旅人ユキ
「くそぉ!!覚えてろ!!」
山賊は逃げていく。
「にぃちゃんやるな。本当にただの旅人か?」
あんな奴、準備運動にもならん。
どうせ、弱いもの虐めしてるだけの山賊だろ?
「あ、あの…おにいちゃん。ありがとう!!」
今俺は山賊に襲われていた女の子を助けた。
「おにいちゃんのお名前は?」
一ミリの汚れもない、眩しいくらいの満面の笑顔。
「俺か?俺は有希。覚えなくていい」
女の子が俯いて“ユキ、ユキ”と復唱する。
「うんっ!!覚えたよ、ユキおにいちゃん」
覚えなくていいって言ったのを聞いてなかったのかこの子。
俺は女の子に背を向ける。
「あ、待って。私のお名前も覚えて。私、エミリー」
俺は振り返らずに手を振ってやる。
エミリーな。一応覚えておこう。
俺はアリスに出会ってから一ヶ月、旅をしながら人助けをしていた。
人助けは俺の心もとない収入源である。
だが、どうも手応えがない奴ばかりだ。
もっと強いのはいないのか?
ちなみに俺の武装は、2丁拳銃に短剣二本、長剣二本と後は投擲用のナイフがざっと100本。
あと鎮痛剤も少しだけ持っている。
俺の魔法は今だ不明。
魔法使うの、楽しみだったり。
さらに一ヶ月、人助けをしながら旅していると大きな街へでてきた。
看板の文字はもう解読して読めるようになっている。
規則性を覚えれば割と簡単だったよ。
ぶらぶら歩いていると、人集りが目に止まる。
人混みを掻き分けて進むと立派な屋敷の前にでた。
看板らしきものがある。
人々はこれを見て騒いでいたのか。
“力を有する者、午後三時にて屋敷の庭にて集え”
ほう、これは行ってみる価値がありそうだ。
俺は屋敷の庭へ入る。時間ギリギリ。
もう既に数十人が集まっていた。
「これより皆の中で最も強い者を決めてもらう。ここで自由に戦ってくれて構わない。周りの人を皆殺しにしたものが優勝だ」
庭のスピーカーからそう声がする。
殺戮ゲームだ。
ちょっとは手応えのある奴いろよ?
始めの合図があった。
辺りが騒がしくなり、金属のこすれ合う音や、銃声がする。
俺は塀にもたれてとりあえず傍観する。
目につくのは男ばかりで華がない。
皆こちらを見向きもせずに一対一の戦いに集中している。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
断末魔が轟いた。
俺からは見えないが奥の方で悲鳴が連鎖している。
断末魔が聞こえるたびに奥で血飛沫があがった。
前の方も少しずつやられていく。
その犯人が見えて、俺は唖然とする。
犯人は、深海色の髪をところどころ真紅に染め、漆黒の瞳で俺を見据える、死神のような大鎌をか細い腕で持ったーーーーーーーー少女だった。
あんな人畜無害そうな少女が、この大人数を殺ったのか。
もう庭に残っているのは俺と少女のみ。
俺は長剣を二本とも抜いて構える。
真っ赤に染まった少女は美しかった。
少女はゆっくりとした足取りで確実にこちらに向かってくる。
火花を散らして長剣と鎌はぶつかり合う。
ブンッと大鎌を振るので飛んで鎌の上に乗った。
このまま鎌を歩いて少女のところまで行けば確実に殺せるが、それでは面白味がない。
少女は焦ってめちゃくちゃに鎌を振り回すので降りた。
「こ、このっ!!」
鈴を転がすような可愛らしい声。
俺の首を真っ直ぐ狙ってきたので屈んで避ける。
すると、つま先部分に短剣のついた足が飛んできた。
あぶねえ。危機一髪。
大鎌の届かないところまで、転がりこむ。
「素直に首を渡せっ!」
「渡すかっ!」
つまり死ねということだろ?
好き好んで死ぬバカじゃねぇよ。
まさか俺が数秒でもピンチに陥るとは。
なかなかやるな。
1度体制を立て直し、死神少女に向き合う。
向こうは既に息が上がっているようだ。
俺は体力に自信があるのでまだまだ余裕だ。多分。
首に鎌を突きつけられる。
だが俺も死神少女の首に長剣を突きつけている。
相打ち。
「相討ちか。なら、今から決闘を、」
「待って。この人は、本気を出していないわ。私を殺すチャンスがあったのに、それをわざと見逃した」
バレてたのか。
「貴方、名前は?」
少女が俺に問う。
「有希だ」
「そう。私は夜桜よ。じゃあね」
そう言い残して夜桜は行ってしまった。
夜桜と入れ替わりに、1人の青年がきた。
「ユキさんにはお嬢様を助けに行って欲しいのです」
お嬢様ってことは金持ち!?
報酬期待できそうだ。
「どこにいるんだ?」
「ゴーストタウンの最北端の廃墟です。お嬢様の名前はエミリー」
エミリー、だと!?
「もしかしてだが、小さくて茶髪の少女か?」
青年は目を見開く。
「はい。もしや貴方がエミリーお嬢様が一ヶ月前に庶民の格好で家出した時に山賊から助けた“ユキおにいちゃん”ですか?」
うわ、あの子お嬢様だったんだ。
ていうか家出少女だったのか。
「報酬は十二分に用意します」
よし今すぐ助けに行くぞ!
と意気込んで屋敷を出たまではいいが、ゴーストタウンってどこだ?
聞いときゃよかった、と後悔する。
気を取り直して通りかかった老人に道をきく。
「あんた、ゴーストタウンに行きたいのか。それならここから真っ直ぐ行けばいつか着く」
「感謝する」
背を向けようとすると老人が口を開いてきた。
「生きて戻れるよう、祈っておく」
え、そんな危険なの?
まあ名前からして怖そうだけど。




