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31 再取得のすすめ

「ふーむなるほど、それで是非とも試作品を食したいと。ムッシュススム」


最初に俺が向かったのはピエールの店だ。


俺の作戦はこうだ。


ゴウライニンジンを使った料理を出してもらう。

隙をついてゴウライニンジンを懐に収める。


キャッチアンドリリース、至ってシンプルだ。


「この時間にまだ素材を準備してないあたり、不安しか感じませんが、まぁいいでしょう」


ピエールは俺の頼みを受けてひと皿のスープを出してくれた。


俺はそれをスプーンで掬ってすする。


………うまい


すごく体に良さそうな味がして、芯から体温が上がるような感覚を感じる。それでいて野菜の出汁が効いた安心感のある味だ。薬臭さ、漢方らしい嫌な風味はない。


これはいい………、いや、よくない。


スープは素晴らしいが俺の目的はゴウライニンジンをどうにかすることだ。具のないスープでは計画が進まないじゃないか。


かと言って「人参を食わせろ」なんて言うのも怪しまれるだろう。


もしかしたらスープだろうとダンジョンに取り込めばゴウライニンジンを再現できるかもしれないけど、床に穴は開けられない。


俺は大人しくスープを味わって、何かを理解したかのように首を縦に振りって「ふんふん」言いながら店をあとにした。


作戦失敗だ。




さて、作戦その2にして最後の作戦だ。


こちらはにんじんの所在が明らかだ。


そんなのピエールの店の食料庫に決まってる、盗んでいまえばいいだって?


残念ながらピエールの店は見張りを立てている。俺もあの店ではダンジョンマスターの能力が使えないのでそれは却下だ。


じゃあそれ以外でどこに人参があるってんだい?

それはな、孤児院の子供らの腹の中さ。


そんなもんどうやって取り出すかって?

それはまぁ、ほら、成り行き任せだよ。


というわけで今は孤児院を監視している。


この時間は建物の明かりもほぼ消えて寝静まっている。

大半が子供なんだから当然だ。


さてどうしたもんかと監視を続けていると、孤児院から出ていく人影が見えた。


あれは、ヨーゼか。


ストリートチルドレンの窃盗団……窃盗はしてなかったが、保護された子供らの中でまとめ役をしていた年長の男の子だ。

背中には大きな袋を抱えている。


こんな時間にどこに行くんだ。


俺はあとをつけることにした。



ヨーゼは浮浪児の元を回り、袋に詰めてきた食べ物を配って回っていた。


ヨーゼ達は孤児院に引き取られたが、街の西側の1部はスラム街のようになっており、ストリートチルドレンもまだ多くいる。


今しか知らない俺からしてみれば“ただただ治安が悪い”としか思えないが、そうならざるを得なかった大きな出来事があったそうだ。


と言っても、やはり現状として孤児やホームレスが街に溢れているのは国のアフターケアが悪いせいだと俺は思ってしまうけども。


「いらねぇよ!」


食べ物を配って回るヨーゼに厳しい言葉をかける男の子がいた。


ヨーゼと同じくらいの歳だろうか。少し体格がよくて、後ろには取り巻きも何人かいる。


相手の強気な態度にヨーゼも1歩も引いてない。


「意地張んなよ。素直にもらっとけ」

「お前ら負け犬の施しなんかうけるか、裏切り者」


そう言ってパンを持っていたヨーゼの手を払い除ける。払われたヨーゼの手からパンが離れて地面に転がった。


「……あっ」

「おまえ……」

「な、なんだよ。俺にくれるもんだったんだろ。だったらどうしようといいじゃねぇか!」

「てめぇ!」


ヨーゼが男の子に飛びかかった。


そこからは揉みくちゃの喧嘩だ。地面に倒れて互いに上になったり下になったり、転がりながら殴ったり引っ張ったりしている。


ヨーゼが少し優位だろうか。相手には取り巻きがいたが、守ってもらってるって感じの幼い子ばかりで、一緒に悪さするような悪友には見えない。その子らは縮こまって泣きそうな顔して2人の争いをただただ見ている。


