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32 朝食のすすめ

「これは………」


俺の持ち込んだゴウライニンジンを鋭い目付きでまじまじと眺めて唸るピエール。


それから包丁で切って断面を確認、さらに生のまま齧ってみたり嗅いでみたりと細かくチェックする


「たしかにゴウライニンジンだ。かなり太ってはいるが、ただ無駄に実が大きい訳でもない。品質はうちの店で仕入れたものより上等だ」

「気に入ってもらえたかな」

「ふむ、素晴らしい。随分と大層なホラを吹く若者だと思ったのだが、すまなかった。許してくれ」


ムッシュピエールは優雅はお辞儀をして謝罪を述べた。


一晩でどんな植物でも最高品質で準備するなんて話、まともに考えれば嘘としか思えない。こんな話されたら俺自身だって信じない。

だからピエールが俺を疑っていたことについてはなんとも思っていない。

人を疑ってかかるのは騙されない基本だ。


「気にしないでくれ。あんたは俺の嘘みたいな話に付き合って素材を託してくれたんだ。それだけで十分だ。それじゃあ今後は…」

「もちろん、君と契約を結ぼう」

「よかった、ありがとうございます」


それから俺とピエールで明日以降の仕入れについて取り決めた。

基本的に週に2回、仕入れの際に次の仕入れの注文を聞くような形だ。


ピエールはゴウライニンジンの代金に色をつけてくれた。なかなか太っ腹な男だ。


これで一先ずは安定収入は確保出来たわけだ。金が溜まったら家でも借りるか?

この世界でもなんとかやっていけそうな気がしてきた。


安心すると急に腹が減った。

朝食はどうしようかと考える。


うーん、いつも通りギルドでとってもいいんだが、手元にはそこそこの金がある。この世界に来てこれほどまとまった金を手にするのは初めてだ。


金の入った袋を掲げて眺める。


使いたいな、美味しいものを食べたいな。


まだ早朝だが多くの店がすでに開店している。


冒険者や商人はこの時間には活動を始めるため、それを相手にした飲食店や道具屋なんかだ。


そのため、むしろこの時間は店としてもピークタイムの1つと言える。


しかし、落ち着いて美味いものが食えるかというと、そのような店はない。


言ってみれば早朝の出勤ラッシュを狙ったタイミングだ。簡単で回転のいい、実用性重視の店が多い。飲食店の多くは慌ただしくごたついているか、屋台のようなものばかりだ。


結局、めぼしい店も見つからないまま冒険者ギルドの前まで来てしまった。


そういえば冒険者ギルドにも食堂があったな。

初めて来た時は気づかなかったが、冒険者ギルドの隣が食堂となっており、外に出なくても扉を抜けてそちらへ移動できるようになっている。

普通は1フロアに両方収めるらしいが、王都など人が多い場所だと混雑を避けるために分けて作るんだとか。


空腹のままなのもなんだし、とりあえずそこで済ますか。贅沢は夜にとっておこう。


「あら、ススム様。ごきげんよう」


声をかけてきたのはクレイだった。クレイは今日も立派なドレスが素敵だ。


「思い詰めたような顔をしていましたが、どうかなさいました?」

「いや、飯屋を探してたんだが手頃な店が見つからなくて、どうしようかと思ってたんだ」

「あら、もしかしてリユースコレクションに何か問題がありましたか?もしススム様に失礼があったのでしたら今すぐ全員の首を撥ねてまいりますわ」


そういってクレイは俺の返事を待たずに剣の柄に手をかけて踵を返す。


「ちょ待てって、アーヴァインには良くしてもらってるよ。そうじゃなくて、ちょっとまとまったお金が入ったからいつもと違うものが食べたいなって思ってただけだ」

「あら、そうでしたの」


まぁ、全員の首を撥ねるとか冗談だよな。普通に笑ってたし。

こんな可愛い子が殺人狂なわけないじゃないか!


「ただまぁ目につく飯屋がなかったから、とりあえず冒険者ギルドで済ませようかと」

「そうですわ!ススム様、よろしければ一緒にクエストに出かけませんか?」

「いまから?なにかいい案件でもあるのか?」

「それは分かりませんが、食材を自分で獲るのです。きっと楽しいですわ」

「BBQ的なやつか。面白そうだな」

「えぇ、そうと決まればさっそくクエストを受注しましょう」


クレイは満面の笑みで揚々とギルドへ入っていく。

俺もあとに続く。


異世界のBBQか、ちょっと胸が踊るな。


狩るって言ってたからメインは肉だろう、タイミングがあれば俺の能力でクエルダケなんかを出してもいいな。なんて心を踊らせながらクエストを選ぶクレイに目をやると、クレイはクエストボードの右端、上級クエストの前に立っていた。

いつもありがとうございます!

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