93話 託された願いの、その先へ - 真実と決意の継承
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「……また会ったな、アリア・アルベール」
静まり返った王の間に、冷ややかな声が響く。王の間の玉座の一段下に立つ男。――カシエル・クロード。
かつて王立錬金機構の副長官として名を馳せ、十四年前に姿を消した男。捕らえられたはずの彼が、なぜここに? アリアの足が自然と止まった。
「どうして牢にいたあなたが、ここにいるの……」
アリアの問いに、カシエルは小さく笑った。
「私は必要とされている。皮肉なことに、私の知識と技術を求めたのは、かつて私を追放した王族だ」
「……!」
怒りが込み上げる。けれど、それより先に、カシエルが語り出した内容がアリアの胸を冷たく締め付けた。
「君の母――ユリ・アルベール。彼女は、私の研究において極めて貴重な素材だった」
「……っ、素材……?」
アリアの喉が凍りつく。
「そう言うと、君は当然拒絶するだろう。だが、私の研究は精神構造そのものに関わる。ユリは特異な精神波長を持っていた。聖女サクラの血を引く者として、彼女の存在はこの国の支配構造において欠かせないキーだった」
「そんなの……勝手な理屈よ!」
アリアは杖を握りしめる。その手が震えているのは、怒りのせいだけではなかった。
「君は知らなかったのか。ユリは、君を抱いた夜に予知を見た。だから、逃げた。君を連れて、アルトリア王国を出た。彼女の中で“家族”は何よりも大切なものだった。だが、それすら“制度”からは逃れられなかった」
「……」
思い出す。母の微笑み、いつも寂しげだった目。──あれは、未来が見えていたから?
「ミストラル村……あの焼き討ちも、あなたが?」
「痕跡を消すためだ。地下には研究施設があった。民間人を巻き添えにしたのは……効率の問題だった。必要な犠牲だ」
「……人の命を、何だと思ってるの……っ」
「君の父、オーウェン・アルベールもそうだったな」
その名に、アリアは息を呑む。
「彼は事故ではない。君の母と君を守るため、真実を封じた。ウィステリア王国にエレノアを託した後、彼は……暗殺された。事故に見せかけてな」
「……そんな……!」
世界が揺らぐ。母を、父を。奪ったのは、この男の手引きによるもの。全身の力が抜けそうになった瞬間、背後から誰かがそっと支えた。
「立て、アリア。君がここで崩れたら、両親の死が浮かばれない」
師匠――マコトの声。アリアは息を吸い、杖をしっかりと握り直した。
そのとき、王の間の奥からもう一人の男が現れた。
「おやおや、まさか私の登場がそんなに静かに迎えられるとは」
白銀の髪、冷えた微笑み。エルヴァン。アリアは初めて目の前に立つ男を見つめた。
「あなたが……エルヴァン……」
「そう。私は“王家の落胤”……と信じて育った者だ。母は口を閉ざしていたが、私の中には王族の血が流れていると……ずっと、そう信じていた」
アリアの目が細められる。彼の表情からは、どこか哀しさと憧れが滲んでいた。
その時、そっとエリオットがアリアの隣に歩み寄り、低い声で話し始める。
「……あなたの父については、私も調べた。しかし、本当に信じてきた相手が“真実”だとは限らない……あなたが見ていた景色の裏には、まだ語られていない過去があるはずだ」
エルヴァンは一瞬言葉を失い、やがて苦い笑みを浮かべた。
「だからこそ、我々はこの国の仕組みを変える。血と制度で縛られた支配構造を破壊し、意志を上書きする“秩序”を打ち立てるのだ」
「そんなやり方で……っ」
アリアは叫ぶ。杖の先に、光が宿る。
「私は……母も、父も。そんな世界を望んでなんていない。人の心を、意志を、操作するなんて……間違ってる!」
マコトが横に立つ。
「さぁ、始めようか。ここからが本当の闘いだ」
王の間に、静かに、しかし確かに戦火の気配が満ちていった。
ーーー94話へつづく
※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。
作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。
あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。




