記憶の中のオルゴール01 side 果琳
どうしてだろう。
音を失くしたはずなのに、歌が聞こえた気がしたのは。
まるで止まってしまったオルゴールが、ネジを巻きなおして、再び鳴りなおすかのように。
1人思うままに足を向けて見れば、街の大画面通りにいた。
目の前にはたくさんの人がいて、週末だからか2人で寄り添うカップルが多い気がした。
ただ気の向くまま。
あたしはぼーっとその場で座っていた。
途中で私の視界を遮る人がいたけれど、特に何も気することはなかった。
目を閉じれば、この世界は一人きりになるから。
ある時間になると周辺にいた人たちの視線が一つに絞られた。
それに気がついたあたしも、そこに視線を送ってみる。
そこにあったのは、生放送で行われる音楽番組。
音を捨てたあたしには興味こそわくけれど、特にこれといって気には留める必要はない。
だって歌詞の内容は理解できても、その人がどのように声の強弱をつけて歌ってるか、なんて聞こえないから。
歌って何だっけ??
時々そんなことを思ってしまうあたしがいる。
6年前、10歳の時に事故って以来、あたしの世界は狭まった。
でも、この時だけ、その大画面に映ったその人の顔をボーっとしながら見ていた。
なぜか今大画面に映る歌手の顔が、あたしの頭に違和感をもたらした。
何故だろう……?
この人を知っているような気がする。
そう思った時、空を広く覆っていた雲から、少しずつ水滴が落ち、突如大きな粒の雨が降り出した。
今朝の天気予報には雨マークが付いていたのかもしれない。
雨が降りだすとみんな手に持っていた傘を広げ、あたしの視界を遮り、歌手の顔を隠していく。
でも私は、雨が降っているのも気にせずに、大画面の前に突っ立って、頭の中に聞こえもしない歌をいつまでも繰り返していく。
忘れちゃいけない記憶のように。
雨粒が痛いほどあたしの体を打ち付けていく。
そろそろ帰らなくちゃ。そう思った時、急に雨がピタリとやんだ。
どうして、と空を見上げるとそこには一本の傘が雨からあたしを遮っていた。
雨を遮る傘を辿って行くと、そこには頭一つ以上背の高い男の人が立っていた。
人通りの多いオフィス街。
顔を覆うようなサングラスを掛けて、ちょっと胡散臭いホストのように見えたけど、少しだけ顔を傾けて何か喋ったみたいだ。
その口の動きを読み取れなかったあたしもまた、首を傾げてみてその男の人を見上げた。
『これ使って』
読み取った瞬間、あたしはぶんぶんと首を横に振り断わりの態度を示した。
知らない人からものを受け取っちゃいけませんって、お母さんから口うるさく言われてたし!!
でもその人は、ただふわりと口元を緩めるだけで、あたしの右手を持ち上げるとしっかり傘の柄をあたしに持たせた。
それをただぼんやりと見つめていると、急に目の前をひらひらと遮るその人の手が見える。
その人を見上げると、なんだろう……足元がふらついて目の前が真っ暗になった気がした。




