18 屋敷にすすめ
後半はストーリー進んでます。
洞窟の外に出て深呼吸。少し冷たい夜風が染みる。
切り立った崖から見下ろす夜の街は、所々に淡いオレンジの光が浮かんで綺麗だ。
せっかくベッドを作ったというのに、子供らが処刑されるかもしれないという話が頭から離れなくて全く寝付けない。
「命の営み、ねぇ」
あの時の言葉を思い出す。
こんな深夜に灯をともしているのは碌でもない大人達だろう。
だが今、この街のどこかで、まだ幼すぎて見えないほどの灯が大きな輝きになる前に摘み取られようとしている。
正直言って俺にとっちゃまったく無関係なことなんだが、どんな形であれ、縁を持って、約束もしてしまったしな。心が落ちつかないのはそのせいだろう。
はぁ、安易に約束なんかしなきゃよかった。自分で言い出したことながら気に病んでしょうがない。
正直に言うと、俺は俺自身の行動に戸惑っている。具体的にいえば、異世界に来てからの俺の振る舞いだ。
人との接し方や行動力に、元の自分と比べて大きな齟齬を感じる。
見知らぬ土地で裸一貫。生活基盤を築くため、情報を得るために上手く立ち回ることは今の俺にとって命を繋ぎ止める重要事項だ。だけどそれを差し引いたとしてもだ、余計な行動が多すぎる。
俺はそんなに積極的だっただろうか、横柄な性格だっただろうか、こんな口調だっただろうか。
薄々感じてはいたが……一言でいうなら、俺は『ロールプレイ』をしている。
意識してキャラを作って演じているつもりはない。だけどどこか、ゲームの世界にでも入り込んだような感覚に近いものでいるんだと思う。
周りの環境に押されてそうなっている面もあると思うし、自分でそうしてしまっている面もあると思う。
そして、そうやって自分を保っている面もあるんだと思う。
異世界に来たことに不安や恐怖を感じていないわけがない。
訳も分からず、何の前触れもなく連れてこられて、元の世界に帰れるかもわからない。
本当に、全く、何も分からない。
だけど考えてしまってはいけない。考え込んでしまえばどうにかなってしまうかもしれない。立ち止まってしまえば、一瞬で飲み込まれてしまうかもしれない。
異世界という響きに期待や憧れを感じているのも本心だ。考え込んでしまわない為に、今は気持ちを期待側に目一杯傾けて、明日を生き抜くことに目一杯思考を向ける。
きっと今はそれが正解だ。
はぁ………なに感傷に浸ってんだか。
さて、俺の知る漫画やゲームのキャラクターはどいつもこいつも何故そんなことをするのかってくらい厄介事に首を突っ込んでいたな。
義理やら正義感やら、自分の勝手な気持ちを満たすために鬱陶しいくらい他人事に巻き込まれにいっていた。
俺もロールプレイングついでに子供らに関わってやるとするか。
多大な苦労を背負ってまで人助けしてやろうなんて気持ちはこれっぽっちもない。
これはあくまで自分の為の行動だ。
俺は約束はなるべく守りたい男だ。
面倒だとか気が変わったとか、そういう自分勝手な気持ちで約束を守らないような行動をする自分がいると、どうにも後ろめたさで落ちつかない。
自分の気を沈めるために、気分よく安眠するために、ただ俺は自分の気持ちに正直に、やりたいように行動する。
理由もわからないまま訳の分からない状況に追い込まれたんだ。訳分からんついでに俺だって好き勝手やってやる。
俺は魔王、ダンジョンマスター:掘手ススムだ。
これから向かう場所を眺める。
街の中でも一際大きな屋敷だ。とりあえずは張本人から話を伺うとしよう。
ローブのフードを深く被り、俺は夜の街へ繰り出した。
やってきたのはこの街で2番目に大きな建物、ゴードンの屋敷だ。ちなみに1番は街の一番奥にそびえる城だ、言わずもがな。
屋敷の周囲は鉄格子で覆われ、警備が巡回している。
まぁ地上の警備は俺にとっちゃ無意味だけどな。
俺は穴を掘って地下に潜る。
土の中、正確にはダンジョンの中か。俺が掘った穴はすべて俺のダンジョンという扱いになる。
例えたかだか数mの縦穴だとしても、ここはもう魔物と死の香りが渦巻く恐怖のダンジョンだ、事実上はな。
そして、穴を掘らなくても穴の周囲を感じ取ることができる。
範囲は狭いが、ダンジョンの予備範囲というか、予定地という感じで穴を掘り進めてなくても多少の影響力を持つことが出来る。
おいおいススム君、なんだか急に成長してないかいって?
