殺し屋
俺は短剣で、標的である女の頸動脈を斬る。
標的の首から溢れ出した血液は、俺を紅く染め上げた。
短剣をしまい、掃除屋に事後処理を任せた。
もう日は傾き始めている。
早目に夜桜の家に戻ろう。
俺はなるべく人通りの無い路地を選んで歩く。
返り血を浴びたままなので、目立たないに越したことはない。
誰にも見つからずに夜桜の家に戻る。
「お邪魔しまーす」
キッチンの方からいい匂いがする。
「おかえ…ひぃっ!!」
キッチンから顔を出した夜桜は、俺を見て小さく悲鳴を上げる。
「あー……タオル貸して貰っていいか?」
驚かせたようなので、控え目に尋ねる。
「え、ええ。いいわよ」
少し動揺しながらも許可を出してくれた。
「何処にある?」
「リビングの本棚の横の籠の中よ」
「おお、あった」
真っ白なタオルが出てきたので少し躊躇いつつも、使わせてもらう。
タオルがすぐに紅く染まった。
「お風呂、入る?」
「ん、いいのか?」
前は女だったとは言え今は男だぞ?
「いいわよ。血だらけで家の中歩かれる方が嫌」
まあ、確かに。
一応拭いたがまだ残っているだろう。
お言葉に甘え、入る。
って、これ、なんか夫婦みたいになってないか?
あくまで俺は、短期間居候してるにすぎないけど。
夜桜がいいなら口に出さないでおこう。
風呂に浸かっていると、夜桜が壁越しに話しかけてきた。
「ねぇ、ユキって殺し屋なの?」
そういや俺ってどうなのかな?
うーん、収入になる依頼とかなら割となんでもやってるが……
ほとんどが殺しだな。
「その分類に入るかどうかは、俺自身も正直わからない。が、近いっちゃ近いな」
ふぅん、と気の抜ける返事が返ってくる。
「今日は殺し、したの?」
「してなきゃこんなに血を浴びてない」
俺が誰かに不意打ちでも喰らわない限りな。
「夜桜はどうなんだ?何の仕事してるんだ?」
よく考えれば俺、夜桜のこと名前と魔法くらいしか知らない。
「……殺し屋」
「こりゃまあ、可愛らしい殺し屋もいたもんだ」
「っバカ!!」
怒られた。なんで?
「そろそろ出る」
ぱしゃん、と音を立てて立ち上がる。
「あ、バスタオルと着替え、置いといたから」
礼を言って着替えてみる。
「……おい」
脱衣所から出て、ご飯を並べて座っている夜桜に声をかける。
「なにかしら」
「なんだこの服はっ!?」
俺に用意されていたのは白のワンピース。今それをきている。
「やっぱり似合う!!貴方髪長いし華奢だし顔も整ってて、背が低いから似合うと思ってたのよ」
似・合・う・かっ!!
「俺が持ってる服じゃないのか!?着替えって」
もう嫌だ……
俺は真っ赤になって怒鳴り散らす。
「あら、ユキのならぜぇんぶ洗濯したわよ?」
「5着くらいあったろ?」
というかこれ着せるために洗濯しただろ。
「買ってくる」
くるりと夜桜に背を向ける。
「その格好で?」
う…………
夜桜はクスクスと笑っている。
「一晩くらいそのままいたら?」
屈辱だ。今すぐ脱ぎ捨てたいが、女の子の前だ。
そうはいかない。
「お前なぁ……」
「家追い出されたく無ければ、そのままいなさい。意外と似合ってて可愛いわね」
先手を打たれた。可愛いもんか。
俺は仕方なく夜桜の向かい側に座る。
いただきます、と言って食べだす。
なんかよくわからない料理だが、どれも美味い。
「美味いっ!!」
夜桜は褒めると、真っ赤になった。
「ありがと」
素っ気なく返される。
照れ隠しであることは知っている。
完食してから、俺はベッドに入った。
翌朝、またもや書き置きと朝食があった。
『昼頃まで出掛けてくるわ。朝食、食べといて
夜桜』
とても美味い朝食を堪能しつつ書き置きする。
『ここに来るかわからない。世話になった。
有希』
実は、昨日の夜、ある電話がきたのだ。




