記憶の中のオルゴール02 side 果琳
頭がズキズキするような感覚に、あたしはウザったく感じながらも重い瞼を持ち上げた。
目に浮かんできたものは、オレンジのライト。
見たこともない風景にビックリして、一気に目が覚めた。
でも、体を起き上がらせようとすると、なんだか体がだるくて思うように力が入らなかった。
力を抜いてばたりと体を倒すと、横目に黒い枕カバーに乗っかった濡れた白いフェイスタオルが見える。
それは何かの大きさに沿ったように折られていて、それを見た瞬間なんだか分かった。
そうだ、今朝、あまり体調が良くなかったって。
だから、そのタオルは私のために濡らされたタオルだってことに今気がついた。
もう一度力を入れて上半身を起こすと、その部屋は寝るためだけの部屋と言えるように、ベッドが部屋の中央に置かれて、安眠を引き立てる落ち着いたライト、クローゼット、サイドテーブルの上に置いてある自分の携帯しかなかった。
当たり前のように誰一人としていない。
ちょっと目を動かせば、どこかへ繋がるドアがあり、人がいるのか明りがかすかに漏れている。
だるい体を奮い立たせ、体を起こすとあたしの服が着替えさせられていた。
声が出ていたらたぶんすんごく、絶叫が聞こえていたと思う。
頭の中は「なんじゃこりゃ」っていう混乱しかなく、どうしようって思いつつも携帯を握って、とりあえずベッドから降りた。
寝室のドアに近づいた瞬間、触れもしないのに勝手にドアが自ら開いた。
あたしはただビックリするしかなくて、おそらく家主であろう相手の影を見ただけだった。
「 」
やばっ、相手がなんか言ったけど、驚きすぎてなんて言ったかわかんない。
『聞いてる?』
相手がそういう口の動きをすると、あたしは我に返ってしゅんとした。
『寝てなくていいのか、って言ったんだけど』
それが眼の端に見えて答えに困った。
この場合どうやって答えればいいんだろう??
たぶんこの人、手話見ても分かんないし……。
そう考えてるあたしは右手に、携帯を握っていることに気がついた。
考えに思い至ると、あたしはすぐに携帯をメール作成画面に切り替えて、文字を打った。
尻目に目の前の人が怪訝そうな顔で見て言うのがわかる。
『迷惑をかけて、ごめんなさい。ビックリして、口の動きを読むのを忘れてました』
でもそれで悟ったのか、その人はあたしが耳が聞こえないと分かったらしい。
文字を見てから、その人は口を結んで見下ろす。
逆光であんまり顔が見えないけれど、迷惑をかけているのには変わりないから、文頭にそうあらかじめ打って置いた。
それから、その人はあたしの横を通り過ぎて、手に持っていたボウルをサイドテーブルの上に乗せると振りかえった。
そして、よっぽどこの人はサプライズが好きなのか、あたしは更にまたびっくりするんだ。
その人はあの大画面に映っていたLenだったから。