そのうち、男の子が抵抗しなくなった。

馬乗りになっていたヨーゼは立ち上がり、取り巻きたちに食料を渡す。


「こいつの分もだ。渡しといてくれ」


それだけ言い残してヨーゼはその場を去る。


少し進んだところで俺はヨーゼの前に立ちはだかった。


「な、なんだよ」

「こんな夜に1人で出歩くのはよくないなぁ」

「仕事だよ、頼まれてやってんだ」

「ふーん」


なるほど、孤児院から路頭の孤児への支援ってことなのか。

まぁそれもそうか。大量の食料を持ち出して夜に抜け出すなんて早々できることじゃない。


「お使いって事か、そりゃ偉いな」

「保護観察中だからな、やることはやるさ」

「感心感心、でも……」


俺はヨーゼに近づくと、極小サイズで創造したシビレルダケを口に押し込んだ。


「おま…なっ……うぐっ!」


膝をついて倒れそうになるヨーゼを受け止める。


「どうした。悪いものでも食べたかな?そりゃ大変だ。早く吐き出さないと―――なっ!」


ヨーゼの鳩尾に重いやつを1発。おっと勘違いしないでくれ、これは治療だ。ヨーゼが食べてしまった悪いキノコを吐き出させる為の処置だ。

相手がヨーゼで良かった。ほかの幼い子や女子だったらさすがにためらいを感じてしまう。


「て…め、この前の…仕返しのつも…り…か………うっぷ―――――おろろろろろろろ~」


そういやそうだ。こいつらには簀巻きにされた恨みがあったな。それを思い出すとちょっと心が軽くなった気がする。これでおあいこってことにしておこう。


「喧嘩両成敗だよ。お友達とは仲良くしないと」


私怨は隠してそれっぽい大人の言い分を聞かせておこう。俺は大人だからな。


教育と治療のための制裁。うむ、完璧だな。


本格的にシビレルダケが効いてきたのか、ヨーゼは気を失ったようだ。


足元をダンジョンと化して縦穴を創造し、ヨーゼの吐瀉物を吸収する。


これでおそらく問題は解決するはずだ。


それからさっきの子供らのところへ。


「向こうでヨーゼが倒れてるから、よろしく頼む」


ヨーゼに喧嘩に負けて伏している男の子に付いてる子達に一言声をかけておく。さすがに倒れたまま放置するのも可哀想だしな。俺って優しい。まじバファリン。



さて、寝床に戻ってきた。


手に入れたのはヨーゼのゲロリンチョ、たぶんだが、上手くいくはずだ。


最終手段としてピエールの店に盗みに入るという作戦もあったんだが、実行せずに済みそうだ。


さっそく創造を行う。ヨーゼの吐瀉物から得られたもの全てをダンジョン内に生成する。


床からポツポツと芽が出たかと思うと早送りでも見ているかのようにグングンと茎や蔦が伸びて床一面を緑で覆った。


「またやりすぎてしまったかな」


適当に蔦を握って引っこ抜く。

その先に付いていたのはジャガイモだ。


人参だからもっと葉っぱらしいやつだよな。

地面からまっすぐに伸びた茎を掴んで引っ張る。

今度は人参が出てきた。が………


「これって普通の人参、だよな」


人参は人参なのだが、前世で見慣れた赤色のザ・人参だった。

ゴウライニンジンとは雰囲気が違う。


「んじゃあ、こっちか?」


赤い花をつけた細い茎を引っ張る。出てきたのはまるまる太ったクリーム色の人参だ。


「ぜんぜん萎れてないけど……多分これだよな」


カブとも大根とも見間違えそうなパンパンなフォルムだけど、色と雰囲気的にゴウライニンジンだろうと思われる。


俺の能力は基本的に最高峰の品質で創造されるから、これがゴウライニンジンの完璧な姿ってことだろう。

ピエールには大見得切ったし、良くも悪くもちょっと変わったものを持って行っていいだろう。


創造できる野菜の種類が一気に増えた。

元がヨーゼのゲボかと思うとちょっとアレだけど、その事は早く忘れてしまおう。


はぁ…いつになったら魔物を創造できるんだ。これじゃ農家マスターだよ。


今日の仕事はここまでだな、おやすみなさい。

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