和んだら……
「よければ、差し上げますよ」
土岐さんは。
テーブルに置かれた香袋を。
私の方へと滑らせた。
「え? いいんですか?」
「これも、巡り合わせ。美鈴さんから教わったものを、相川さんが持つのも……もちろん、強要ではありませんよ」
「いえ、是非。ありがとうございます」
香袋を手に取って。
顔に近づけると。
清涼感のある匂いが。
鼻腔に抜けた。
この香りを嗅ぐと。
心が和らいでいく。
香袋を握りしめた手を。
そっと。
膝の上に置いて。
背筋を伸ばした。
「ちょっと、想い出したんですけど、実は……この匂い、子供の頃にも嗅いだことがあるんです」
「あら。それはまたどこで?」
「えーと……」
私は。
土岐くんの名は伏せて。
運動公園での事故のこと。
それをきっかけに知り合った男の子から。
同じ香がする小瓶を貰ったことを話してみた。
「ああ、想い出した。相川さんがテニスで勝てなかったって、話してた子か」
「うん」
一色くんが。
昔の話を覚えててくれて。
自然とはにかむ私。
「その子もね、おばあちゃんに作って貰ったって言ってて、苗字が……土岐だったんです」
「え……!?」
「あら……」
「もしかしたら、こちらに関係ある子だったのかなって……」
「そうですか。下の名前はご存知?」
「いえ……」
あれ?
昨日……
何か見たような……
「さすがに、僕は分からないな……上のばあちゃん分かる? テニスが上手いってだけでも、ヒントじゃない?」
「そうね……香袋は家の者なら知ってるし、土岐という名前は、私の長男と次男、それに妹の長男の家が継いでるんですよ」
頬に手を添えた土岐さん。
「どう? 心当たりない?」
「そうね。二人と同い年でしょ?
人数は多いとはいえ、孫やひ孫のことは、だいたい覚えてますけどね……拓斗に一哉でしょ……それに……でも、テニスをしてたかしら……」
「ああ、ごめんなさい。変なこと聞いてしまって」
「いいえ。構いませんよ。そうね……小学校3年生頃……そうだわ」
トンと。
膝を叩いた土岐さん。
「なに? 何か分かったの?」
「いいえ、違うのよ。相川さん、その男の子の顔、写真見たら分かるかしら?」
あっ。
頭にぼんやりと。
土岐くんの姿が浮かんだ。
「うろ覚えですけど……」
「毎年ね、親族で集まった時に写真を撮ってるの。ちょっと取ってきますから」
土岐さんは。
テーブルに両手をついて。
立ち上がった。
「あ、はい。ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げた。
なんか。
大事になっちゃったかな。
握りしめていた香袋を。
そっと。
持ち上げて。
息を吸い込んだ
お読み下さりありがとうございます。
感謝しております。




