどがエリア毎に施されている。


モグネコ族の村もダンジョン内にある以上、ダンジョンについて何か知っているかもしれない。


というわけで、これから始める午後の話し合いはその辺から聞いていこう。



―――と思って長老の家に行くと、新たな客が来訪していた。


子供のように小さな体に立派な鎧を装備したその子の容姿はリリと瓜二つ。背中に抱えている大剣までお揃いだ。


違いといえば髪の色が紅い事くらいだろうか。

それと目つきも違うな。リリが無気力な半目をしているのに対して、この子はつり上がった勝気な目をしている。

後ろ姿が同じでも顔を合わせれば随分と印象が違った。


「なによ、人の顔ジロジロ見て。どうせイヤらしい事でも考えてるんでしょ」


ギロリと鋭い目で睨みつけての第一声がそれだった。


「誰?」


と長老とクレイに目配せして聞いてみるが、その返答は本人から飛んできた。


「はぁ!?ふざけんじゃないわよ!わざわざこっちから出向いてやったって言うのに!本当ならあんたが私の部屋まで起こしに来て、それで!それで………目覚めの………チューを……」

「え?なに?」

「な、な、なんでもないわよ!」


尻すぼみに消えていった言葉の最後が聞き取れなくて聞き返しただけなのにまた怒鳴られた。なんなんだこいつは。


「切り捨てましょう」

「いやなんで!?クレイも大人しくしといてくれ」

「ススム様がそう仰るなら」


クレイはすぐに剣に伸ばした手を収めた。ネコモグ族の村に来てからというもの、クレイはちょっと怖いくらい従順だ。これも俺が勇者と呼ばれたことに関係するんだろうか。


「んで、俺の事知ってるみたいだけど、実際本当に誰なんだ。申し訳ないけどマジでわかんないから話してくれると助かるんだが」

「なに、あんた記憶喪失かなんかなの?5年前に急に消えたから何かあったんだろうとは思ってたけど」

「そんなとこだ」

「なんと!勇者殿は記憶喪失だったとは!それでわしらのことも覚えておらんかったという訳ですか」

「そんなとこだ」

「それで、私と恋仲であることも忘れてしまっていたのですね」

「そんなバカな」


クレイ、流れに乗ってこっそり嘘を挟むんじゃない。


「いいわ。本人に本人のことを話すのもなんだか変な感じだけど、この私が話してあげるわ!ありがたく思いなさい!」

「ていうかその前にお前は誰なんだ」

「大事なパートナーをお前呼ばわりすんじゃないわよ!」


いちいち声のでかい奴だな。鬱陶しくもあるけど、反応が面白くてついからかいたくなるタイプだ。


「ゴホン!私はルル、土の勇者の守護者にして第一の剣。あなたが最も信頼し、あなたが最も頼るべき相手よ!」

「ほーん」

「何よその気の抜けた返事は!もっとこう、感動とか驚きとかあるでしょうが!」

「いや、別に」

「くーー!!!」


ルルはいちいち顔を真っ赤にして声を荒らげる。


「んで、俺は?」

「話進めんじゃないわよ!まだ私が怒ってる途中でしょうが!」

「いいからいいから」

「良くないわよ!」

「ほら、落ち着いて」


激怒しているルルの頭を撫でる。高さ的にジャストに撫でやすい位置にあったので無意識に手が伸びた。


「はにゃ!にゃにゃにゃにおぅーするだー!こんなことされてもぅ……全然………嬉しくなんか、ないんだぞ………」


よく分からんが大人しくなった。

それにしてもこいつの頭、すごく撫で心地がいい。

ルルは何かぶつぶつ呟いている。


「バカ……お前はいつもそうやって………私の気持ちを弄んで…まったく……おい…ちょっと痛いぞ…やめろバカ……おいおいおいおいおいバカヤロー!」


ルルが俺の手を払い除ける。


「ハゲたらどうする!!」


どうやらやり過ぎたようだ。


「んで、俺は何者なんだ?」

「いやスルーかよ!……まったく。あんたは勇者、勇者ガルファ=ワールドエンドだ。魔王を倒し、この世界に平和をもたらした英雄様ということになっている。どうだ、自分の名前を聞いて目が覚めたか?」

「いや全然、勇者だなんだってのはみんなにも言われたし」

「なんじゃそりぁあああ!!もうみんなに教えてもらっとったんかいー!だったら私が答えたのはなんだったんじゃいー!」

「いや、みんなが勇者だ勇者だって言うけどいまいちピンと来なくて。だって俺、魔王だし」

「……………ハイ?おいバカヤロー!」


ルルは俺に飛びかかって口を塞いだ。


「バカかおまえ!お前!バカ!」


ルルは一通り俺を罵倒して、クレイを一瞥して、また俺に視線を戻した。

ルルは周りに聞こえないよう小声で話す。


「お前なぁ、勇者が魔王だってバレたらどうすんだよ」

「勇者が魔王?どういうことだよ」

「そのまんまの意味だよ。お前は魔王だろ?だからそういうことだよ」

「そういうことって、どういうことだってばよ」

「おまえ、そこからなのかよ。マジで頭イっちまってんな。土の勇者の正体はダンジョンマスターってことだよ。つまり魔王のお前が勇者で間違いないんだよ」

「ああ、なるほど」


言われてみればここまでの噛み合わなかった会話が合致する。


勇者と魔王は敵対するもんで、相反する存在。その先入観から、まさかその2つが兼用出来るものだとは思わなかった。

そうでなくても俺は自分が勇者であるなんて認識は微塵もなかったし。



……………いや、だとしても俺は勇者なのか?



魔王と勇者が兼業出来たとして、土の勇者がダンジョンマスターだったとして、だからといってそれが俺だとは限らないんじゃないか?


「いや、やっぱりみんなの言う勇者は俺じゃない気がするんだけど。だって俺がこの世界に来たのって2週間くらい前だぞ?」

「この世界?お前、転生だか転移だかしてきたのか?なるほどなぁ、それで見た目も変わって記憶もないってんだ。だとしてもだ、お前の波長を私が間違えるはずがないわ!だって私は…お前の1番の……1番の……」

「え?なに?」

「なんでもねぇよバカ!とにかく!勇者の正体が魔王だってのは機密事項だ!モグネコ族はいいとして、そこの娘には知られないようにな!」

「いやおまえ、そんな大声で言ったら嫌でも聞こえるだろ」

「あ…」


ルルはやってしまったという顔で冷や汗を垂らしながらゆっくりとクレイを見やる。


「私は知っておりましたので、お構いなく」

「ははっ……そうか…そりゃよかった……。よし!ノープログレムだ!」

「よかったな」


今の会話でわかったことは、俺が魔王がからという理由で勇者ではない事にはならない事と、ルルは残念な子ということだな。

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