はっはっは、説明書を読んだのさ。
ベッドに横になってはいたけど全然寝付けなかったからな、気晴らしに『ダンジョンマスターのすすめ』を開いては閉じ、開いては閉じとしていたのさ。だから自分の能力の把握は若干進んでいる。
屋敷の下に空間を見つけた。たぶん地下室だろう。とりあえずそこから侵入するか。
見つけた空間の壁一枚手前まで掘り進めて、壁に耳を当てる。
静かだな。
続いて覗き穴程度の穴を開けて内部を確認。暗くて何も見えない。
次に顔が入る程度の穴を開けて、首まで突っ込んで空間を確認する。
どうやらここは牢屋みたいだな。
広めの空間が鉄格子で仕切られている。
俺は都合よく通路側に出たようだ。
とりあえず行くか。
ここから先は敵陣だ。深呼吸して高まった心拍を抑え、自分が通れるだけの穴を開けて地下室へ侵入する。
「ん…んぅ」
しまった!人がいたのか。
寝惚けたような女の声がした方をみると人影がのそりと起き上がるところだった。
目が慣れていないせいで影のような動きしかわからないが、身体を起こした人影はじっとこちらをみている。
騒がれるか?どうする?
「あら、どなたかしら。屋敷の者じゃないわね」
よりによってこの屋敷の身内のやつか。
騒がれるようなら対処しなきゃならないが、牢屋に入れられてるし、大人しくしててくれるならスルーしたいところだ。
女は未だに俺のことをじっと見ている。俺も女の様子を慎重に伺う。
「ふひひ、あたしに夜這いなんて物好きもいるものね」
女は落ち着き払っていて、声を上げる様子もない。
「助けを呼んでも誰も来ない地下室で美少女の私は抵抗虚しく誰とも知らない男に無理矢理あんなことやこんなことをされてひどい目に遭うのね。そしてボロボロになって捨てられた数ヶ月後、お腹に宿った新たな命に気づくの。ふひっ」
「しねーよ、んなこと!」
「ふひ、それじゃあ優しくしてくれるのかしら」
「なんもしねーよ」
「あら残念、ふひひ」
なんだこいつ、いきなり何言ってんだ。俺にひどいことされる様な事を口にするけど危機感を感じている様子が全くない。おつむがエロ同人誌で出来てんのか?あと笑い方がキモい。
目が慣れてきてだんだんと女の姿が見えてきた。
小柄で華奢な体つきに白髪のショートカット。眠そうなのとはまた違った、こちらを値踏みしているのか、それともただ力がないだけなのか判断しがたいジト目と、半笑いの様な口元から覗く鋭利に並んだ歯が目を引く。
そんな目つきと言動が噛み合って、その態度はこちらを小馬鹿にしているように思えてくる。
「ふひひ。それじゃあパパの命でも狙って来たのかしら」
こいつっ!
女は相変わらずの何考えてるかわからない目でこちらをじっと見ている。
「あら、違ったのかしら。ふひひ、まぁいいわ、大声あげられたくなかったら話し相手になってよ」
そう言って女は明かりをつける。
浮かび上がった牢屋には、ベッドや机、本棚などが並んでいた。
ていうかこれは牢なのか?たしかに鉄格子で囲われて閉じ込められているが、その中は立派な一人部屋になっていた。
「ふひ、立ち話もなんでしょ。こっちにきて」
そういって女は牢の扉を開けた。
閉じ込められてるんちゃうんかい!
明らかに怪しい。だけど騒ぎになることも回避したい。
おそるおそる、俺はこの不気味な女の誘いに乗って牢の中へと足を踏み入れた。
ハイペースで更新してますが、明日は忙しいので更新ありません。
でも隙を見て朝は更新するかもしれません。