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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第六章 王都セントラル編
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89話 友の無念 - 眠っていた父母の真実

✪読んでくださり、ありがとうございます。

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埃っぽい空気の漂う一室に、カイルとエレノアの足音だけが静かに響いていた。

ここは、かつて商人ロウレンツ家が暮らしていた屋敷。数年前、突然一家が消息を絶ったという話を聞き、アリアの導きでこの場に辿り着いた。


「……本当に、ここだったのね」


エレノアは小さく呟き、窓辺に積もった埃を指先で拭いながら、静かに目を伏せた。

胸の奥に広がるのは懐かしさではない。かつての思い出が、今や無惨な現実に変わっているという事実への痛みだった。


彼女がこの家を訪れるのは初めてではない。しかし、その時には知らなかった。ここが、幼い頃の親友——リリア・ロウレンツが家族と共に暮らしていた場所だとは。


カイルがふと部屋の片隅で何かを見つけた。


「エレノア、これ……遺品だと思う。お前の探していたものかもしれない」


彼の手には、埃を被った古い木箱が握られていた。蓋を開けると、中にはリリアの母が所持していたらしき手帳や数枚の手紙、そして一通の巻物が収められていた。


エレノアが震える手で巻物を取り出し、広げると、見覚えのある王宮の印章が目に飛び込んできた。


「……これは、王宮直属の命令書……しかも……」


その内容は衝撃的だった。エレノアの両親が“王宮の機密を漏らした疑い”で抹消対象とされていたこと。そして、それを命じたのは、現在王宮内で権力を握っている貴族のひとりだということ。

さらにその末尾には、同様の理由で「ロウレンツ家も監視・排除対象」と明記されていた。


「リリアの家族も……私たちと同じく、巻き込まれたってこと……?」


足元から世界が崩れていくような感覚に、エレノアは思わず膝をついた。

彼女の心に刻まれていた両親の死と、リリアとの別れ。それがすべて、王宮の“都合”によって仕組まれていたものだったという事実。

信じたくない。でも、証拠は目の前にある。


「私……こんなことのために、友達を……家族を……」


自責と後悔が、胸を締めつける。

その時だった。カイルがそっと、彼女の肩に手を置いた。


「エレノア、お前は何も悪くない。悪いのは、真実を隠し、罪なき者を消した“あいつら”だ」


彼の言葉は静かで、けれど芯の通った強さを持っていた。


「エレノア……お前はもう、誰かのために泣くことを恐れたりしなくていい。正しいことのために怒っていい。それが、お前の両親やリリアが望んでいたことだと思う」


エレノアの瞳に、ふっと涙が浮かぶ。だがそれは、悲しみだけのものではなかった。

幼い頃の記憶が蘇る。中庭で一緒に花を摘んだこと、絵本を読みあったこと、そして、二人のために贈られた、あのオルゴールの優しい音色。


「……ありがとう、カイル。私は、もう逃げない」


エレノアは静かに立ち上がり、震える指で手帳と命令書を抱きしめた。

決意を宿した彼女の目は、迷いを捨てていた。


「リリア、私はあなたの無念を必ず晴らす。……それが、私の戦う理由」


窓の外には、沈みゆく夕陽が淡く差し込んでいた。

その光は、長い闇の中でようやく見つけた、真実の道を照らすかのように、暖かかった。




ーーー90話へつづく

※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。

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