スローモーション
ゴーストタウンは廃墟の集まりだった。
ところどころに人を見かけるが、ギャングや賊だけだ。
目立たないよう、フードをかぶって進んでいく。
ゴーストタウンは案外狭かったので、すぐにエミリーのいる廃墟に辿り着いた。
堂々と入っていくと、番人らしき人が俺を引き留めた。
「何をしにきた、小僧」
小僧呼ばわりされるのは心外だ。
確かに少し背は低いけど、18歳だ。
「エミリーお嬢様を取り返しに」
みたところ、戦闘力はそこそこ。
戦っても余裕で勝てる相手だ。
番人は腰に差した剣を抜く。
俺は、拳銃を構える。
サイレンサーは着いていない。
ここで派手に音を出せば人が来るだろう。
うまくいけば、人に紛れて奥に進める。
失敗しても敵が増えるだけ。
どうせ雑魚だ。
この一発で、番人を仕留めよう。
相手は間合いを詰めようとしてきたので、頭に発砲。
即死だろう。
もうピクリとも動かない。
そして狙い通り、沢山の人が来る。
物陰に隠れ、人ごみが十分にできたところで奥へ進む。
1番奥まで誰もいなかった。
予想以上の効果だった。
いくつかちょっとしたトラップがあったがその全てが落とし穴だったので、床に気を付ければいいだけだった。
1番奥の部屋につく。
鍵がかかっていたが、蹴破った。
「エミリー!!」
エミリーお嬢様は両手両足を縛られ、口にガムテープを貼られて気絶していた。
エミリーだけしかいないのか?
いや、違う。
さっきの番人とは比べ物にならないくらいの殺気を感じる。
天井に潜んでいるようだ。
本人はうまく隠れているつもりのようだが、殺気がだだ漏れだ。
「いるんだろ?」
俺は天井に向かって言う。
「そこにいるのはわかってんだ、降りてこねぇと殺す」
声を少し低くして脅す。
すると俺の真上の天井が開き、男が一人落ちてくる。
ガトリング銃を持って。
6本の銃身を回転させ超大量の弾丸を1瞬で発射できる「ガトリング銃」は、撃たれた人間が痛みを感じる前にバラバラになることから「無痛ガン」の異名を持つほどの代物だ。
これはやばい。
俺は咄嗟に柱の影に隠れる。
次の瞬間、俺のいた場所の床は蜂の巣よりも酷いことになっていた。
エミリーはおそらくこの発砲音で目覚めただろう。
俺は長剣を二本とも抜く。
防げる、か?いや、無理だろう。
だが、このままではすぐに柱も蜂の巣にされる。
やるしかないのか…
俺は柱から飛び出す。
見えるは、ゆっくりと向かってくる沢山の銃弾。
ゆっくり?
金属音をたてて俺は全ての銃弾を長剣で弾く。
途端、俺の目に映る景色は元の速さを取り戻す。
なんだったんだ?今の。
スローモーションみたいだった。
「あ…うそ、だ…生きてる、わけ……ば、化け物!!」
男はガトリング銃から手を離して惨めなくらいに震え上がる。
「エミリーを、返せ」
男はコクコクと頷いて、逃げ出す。
まあいい。
今はエミリーを優先しよう。
エミリーに駆け寄ってガムテープを外す。
そして、手足も自由にする。
そのとき、エミリーは俺に抱きついてきた。
「ユキおにいちゃん!!怖かったよぅ」
小さな肩が少し震えている。
頭を撫でてやる。
「もう大丈夫だ。帰るぞ、エミリーお嬢様」
エミリーを抱きかかえる。
「…うん。あ、エミリーでいいよ」
エミリーは目に涙を溜めたまま、笑う。
気丈に振舞おうとしているのがバレバレだ。
俺は断じてロリコンではないが、エミリーのこういうところ、可愛いと思う。
「好きなだけ泣け」
無理をされては、こちらまで罪悪感を感じる。
「うっ……ふぇ…」
まだ幼いのに、無理して、感情を押し殺して、どんなに辛かっただろう。
どんなに悲しかっただろう。
大声で今、泣き叫ぶエミリーは普段より幼く思えた。
しばらくすると、エミリーは泣き止んだ。
ふと、視界の端に見覚えのある姿が見えた。
「夜桜」
俺は声をかける。
「夜桜?」
まだ濡れている瞳で俺に問いかけるエミリー。
夜桜なら、スローモーションのことが分かるだろうか。
「あとで話がある」
「なら、着いて行くわ」
俺はまだ状況を理解できずにいるエミリーに言う。
「夜桜は友達だ。気にしなくていい」
俺は、屋敷へと向かっていった。
○●○●○●○●○
日が暮れた頃に屋敷に着くと、アタッシュケース二つ分の報酬をもらえた。
それより今は夜桜を外で待たせているんだが。
泊まっていけと誘われたが、丁重に断った。
外に出ると、夜桜が腕を組んで立っていた。
「遅い。宿、決まってないのに」
「悪い。色んな誘いを断ってた」
宿、俺も探さなくちゃな。
「で、話って?」
さっそく夜桜が聞いてきた。




