茜色に染まる教室
一色くんの部活……
なんだっけ……?
ダメだ。
さっぱり想い出せない。
「くしゅん!」
ああ。
ちょっと寒気がしだした。
布団の中にもそもそと潜り込んで。
丸くなる。
あのオルゴールの放課後は。
覚えているのに。
スマホを抱きしめながら。
目をつむる。
そう――
夕焼け色の教室。
オルゴールが止んで。
「活動的だけど、ロマンチストなんだね、相川さん」
一色くんの声に射抜かれて。
鼓動を消化出来ないでいた。
「相川さん、テニスはいつからやってるの?」
「あ、えーと。小学校から。両親がテニスをやってて。物心付いた頃には、ラケット握らされていたみたい」
「ハハハ。そうなんだ。英才教育だ」
「ううん。そんなこともなくて。ただ、好きなだけだよ。小学校の頃が、私のテニスのピーク」
「そうなの?」
「うん。地区ではそこそこね。低学年だと男女も区別なく試合するんだけど、どうしても勝てない男の子がいたんだ」
「ハハハ。負けず嫌いなんだ。相川さん」
「そうなのかな。でも、その子、ぷっつり見なくなったんだよね」
「そっか」
「あっ。ごめんなさい。なんか私ばかり喋っちゃって」
「いや、構わないよ。それより……」
一色くんは。
こめかみを人差し指で。
ぽりぽりとかいて。
目を細めながら。
私を見つめてきた。
きゅって。
金縛りになったみたいに。
釘付けになった。
「よかったら、一緒に帰らない?」
思わぬ問いかけに。
夕陽に照らされた私は。
一段と赤くなっていた。
淡い黄色の光を帯びて微笑む。
一色くんの眼差しから。
逃れるように。
視線を逸らして。
うつむいて。
でも。
膝の上の指はせわしない。
ちょっと。
どうするの?
呼吸と鼓動がちぐはぐになって。
行きなよ。
一緒に帰るくらいでしょ。
いやいや。
何を期待してるの?
なんにもないよ。
今日、初めてまともにしゃべったんでしょ?
いやいや。
わかんない……
「無理ならいいんだ。相川さんともう少し話してみたいなって思っただけだから。じゃあ……」
オルゴールを手にして。
前に向き直った一色くん。
ごそごそと動いて。
背中を見つめるだけの私。
ぎー。
椅子が引かれて。
一色くんは立ち上がる。
「気を付けてね相川さん。じゃあ、また来週」
声が出せなくて。
何も言えなくて。
ただ。
うなずいていた。
とんとん……
足音が。
ゆっくり離れていく。
その背中を目で追って。
一色くんは廊下に消えた。
ふにゃふにゃと。
タコのように。
机に突っ伏した。
その表面が冷たくて。
火照った頬の熱を吸いとっていく。
心地よいのがしゃくだけど。
余韻をひきずる鼓動は。
収まる気配はなくて。
色んな私が会話をしだす。
チャンスだったんじゃない?
見せかけの勇気の私が。
ぽろりとこぼす。
分かってるよ。
でも。
しょうがないじゃん。
そんなに上手に出来ないよ。
志帆なら。
いいよって言える。
亜季なら。
連絡先の交換とかしてる。
あー。
じたばたと。
足踏みをする。
はぁ……
ため息を一つ残して。
ゆっくりと体を起こす。
はぁ……
ぼんやりと眺めた窓の外。
暮れなずみはじめた街並みに。
一つ二つ。
明かりが灯りだしていた。
それから。
一色くんとは。
休み時間に話す程度の仲にはなった。
他愛のない内容。
授業のこととか。
ただ、あの日の偶然のように。
二人だけで。
何か心が震えるような。
会話は出来なかったし。
誘われることもなかった。
ピコン。
あっ。
いけない。
返信忘れてた……
ていうか。
一色くんの部活って……
あれ?
岡田じゃなかった。




