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人見知り勇者さんは、今日もどこかでぼっち飯。  作者: 天野 肇
3食目 サラマンダー麻婆豆腐 地獄仕立て

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3

 宿の扉を開けると、暖炉《だんろ》の火を囲んでいた仲間たちがこちらを見た。


「おかえりなさい、勇者さん。お散歩どうでした?」

 戦士が笑って出迎えてくれる。


「え……ちょ、どうしたんですか。その顔。なにがあったんですか?」

 神官が驚いて目を丸くする。


「やだ勇者、すごい汗じゃん」

 俺の有様にドン引きする魔法使い。


「はあ? なになに。ドラゴンでもブッ倒してきたってのか?」

 近からずも遠からずな弓使い。


「とりあえず中に入れ、寒かっただろ」

 武闘家が手招きする。


 仲間たちの、そのいつもの光景に安心して、俺は扉の前で骨を抜かれたようにズルズルへたれた。


 喉からカスカスとしか音が出ない。

 とりあえず、懐《ふところ》に入れていた麻袋を戦士の胸に押し付ける。


「は、え……え――。なんですか、この大金⁉︎」

「はあ⁉︎ ほんとに何してきたの⁉︎」


 沈むような重さの麻袋の中身を見て仲間たちが囲んでくる。

 口じゃ説明できないので、手振り身振りで伝えてみる。


「激辛チャレンジで10万モート⁉︎」

「確かにそんな張り紙あったけどさ、普通行く……?」

「んで全部食ったってのか⁉︎」


 馬鹿でしょと床で笑い転げる弓使い。

 表情を引きつらせる魔法使いに続けて、武闘家が冗談だろと詰めてくる。


 指で「食った」とだけ示すと、神官が手で顔を覆った。


「なにやってんですか、もう」

 彼女はため息と共に手際よく治癒魔法を唱えてくれる。

 喉の痛みがじんわり和らぐ。


「金欠だからって。なんでそんな無茶しちゃったんですか」


 隣で本を使ってあおいでくれる戦士。

 そりゃあ……。


「装備も……準備も……ちゃんと、……じゃ……ないと。……仲間は……誰も……しなせ……られ……ない」


 この先、絶対に、誰一人として無事でなければ、意味がないんだ。


 神官が「……もう」と再びため息を吐く。

 その声が、火のぱちぱちという音に混じって消えた。

 魔法の癒やしが喉を通り抜けていくと、ようやくかすれ声が出るようになる。


「これで……安心して、先に進める、ぞ……」


 その一言に、戦士がぱっと笑った。

 弓使いも魔法使いも、呆れ顔でそれぞれ肩をすくめる。

 神官が心底呆れたように呟く。


「まったく。ほんっと……私たちの勇者さんって、人見知りで放浪癖があって、言葉少なくておばかなうえに、全部背負い込みたがるめんどくさい勇者さんですよね」

「ほんとだよ」

「ほんとほんと」

「真面目すぎるとハゲるぞ、この先」


 魔法使い、弓使い、武闘家が迷わず頷《うなず》いて。

 俺、泣きそうになる。


「……でも、そういうとこ、嫌いじゃないですよ」

 神官が銀色の三つ編みを肩から垂らして微笑《ほほえ》んだ。


 暖炉の火がぱちりと弾け、仲間たちの笑い声がまたひとつ重なる。


 その時。喉の奥にまだ残る火の味が、ふいにぶり返してくる。


「……ッ、げほっ」

「ちょ、また辛さ再発してる!?」

「勇者さん、今日はもう安静にしててください」

「蜂蜜湯《はちみつゆ》、用意するか?」

「あ……」


 もう動くなとソファに運ばれ、俺は目を閉じる前に小さく手を上げた。


 少しの間。全員が振り返る。


「…………でも」

「でも?」

「一回完食できたんだから、二回目も頑張ればいける気がする……」


 20万モートはうまい。


「やめろや」


 平手打ちのような突っ込みが飛び交った。

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